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夜。
元貴の家。
キッチンの電気だけつけて、
フライパンで作った簡単なご飯を
テーブルに並べる。
白ごはん。
適当な炒め物。
味噌汁。
「……まあ、いいか」
一人分。
椅子に座って、
スマホを立てかける。
若井に、ビデオ通話。
数秒で、画面が切り替わった。
画面の向こうの若井は、
部屋着で、
ソファに座っている。
『どしたの』
「今いい?」
『うん。飯?』
「自炊。
そっちは」
『コンビニ』
お互い、
特に気にしない。
箸を持つ。
少し食べてから、
元貴が言った。
「今日さ、
朝のキーボード録音されてて、聞いたんだけど」
若井の動きが、
一瞬止まる。
『……どこまで』
「俺らが来る前」
若井は、
画面を見たまま、
ゆっくり息を吐いた。
『どうだった』
「正直に言うぞ」
『うん』
「怒ってる音じゃない」
『……』
「限界の音」
若井は、
目を伏せた。
『俺らが入った時、
もう終わったあとだったってことか』
「そう」
『……きついな』
「きつい」
少しの沈黙。
元貴は、
味噌汁を一口飲む。
「だからさ、
迎えに行かない」
若井は、
すぐうなずいた。
『俺も同じ』
「戻ってきても、
あのスタジオのままなら
意味ない」
『分かる』
「俺らが先に直す」
『スタッフにも言う』
「頼む」
若井は、
スマホを少し近づけた。
『……生きてる感じはする』
元貴は、
画面を見て、
小さくうなずく。
「俺もそう思う」
『連絡来たら?』
「短く返す」
『踏み込まない?』
「待つ」
『……待つか』
画面越しに、
同時にご飯を食べる。
会話は少ない。
でも、
黙っていられる。
『飯、ちゃんと食えよ』
「若井もな」
『はいはい』
通話を切る前、
若井が言った。
『あの場所、
涼ちゃんの居場所だからな』
「分かってる」
通話終了。
画面が暗くなる。
元貴は、
もう一口ご飯を食べた。
自分で作った味。
雑だけど、
ちゃんと現実だった。
「……待つ」
そう呟いて、
箸を置いた。