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3
体育祭から数日。
高度育成高等学校には、
いつもの穏やかな日常が戻ってきていた。
けれど、ひなにとっては少しだけ違っていた。
教室の窓から差し込む秋の光。
クラスメイトたちの笑い声。
そして、何気なく視線を向けた先にいる綾小路くん。
そのすべてが、
以前よりもずっと特別に感じられる。
「ひな〜!」
朝のホームルーム前、
恵ちゃんが勢いよく駆け寄ってきた。
「この前の体育祭、本当にお疲れさま!」
「ありがとう、恵ちゃん」
「もうすっかり親友って感じだね!」
その隣では桔梗ちゃんもにこにこと笑っている。
「今度みんなでお買い物に行こうよ〜」
「うん、行きたい!」
体育祭を経て、
ひなの周りには以前よりもたくさんの笑顔が集まるようになっていた。
昼休み。
ひなが廊下を歩いていると、
何人かの男子生徒に声をかけられる。
「天白さん、この前すごかったね」
「めちゃくちゃ可愛かった」
「今度、一緒に話さない?」
突然のことに、
ひなの肩がびくりと震えた。
男性に囲まれる感覚は、
今でも少し苦手だった。
言葉に詰まってしまった、その時。
「悪いが、次の授業の準備がある」
静かな声が割って入る。
振り向くと、
綾小路くんが立っていた。
男子たちは気まずそうに笑い、
「また今度」と言って去っていく。
ひなはほっと息をついた。
「……ありがとう」
「礼を言うほどのことじゃない」
いつもの淡々とした声。
だが彼は、
ひなの表情を一瞬だけ確認してから歩き出した。
「顔色が悪い」
「少し、びっくりしちゃって……」
「そうか」
短い返事。
けれど歩幅を緩め、
あたしのペースに合わせてくれる。
そのさりげない優しさに、
胸がじんわりと温かくなった。
放課後。
学生寮へ戻る途中、
二人は並んで歩いていた。
秋風が白い髪を揺らし、
ヘアピンが夕日にきらりと光る。
「最近、楽しそうだな」
綾小路くんが不意に言った。
「そうかな?」
「ああ」
少しの沈黙のあと、
ひなは小さく笑った。
「みんなと仲良くなれて……綾小路くんもいてくれるから」
彼はすぐには答えなかった。
ただ、静かに前を見つめたまま歩き続ける。
やがて、
わずかに視線をひなへ向けた。
「それなら、悪くない」
たったそれだけの言葉。
それなのに、
ひなの胸は幸せでいっぱいになる。
寮の前で立ち止まる。
「じゃあ、また明日」
ひながそう言うと、
綾小路くんは小さく頷いた。
「ああ」
そして、
去り際に一言だけ残す。
「明日の昼休み、時間はあるか」
「え……?」
突然の誘いに、
ひなの瞳が大きく見開かれる。
「少し話したいことがある」
それだけ告げて、
綾小路くんは静かに歩き去っていった。
秋風のあとで。
体育祭という大きな思い出を越え、
ひなの日常はさらに色づき始める。
友達との絆。
クラスでの居場所。
そして、
少しずつ深まっていく綾小路くんとの関係。
明日の昼休み、
彼が何を話そうとしているのか。
期待と緊張を胸に、
ひなは夜空を見上げるのだった。
コメント
1件
体育祭の余韻が残る日常が、ひなさんの視点を通してとても温かく描かれていて、読んでいてほっこりしました。男子生徒に囲まれて固まるひなさんを綾小路くんがさりげなく助けるところ、「顔色が悪い」と言いながら歩幅を緩めてくれる優しさが本当に彼らしくて素敵です。そして最後の「明日、時間はあるか」という誘い——これまであまり自分から動かなかった彼が何を話したいのか、すごく気になります。秋風の描写と心情の変化が見事にマッチしていて、次の展開が待ち遠しいです!