コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
レモンドの非難など、聞く耳を持たぬ。
会長はそういう態度だった。
運転手が悠々とリムジンのドアを開けると、会長と見られるインテリな風貌の中年男性が降りてきた。
縦ストライプのスーツをビシっと着こなし、こちらでは珍しい黒髪を真ん中で分けている。
「聖女様……で、合っているんでしょうな」
黒い瞳でジッと、疑り深そうに鋭い視線でねめつけてくる。
それをレモンドが、私の前に出て声を荒げた。
「会長! なんて失礼な! あっしの命の恩人だと、他の皆も救ってもらってると、そう説明しただろうに!」
「それには感謝している。だが、諸手を挙げて喜んでばかりもいられない状況になった」
物静かだけど、有無を言わせない物言いは、さすが会長職といったところだろうか。
「一体なんだってんです! ともかくその、攻撃ドローンを下げさせてくだせぇよ!」
やっぱり、あの大きな円盤型はそうだったんだ。
「その聖女様が、人間ではないとしても。か?」
「はぁ? 何いってんだ!」
「ともかく、話がしたい。ついて来てもらおう。レモンド、お前も一緒でかまわない」
「ったく……聖女様、こんなことになってすまねぇです。あいつは、悪いやつじゃねんですが融通のきかんとこがあって……」
レモンドは心底申し訳なさそうに、でも、この場は言うことを聞かないと、どうにもならないだろうと言った。
「はぁ……。いいですけど、ヘンなことしないでくださいね」
――騎士団長もひと目で私を魔族だと見抜いたし、彼もその類かしら。
それで、今度はあのドローンと戦う?
馬鹿馬鹿しい。
「大人しくしてくれるなら、手荒な真似はせん」
彼の頭の上の数字も、70近い。
悪い人ではなさそうなのが、せめてもの救いかもしれないと思いながら言葉に従った。
「会長。ちゃんと説明してくんせえ」
「分かっとるいうとろうが。だが車じゃ落ち着かんだろが」
会長も若干……なまっているのは同郷同士なのかしら。
つられると言うし、ね。
そしてそれ以降、沈黙のまま車で滑るような乗り心地で、会長の屋敷に連れていかれた。
**
会長の屋敷は、工場のように大きなものではなくて、常識的なサイズの、三階建てのお屋敷だった。
両開きの玄関口。その前で降ろされると、中に案内された。
その一階にある応接室で、奥にあるデスクに会長、そして来客用のソファに私とシェナ、正面にレモンドという位置に座らされた。
「会長。聖女様が人じゃねって、なんの話さね」
レモンドが苛立ち紛れに言ったタイミングで、コーヒーがメイドさんによって運ばれてきた。
濃いめに淹れたコク深い匂いに、ママとよく行ったカフェでの記憶が蘇る。
――こんな気持ちの時に、コーヒーの匂いなんて嗅ぎたくなかった。