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side藤澤
やってしまった。元貴にあんなことするつもりはなかったのに気付けば身体が動いていた。
あんな風に押し倒して押さえつけて···驚いて怯えたような目で僕を見ていて、可哀想で···たまらなく可愛いと思った僕はひどい奴だ。
好きだと伝えてから余計に好きが止まらなくて、けどそれを元貴に気づかれないように距離を保って接してきたつもりだった。家には泊まらない、自分から誘って部屋には行かない、不意に触れたりしない···元貴が求める時にだけ望むようにしてあげたい、そうでないと若井さんにも申し訳ないと言い聞かせていた。
でも腕に元貴の手の温もりを感じてヘンな気持ちになりますか、なんて。
なるに決まってるじゃないか。
こんなにも大好きで愛おしいんだから。そう思うとあんな行動に出ていて、けどすぐに我に返ってキスをしなかったことだけは自分を褒めてやりたいと思った。
次の日、会社で会った元貴は何か言いたいけど言えないようななんとも言えない表情で胸がチクチクと痛んだ。
「ごめんなさい!土曜は嫌な思いさせて。もう絶対しない、部屋にもしばらく行かないから···ごめんね、本当に」
「藤澤さんは悪くないです、俺が不用意なこと言って···ごめんなさい」
元貴は僕に優しくそう言ってくれて、僕の手を握ろうとしたのか手を伸ばしてくれたけど、僕は元貴に触れるのが怖くて手を引いてしまった。
「ううん、僕が悪いから···ありがとう元貴、ほら仕事しよっか」
ほらまた元貴が泣きそうな顔をした。
今の僕じゃ笑顔にさせるどころか辛そうにさせてしまうだけだ。
仕事に集中して、出来るだけ元貴に近づかないように気をつけた。
週末に誘うこともしなかった、反省してないって思われるのが嫌で。
そんな毎日が淡々と過ぎて25日のクリスマスが来て、といってもただの平日で僕は家で1人いつも通りに過ごしていた。ここ最近元貴とゆっくり話をしていないけどきっと今年も若井さんとクリスマスを過ごしているんだろう。
···泣いてないと、悲しくないといいな。ただ幸せに過ごしていますように。それだけを祈って早めに寝ちゃおうとした時、インターホンがなる。
こんな時間に誰だろう···?
不審に思いながら出るとまさかの人物が立っていて、僕は夢なのかと思うほど驚いた。
「元貴?ど、どうしたの?こんな夜遅くに···とにかく入りなよ、寒いから」
辛いことがあったんだろうか。
でも泣きそうな表情というよりは···どっちかっていうと···え、怒ってる?
部屋に入ると元貴はケーキの箱のようなものを机に置いてお邪魔します、と言ったっきり少しの間何も喋らずに僕を見つめていた。
side元貴
藤澤さんに気持ちを伝えたいと思いながらも今更なんて言っていいか、どう謝ったらいいかわかんなくて、しかも向こうから深々と謝られて···手に触れようとすると初めて拒否されてショックだった。
しかも会話は仕事で必要な分だけ、誘われることもなくて寂しくて辛くて···。
「ただいま·····滉斗聞いてよ!藤澤さん今日もそっけなくて···俺もうどうしたらいいかわかんない」
話を聞いて貰えるのは滉斗しかいなくて語りかける、けど答えは出なくて毎日もやもやとした気持ちが募っていった。一昨日も何も言い出せなかった、昨日は忙しくて目も合わなかった、今日も···明日も?明後日も?
そんなの絶対に嫌だ。
悲しい気持ちはだんだんと怒りにも似た熱い気持ちになっていった。
だって寂しい時は一緒に居てくれるって言ったじゃないか。
今、俺はとっても寂しいんです。
貴方と一緒に居たいのに。
そんな気持ちを引きずりながら気付けば12月25日のクリスマスの夜、俺は今日も藤澤さんと何も話ができないままとぼとぼと歩く。
毎年のようにコンビニでケーキでも買おうか、と入るとまだたくさん積まれたホールケーキが目にとまった。
ひとりでは食べ切れないケーキ。
いつもは多くても2つとかのカットされたケーキを買っていた。
コーラ、チキン···カゴにそれらを入れたあと俺は···その箱に入ったホールケーキをレジに持っていった。
そして家に帰ってコーラを滉斗のマグカップに注いで乾杯した。
「メリークリスマス。今年も滉斗とお祝いできたね···来年も、その先もそうしようね。けど、ごめん。今日は···行ってくる、俺頑張るから!」
ケーキの箱を大切に持って俺は藤澤さんの家への道を思い出しながら急いだ。この気持ちを伝えないと、俺はずっとまた心から幸せと笑えないまま滉斗を悲しませながら生きて行くことになる。藤澤さんに出会うまではそれでもいいと思っていたけど今は違う。
急いだせいで少し息が切れる。
でも心臓がドキドキするのはそれだけではない、連絡もせずに会いに行くなんて···しかも今日はクリスマスだ、もしいなかったらどうしよう?いたとしてもきっとすごく驚いて入れてもくれないかもしれない。
いろんな思いが頭の中でぐるぐるしながらインターホンを鳴らした。
「元貴?ど、どうしたの?こんな夜遅くに···とにかく入りなよ、寒いから」
なんだかいつも通りの藤澤さんで拍子抜けしてしまう。
お言葉通り部屋に上がり机にケーキを置くと俺は藤澤さんをじいっと見つめた。そして全部伝えようと決めた。
「ケーキ、買ってきました」
「···ありがとう?」
「こんなサイズひとりでは食べきれないです。だからもうずっと買ってなかった。けど今年は違う···藤澤さんと食べるために買ったんです、その意味わかりますか」
「···僕と?でも今日はクリスマスだよ?」
「クリスマスだから、滉斗にはちゃんとメリークリスマスって伝えたしコーラで乾杯もしました。けど俺は藤澤さんと今日一緒に過ごしたいです···大好きな人と過ごしたい」
「え···だいすきなひと···?」
「藤澤さんが大好きってこと!なんで好きって自覚した途端あんな態度···俺はあの時嫌じゃなかったのに、少しだけいきなりで恥ずかしくてドキドキして戸惑って···!けど嬉しかったのにひどいよ!」
「は······えっ、え?元貴?」
突然怒り出した俺に藤澤さんは目を丸くして驚いている。
けど俺は感情が溢れていてそんな様子を見ても止まらなくてポンポンと思ったことを口に出す。
「寂しい時は一緒にいてよ!抱きしめてよ、素っ気ない態度されて話もしなくて俺寂しかった···好きだから、ちゃんと好きだから俺の側にいて···」
立ったままの藤澤さんの腕を掴んでソファに引っ張り、倒れ込んだ藤澤さんにしがみついた。この前と逆転したような体勢に恥ずかしくて顔が熱くなるのがわかる。藤澤さんの手が俺の背中にまわされてギュッと抱き寄せられたとき更に熱くなった気がした。けど俺は何も抵抗することなく藤澤さんにもたれかかって静かに抱きしめられた、これを望んでいたんだから。
「本当に、僕でいいの?」
「藤澤さんに会えなかったから俺はずっとひとりだ、またこんな風に人を好きになれるなんて思わなかったから」
「···若井さん以上になりたいとか忘れらてとかそんな事は言わない、けど元貴を愛して側でいるのは僕だけにして」
「もう、こんなに近くにいるじゃないですか」
やっと藤澤さんが笑ってくれる。
俺、この人の笑顔が好きだ。
「藤澤さんを滉斗の代わりだとかそういう意味で好きなんじゃないから。それだけはわかって」
「わかってる···僕だって同情とかで元貴を好きになったわけじゃない」
ゆっくり藤澤さんの顔が近づいてくる。俺は目を閉じたけど、何もされなくてまた目を開けた。
「キスしても···いい?」
そういうの聞いちゃう?
でもそういうところが藤澤さんらしい。
···だから俺からキスをした。
藤澤さんのことだけを想って。
コメント
7件
ああおめでとうございます‥! 天国で喜んでいてくれる事間違いなしです‥ なんでこんなにあたたかく生きている文章をお書きになられるのでしょう‥素敵です!!
うう〜、おめでとう〜! でも滉斗〜! でもおめでとう〜!! でも、滉斗ぉ〜〜!! でもおめでとう〜〜〜〜!!! を、行ったり来たりして、感情が忙しいです笑 でもやっぱり!おめでとう!!! 幸せになってね…😭
思いが通じ合う瞬間が素敵〜!やっぱり表現がキラキラして、世界感に吸い込まれそうだっ♪