「はいはい、何?」
自販機横のスペースにしゃがみ込み電話に出る。『何だよ、機嫌悪そうだな』と、友人は――隼人は、開口一番そう言った。
この男は、高校の頃からの”友人”といえば聞こえはいいが、悪友と言ったほうがしっくりくるかもしれない。若気の至りと言い訳できてしまうことは、全て一緒にやって来た間柄だと豪語できる。
……別に自慢できることなど、ひとつもないけれど。
『なんだよなんだよー、その調子じゃ、お前あれだな。彼女と別れたままだな?』
「は? どこ情報だよ」
(別れたどころか、立花のこと話してないし)
数ヶ月は予定が合わず会っていない友人、もとい悪友に、現状を言い当てられては気味が悪い。ツンケン返すと、そんなもの微塵にも気にしない、あっけらかんとした声が返ってくる。
『この間夏美ちゃんに会ったから、Rabbitで。 お前に振られたって騒いでたからさ。次の女どんなのって聞いたら、涼太も振られてんの!って。いいこと聞けたけどさぁ、やぁ〜相手大変だったわ、泣いて酔って騒いで』
ガハハと陽気な笑い声を交えて話し終えた隼人に「あー、なるほどな、悪かったな」と短く答える。
隼人は咲山と面識がある。もしかしたら咲山と最後に二人で会ったあの日、彼女が家を出た後、隼人と会ったのかもしれない。
ずん、と心臓のあたりが重い気がするのは間違いなく罪悪感だろう。
ふるふると首を降り、切り替えた。
「で? 何だよ、急用?」
隼人も今は真面目にサラリーマンをしている。平日の夜に電話があるのは珍しかった為、聞いてみると。あーそうそう忘れてた本題な!と。
どうやら今からが本題らしかった。
『俺も安定して彼女いねぇし、他も女いない奴ら集めて飲むけど。お前も仕事の後来いよ、たまには男とつるめって。この女タラシのイケメンクソヤローが!」
嫌味ったらしい隼人に「うるせーよ」と返すが、今の口ぶりからして女は呼ばないらしい。
……だったら。
(……男だけで飲むんなら、これ以上あいつにに見せたくない自分が増えるわけでもなし……)
顎に手をやり、うーん、と悩みながら天を仰ぐ。
晴れない心の、文字どおり、気晴らしになるんじゃないだろうか。
何より、ひとりで悶々と八木と真衣香のクリスマスを妄想し、メンタル削られ死んでいくよりかは……男まみれのクリスマスの方が幾分マシな気もする。
『どーすんの? 来る?』
再度確認された坪井は「そーだな、もうすぐ会社出るから行くわ」と気怠い声で答えていた。
2階の様子はもちろん気になるけれど、見に行く勇気などある訳もないし、2人を邪魔する権利もないだろう。
許されているのは、何も求めず想うことだけで――。