テラーノベル
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再建が進んだ王都は、春の柔らかな日差しに包まれていた。
かつての荒廃を乗り越え、街には再び極彩色の彫刻と重厚な石造りの家々が立ち並び、平和な時間が流れていた。
しかし、その平穏は突如として破られた。
大地が底から唸り声を上げ、激しい揺れが街を襲う。数年前の戦火を耐え抜いた建物が悲鳴を上げ、修復中だった時計塔の瓦礫が、ちょうど市場へ視察に出ていた元貴の頭上へと降り注いだ。
「元貴、危ない!」
咄嗟の判断だった。
近くにいた滉斗が地を蹴り、無防備に立ち尽くす元貴を突き飛ばすようにして抱きしめる。直後、凄まじい衝撃音と共に、巨大な石材が滉斗の背中に直撃した。
「……っ、……!」
滉斗の口から短い悲鳴が漏れる。揺れが収まった後、元貴の視界に飛び込んできたのは、自分を庇うように覆いかぶさり、肩から血を流して顔を歪める滉斗の姿だった。
自室に戻り、元貴は震える手で滉斗の傷を手当てしていた。
かつての軍服ではなく、今は柔らかな部屋着を纏った滉斗の背中には、自分を守るために刻まれた新しい傷痕が痛々しく残っている。
「……ひろぱ、ごめん。僕が、もっと早く避けていれば」
元貴の声は、今にも消え入りそうに震えていた。
薬を塗る指先が、申し訳なさで小刻みに揺れている。
「気にするな。……かすり傷だと言っただろう」
滉斗は努めて冷静に答えようとしたが、深い切り傷が熱を持ち、わずかに呼吸が乱れる。その弱った姿を見て、元貴の心に溜まっていた不安と自己嫌悪が、一気に溢れ出した。
「かすり傷なわけないよ! ……いつもそうだ。ひろぱは、僕のために傷ついてばかり。僕が、戦えないから……。君の隣にいるのが、僕じゃなかったら……」
元貴の瞳に、みるみるうちに涙が溜まっていく。
手当てを終えた後も、元貴はその場を動こうとせず、滉斗の無事な方の腕をぎゅっと抱きしめた。普段の「王」としての凛とした姿はどこへやら、今の彼は、まるで迷子になった子供のように滉斗に縋り付いている。
「ねえ、ひろぱ……。今日は、どこにも行かないで。ずっと、僕のそばにいて」
潤んだ瞳で見上げ、服の裾を強く握りしめる元貴。その甘えるような仕草に、滉斗は毒気を抜かれたように息を吐いた。
「……お前がそんな顔をしていたら、どこへも行けるはずがないだろう」
滉斗は不器用な手つきで、元貴の涙をそっと拭った。
氷剣術で国を震え上がらせたその指先は、元貴の頬に触れる時だけは、春の風のように優しい。
「謝るな、元貴。俺がお前を守るのは、義務じゃない。俺の『本能』なんだ。お前が隣にいない人生なんて、俺にはもう考えられないんだからな」
その言葉に、元貴はこらえきれずに滉斗の胸に顔を埋めた。
傷に響かないよう、細心の注意を払いながら、それでも離れたくないという意思を込めて、腕の力を強める。
「……ひろぱ、大好きだよ。一生、離さないって言ったこと、忘れないでね」
「ああ。誓うよ」
窓の外では、地震の混乱を鎮めるように、穏やかな夕暮れが街を琥珀色に染め始めていた。
最強の盾である滉斗と、彼に心からの愛と甘えを捧げる元貴。
二人の絆は、災厄が訪れるたびに、より深く、より逃れられないほどに強く結ばれていく。
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