夢だった。君との思い出。
初めて会ったあの店、一緒に見に行った海…
君の泣きそうな表情。涙で潤んだ瞳。透けている身体。
きっと、いや、必ず忘れない。この思い出を。
ーーーーーー
はっと、目が覚める。隣には、君は居なかった。
〈おんりーは…?〉
〔莉音…‼︎〕
〈men、おんりーは⁉︎〉
〔わからない…でも、この家のどこにもいないんだ…〕
眩暈がする。わずかに捲れていたカーテンを掴んで、快晴の空を見上げる。
雲ひとつない、秋晴れ。朝7時の静かな部屋に、自分の心臓の鼓動が、はっきりと聞こえる。
全員が固唾を呑んで空を見つめる。だれもが信じたくないことだけれど、認めないといけない事実と向き合わないといけない。
信じたくない。逃げ出したい。でも、逃げ出してしまえば。愛する仲間を、見殺しにしたも等しい。
自分が行かないと。絶対、そうだ。
〈…行かないと…〉
〔蒼っ‼︎〕
呼ばれても振り返ることもできず、玄関を開けて廊下を全力で走る。慣れてしまった錆びた階段を急いで登る。
階段を登った先の、屋上には、普段見ない「空間への道」が。
入ろうとしたところで、足が止まる。自分におんりーを救う資格なんて、ないのかもしれない。自分では力不足かもしれない。
でも、行くしか、ないんだ。
場違いのように輝く宇宙へと、自分の足を踏み入れる。
ーーーーーー
目が覚める。霧の中の草地。生ぬるい気温に、吸っても吸っても心地がしない酸素。
辺りを見回しても、何も見えない。立ち上がって、前に進むと、ぴちょん。という音と、湿った感覚がする。足元は、小さな川。さらに進むと、木の幹がみえた。見上げると、あの宇宙の世界にあった木。そっか。もう、どうにもならないんだ。
瞳から溢れる涙を拭い、硬くて温度のない木に寄りかかる。力も抜け、その場に座り込む。
重たい瞼を閉じる。
ーーーーーー
霧がかかった世界…?どこなのかも曖昧だが、おそらくここは、宇宙の世界だ。
蒸し暑い気温を感じながら、湿った草地を、ただ走る。息が上がる。それでも、君を探す。
小川を走って渡り、ぴちゃぴちゃと水が跳ねる。そんなことは気にしている暇もないのだ。走って、走ると、大きなあの木が。そして、根元で君が眠っている。横になって、一切瞼を開けようとしない君の周りに、輝く何かがくるくると纏わりついている。おんりー…おんりーっ…
〈おんりーっ‼︎おんりー、目を覚ましてよ…‼︎〉
身体に触れても、体温が感じられない。近くにメガネが落ちていて、レンズが割れている。
拾い上げると、それは確かにおんりーの物だった。
どれだけ叫んでも、どこまで続いているのかもわからない果てしない土地に、自分の声が響き、木霊するだけだった。
いっそのこと、ここで一生眠りについてしまいたい。でも。君の目を覚まさせないと。
〈おんりー…〉
なんで…涙も沢山出てくる。
〈莉音っ…なんで応えてくれんのっ…莉音から勝手に消えた癖に…
何が「成長した姿」だよ…消えたら成長も何もないやん…〉
〈ねぇ、莉音っ…目を覚ましてよっ…ねぇ…〉
〈これまでの事、勝手にチャラにして笑顔で話しかけないでよ…〉
〈嘘つきっ…嘘つきだよ…〉
涙が溢れ出る。おんりー…いや、莉音の頬に涙が付く。
これが夢であって欲しい。夢じゃないといけない事だ。
光の何かが自分にも まとわりつく。
〈莉音、大好きだよ…だから、目を覚ましてよ‼︎〉
震える声で、莉音に話しかける。
ーーーーーー
真っ暗な世界。もうこのまま、一生抜け出せないんだ。
蒼くんに、嘘しかついてないな。
上手く笑えなかったし。
これじゃぁ…約束の「成長した姿」なれてないな…
聴こえない。見えない。何かに縛られている。
〈りおん…莉音…莉音‼︎〉
〈莉音…目を覚ましてよ‼︎〉
はっと、目が覚める。身体の拘束が解かれる。
目の前で、君が手を差し伸べている。
そしてその大きな手を、しっかりと掴んだ。
ーーー
その瞬間、ハッと、目が覚める。目の前には、蒼くんが。ぎゅっと、君を抱く。
〈莉音⁉︎〉
『…ただいま、蒼くん。6年振りだね。』
やっと、声が出せた。
〈莉音っ…莉音…よかったよぉ…〉
『もう忘れられてると思ってたよ…』
〈そんなわけないじゃんwもぉ、莉音ったらぁw〉
この笑顔、この声。俺は蒼くんのことが、大好きだ。
ーーーーーー
涙がとめどなく溢れる。顔をうずめて、ただじっとする。
そうすると、急に温もりを感じる。見上げると、莉音が自分を抱いていた。
ちゃんと「莉音」と「蒼」として再開するのは実に6年振り…かぁ。
莉音。僕も成長したよ。君も、きっと成長、できているはずだよ。
互いに笑い合うこの瞬間が、一番の大切な宝物なのだと気がついた。
大好きだよ、莉音。
ーーーーーー
結局、父親は更生のために施設に入れられた。
莉音としても、父親としても、このままではよくない環境だから、だとか。
僕も大阪に返された。帰れば両親も同級生も何も変わらないけれど、ひとつだけ言うのなら、周りと冷静に接することができるようになった。今では、全く気にならない、と言ったら嘘だけれど、ある程度の雑音はシャットダウンできるようになった。
そして、莉音はというと、東京の児童養護施設に引き取られ、父親が施設を出たら再び二人で生活する、と言っていた。
おそらくもう今は二人で生活しているだろう。
正直言って僕は莉音とあの日から全く連絡が取れていない。莉音も忙しそうだし、という理由で遠慮していた。
でも、2ヶ月後、僕は東京に住む。僕は宇宙について学ぶために、東京の大学に入学することが決まったのだ。
[まもなく、終点東京、東京です。中央線、山手線、京浜東北線、東北・高崎・常磐線、総武線、京葉線、東北・上越・北陸新幹線と地下鉄線はお乗り換えですーーー]
2年ぶりに聴く終着駅を告げるアナウンスに胸が高まる。
今日こそは。必ず、莉音に会う。そう決めていた。
あの日から、ちゃんとした星空を、宇宙を、見ることができなくなった。なぜなのかはいまだにわからない。けれども、人類はこの謎を解明しようと尽くしている。
雨が降っている東京の街を歩く。閑静な住宅街に雨音だけが響く。俯いて歩いていると、目の前に革靴を履いた人がいる。
避けないと。そう思って顔を上げた瞬間、心臓が止まりかけた。
少し低めの身長、深緑色の髪、エメラルドグリーンに輝く瞳、縁が太い四角眼鏡をかけている少年。
〈莉音…?〉
『蒼くんっ‼︎』
ぎゅっと抱きつかれて、しっかりと支える。
『ひさしぶりだね!』
二人で笑い合う。この宝物は、必ず大切にしよう。
いつのまにか晴れてきていた空を見上げ、ふっと、口角をあげた。
『蒼君…?』
〈なんでもないよ‼︎ほら、どっか行かない?〉
『…うん、いいよっ‼︎』
宇宙なんかよりも、君の笑顔の方がずっと綺麗だよ。
そう言おう。心に決め、一歩をふみだした。
2849文字ですなw
いやぁ…長かった…
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
次回から暫くはnmmn &BLの祭りなのでご了承くださいw
では、また次回‼︎
コメント
9件
すっご…… 流石神様ですな
いや〜もうなんて言ったらいいかわからんけどまじで神だった。どうやったらこんなに上手く小説が書けるのやら...まって次回BL祭りだって?!楽しみにしております. ..ニヤ~