テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第二話 神とピエロ
――それは、ある日のことだった。
荒れ狂う波がバギーの小さな船を容赦なく襲う。
「うわあああぁぁぁぁ!! やめろおおお海ィィ!!」
バギーは舵を必死に握りしめるが、波はそんな哀れなピエロに情けをかけることはない。
次の瞬間、巨大な波が船を呑み込み、バギーの体は空へと投げ出された。
「ぎゃあああああああ!! お、俺の華麗なる人生が、ここで終わ……!?」
視界が白く弾けたかと思えば、次にバギーが目にしたのは――
青い海ではなく、果てしなく広がる雲海だった。
「……えっ?」
重力がふわりと消えたような感覚。
次の瞬間、バギーはどさっと固い雲の上に落ちた。
「いってぇ~~……って、え、ここどこ!? 空!? オレ、死んだ!?」
慌てて立ち上がるバギーの目に飛び込んできたのは、見たこともない白い大地と、奇妙な建物が点在する空の島だった。
一方その頃、スカイピアの神・エネルは、黄金の太鼓を背に雲の上で欠伸をしていた。
「ふあぁ……退屈じゃのぅ……」
雷を自在に操り、誰も逆らえぬ“神”となった彼だが、退屈だけはどうにもならない。
頬杖をつき、ぼんやりと空を見ていたそのとき――
「……む?」
雲の向こうに、見慣れぬ赤と青の派手な物体がバタバタ動いていた。
近づいてみると、顔に赤い玉の鼻、青い髪、派手な衣装……
「なんじゃ貴様は……?」
「うわぁっ!? だ、誰だお前!?」
そう、バギーは運悪く、空島の神と呼ばれる男――エネルと出会ってしまったのだ。
バギーは自分の服についた雲の綿を払いながら、何とか威厳を保とうと胸を張った。
「ふ、ふふ……俺様は、偉大なる海賊、バギー様だ! この程度の空の島くらい、ちょちょいのちょいで来てやったんだぞ!」
エネルは眉をひそめる。
「……なに? この神の前でその態度……?」
「神ぁ? ハッハッハ! 俺様にとっちゃ、神もただの観客よ!」
その一言で、エネルの眉がピクリと動く。
「……調子に乗るなよ、小僧」
次の瞬間、空気がビリッと震えた。
エネルの太鼓から、雷が奔る――!
ドガァァァァァァン!!!
「ぎゃああああああああああああああ!!!」
雲の上で見事に感電し、髪の毛がチリチリになったバギーは煙を上げて転がった。
しかし――
「……生きてる……だと?」
エネルは目を丸くした。普通の人間なら一撃で黒焦げになるはずの雷を、目の前のピエロは、泣きながらも生き延びていた。
「な、なんで……死なねぇの、俺……!? イテテテ……」
「……まぁよい。二発目で灰にしてくれるわ」
再び雷撃。
ズドォォォォン!!!
「ぎゃあああああ!!!」
それでも、手足がバラバラになりながらも、バギーは雲の上でピクピクと動いていた。
「……し、死なねぇぇ……! 俺ってば、超ラッキーかも……」
エネルは驚き半分、呆れ半分で、しばし雷を打ち続けたが――
十発目を超えたあたりで、さすがの“神”も疲れた。
「……ふぅ……貴様……なんじゃ、その妙な体は……」
バギーは、バラバラになった手足をゆっくりと集めながら、半泣きで座り込んだ。
「ハァ……ハァ……俺はバラバラの実の能力者なんだよ……雷とか……痛ぇけど……死なねぇんだよ……」
エネルはついに雲の上に腰を下ろした。
雷を撃っても撃っても倒れぬ男は、神にとって初めての存在だった。
「……面白いのぅ、おぬし」
「え……?」
「この神に退屈は大敵じゃ。……しばらく、我の相手をせい」
「はぁぁ!? 俺は忙しいんだよ! ……いや、でも帰り道わかんねぇし……」
こうして、空島の神と、しぶといピエロの奇妙な出会いが始まったのだった――。