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素敵すぎる話だったもう感動しました。ドキドキが止まらなくてこんな素敵な作品を作ってくれた人になんで出会わなかったんだろうって思いました

本当に素敵なお話で最後までドキドキしながら拝読させて頂きました🥹 次回作も楽しみにしてます!!!
最終話まで執筆お疲れ様でした🍀 陰ながら1話から拝読させていただいていました😌🤍 テーマから描写全てとっても素敵で最高のさのじんでした🥰💖
撮影最終日。ロケ地は、海に突き出た古い桟橋だった。凍てつくような冬の夜風が、薄手のコートを容赦なく叩く。視界の先には、漆黒の海と、遠くで明滅する街の灯り。この数ヶ月、俺たちが「航平」と「直実」として生きてきた世界の、これが終着点だった。
「最終シーン、位置についてください!」
助監督の声が、静寂を切り裂く。
俺は桟橋の先端に立ち、背後に立つ勇斗――いや、航平の気配を感じていた。
この数ヶ月、俺たちは数え切れないほどの言葉を交わし、肌を重ねる芝居をしてきた。けれど、今日このシーンを撮り終えてしまえば、俺たちは「運命に翻弄される恋人たち」ではなくなる。明日からはまた、同じグループのメンバーとして、笑い合い、バカ騒ぎをする日常に戻らなければならない。
……戻れるのだろうか。
俺の心臓は、寒さのせいではない理由で激しく脈打っていた。
「シーン102、本番……スタート!」
カチンコの音が響くと同時に、俺の意識は「直実」へと沈み込んでいく。
航平との別れを決意し、背を向ける直実。その腕を、航平が掴む。
「……待てよ。勝手に決めるな。俺が、お前なしで生きていけると思ってんのか」
勇斗の声が、海風に乗って俺の耳を震わせる。
振り向いた先にあったのは、絶望と、それを上回るほどの剥き出しの愛が混ざり合った瞳だった。それは、台本に書かれた「航平」の感情を遥かに凌駕しているように見えた。
「航平……離して。俺がいたら、君の未来は……」
「未来なんて、お前がいないならただの空白だ! 頼む、直実……俺を置いていかないでくれ」
勇斗の指が、俺の両肩に食い込む。その強さは、以前の撮影よりもずっと切実で、痛いほどだった。
俺の視界が、じわりと涙で滲む。
これは演技なのか。それとも、俺自身の叫びなのか。
この撮影が終われば、勇斗はまたM!LKのメンバーに戻ってしまう。触れることも、名前を熱っぽく呼ぶことも、すべてが「仕事」という魔法が解けると共に消えてしまう。
それが、たまらなく怖かった。
「……好きだ。世界中の誰よりも、お前を愛してる」
航平の、そして勇斗の唇が重なった。
これまで何度も繰り返してきたキス。けれど、今夜のそれは、今までのどれよりも深く、貪欲だった。
俺たちの吐息が白く混じり合い、寒さなど忘れるほどの熱が身体を駆け巡る。勇斗の舌が俺の口内をなぞり、せがむように絡みつく。俺は彼のコートを強く握りしめ、自分を繋ぎ止めるようにその熱に応えた。
カメラが回っていることも、スタッフが見守っていることも、すべてが意識の外へと追いやられる。
ただ、勇斗が欲しい。この瞬間が、永遠に止まればいいのに。
「…………はい、カット! オッケー!!」
監督の、地響きのような大きな声が響いた。
けれど、俺たちの唇はすぐには離れなかった。数秒の間、俺たちはただお互いの体温を確かめ合うように、額を押し当てて荒い呼吸を繰り返していた。
「……チェック終わりました。オッケーです! 全編、これにて終了! クランクアップです!!」
わあぁっ、という歓声と拍手が沸き起こる。
ようやく勇斗が顔を上げ、俺の目を見た。そこにはまだ、役から抜けきれない熱い光が宿っている。
スタッフが駆け寄ってきて、俺たちの腕に大きな花束を抱かせた。
「佐野勇斗さん、吉田仁人さん、クランクアップです! お疲れ様でした!」
「……ありがとうございました」
「お疲れ様でした。ありがとうございます」
俺たちは花束を抱えながら、スタッフ一人一人に頭を下げる。
監督が俺たちの肩を抱き、「最高のラストだったよ。二人じゃなきゃ、この映画は撮れなかった」と感極まったように言ってくれた。
太智、柔太朗、舜太の三人も、自分たちのシーンがないにも関わらず、現場に駆けつけてくれていた。
「仁ちゃん、勇ちゃん! おめでとー!」
舜太が花束を持ったままの俺たちに抱きつく。
「まじで感動したよ。あんなに熱いキス、見てるこっちが恥ずかしくなっちゃった」
太智がニヤニヤしながら冷やかすが、柔太朗だけは、少し離れた場所で俺と勇斗の顔を交互に見て、静かに微笑んでいた。
「……お疲れ様。二人とも。今日は、ゆっくり休みなよ」
柔太朗のその言葉が、どこか意味深に聞こえて、俺は小さく頷くことしかできなかった。
機材の撤収が始まり、現場が少しずつ日常の気配を取り戻していく。
俺は控室に戻り、衣装のコートを脱いだ。鏡に映る自分は、まだどこか「直実」の顔をしている。
コンコン、とドアがノックされた。
「……仁人、入るぞ」
勇斗だった。彼は自分の花束を机に置くと、無言で俺の前に立った。
「勇斗……お疲れ様。すごかったね、最後」
「……ああ。なんか、まだふわふわしてるわ」
勇斗はそう言って、俺の髪に触れた。その手つきは、もう「航平」のものではないはずなのに、どこか執着の色を残している。
「この後さ、二人で打ち上げ行かない? スタッフさんたちのはまた後日あるけど、今日は……二人だけで」
勇斗の提案に、俺の胸が跳ねた。
「二人で? いいけど……三人は? 太智たちも来たいって言うんじゃ……」
「柔太朗に頼んで、うまく言ってもらった。あいつ、察しがいいからさ」
勇斗が少しだけ、いたずらっぽく笑う。
その笑顔を見て、俺はようやく確信した。
撮影は終わった。けれど、俺たちの「境界線」は、もう元に戻ることはないのだと。
「……わかった。行こう、勇斗」
桟橋の先端で交わしたキスの熱が、まだ唇に残っていた。
映画としてのハッピーエンドは、今、撮り終えた。
けれど、俺と勇斗の本当の物語は、この冬の夜、ここから始まろうとしていた。
夜の帳が降りる街へ、俺たちは並んで歩き出す。
数時間後、その関係がさらなる熱を帯びることも知らずに。
撮影現場の喧騒から切り離された、都内某所の隠れ家的な個室居酒屋。
木目調の落ち着いた室内には、柔らかな暖色のライトが灯り、外の冷たい空気とは対照的な温もりに満ちていた。
「……お疲れ、仁人」
「お疲れ様、勇斗」
まずは生ビールで乾杯する。喉を鳴らして飲み干した勇斗は、「ぷはぁ!」といつもの彼らしい声を上げた。けれど、その後に続く沈黙は、普段の二人にはない独特の重みを持っていた。
テーブルを挟んで向かい合わせに座る。いつもなら、太智たちが「この肉うま!」だの「仁ちゃん、これ食べていい?」だのと騒ぎ立てるはずの時間が、今はあまりにも静かだ。
「……なんか、変な感じだな。二人きりで打ち上げなんて」
仁人が、突き出しの小鉢を突きながら呟く。
「そうか? 昔は二人で飯なんてよく行ってたじゃん」
「それはそうだけど。今は……なんていうか。さっきまで『あっち側』にいたからさ」
『あっち側』。つまり、航平と直実として生きていた世界。
クランクアップの瞬間、スタッフの拍手で現実に引き戻されたはずなのに、体温や視線の熱、唇に残る感触が、今も執拗に「まだ終わっていない」と仁人の五感を刺激し続けていた。
「仁人、酒。進んでないぞ。もっと飲めよ」
勇斗が、自分のハイボールを飲み干すと、仁人のグラスに日本酒を注ぐ。
「……勇斗こそ、ペース早くない? 明日も早いんでしょ」
「いいんだよ。今日は、酔わないとやってらんねーし」
勇斗の言葉に、仁人は喉の奥が熱くなるのを感じた。
二杯目、三杯目。アルコールが回るにつれて、二人の会話から「仕事」の話が消えていった。代わりに溢れ出したのは、これまで心の奥底に沈めていた、名前のない感情の数々だった。
「……なぁ、仁人。お前、撮影中……いつから俺のこと、そういう目で見るようになった?」
勇斗の唐突な問いに、仁人の手が止まった。
「……そういう目って、何だよ」
「惚れてる目だよ。……芝居じゃねーだろ、あれ」
勇斗の瞳が、テーブル越しに真っ直ぐ仁人を射抜く。酔いのせいか、その瞳はいつになく潤んでいて、それでいて逃げ場を許さない鋭さを持っていた。
「……お互い様でしょ。勇斗だって……あの雨の日のキス、アドリブだったじゃん。あんなの、台本になかった」
「あれは……そうしなきゃ、俺が壊れそうだったからだよ。お前が、あまりにも直実として俺を受け入れるから。……いや、直実じゃねぇ。吉田仁人として、俺を見てたからだろ」
核心を突かれ、仁人は俯いた。
嘘を吐くには、酒が回りすぎていた。
勇斗に触れられるたび、役としての苦しさと、自分自身の恋しさが混ざり合い、ぐちゃぐちゃになっていた。それを勇斗に見透かされていたことが、悔しくて、そして何より愛おしかった。
「……もう、終わりなんだね」
仁人がぽつりと零した言葉には、隠しようのない寂しさが滲んでいた。
「明日からはまた、M!LKのメンバー。……隣にいても、あんな風に抱きしめることも、名前をあんな熱量で呼ぶことも、しちゃいけない」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、勇斗が立ち上がった。
彼は迷いのない足取りでテーブルを回り、仁人の隣へと歩み寄る。
「……仁人。隣、座っていいか?」
低い、けれどどこか震える声。仁人が拒むはずもなかった。
かすかに頷くと、勇斗がすぐ隣に腰を下ろした。肩と肩が触れ合う。撮影用の薄い衣装ではなく、私服の厚い生地越しでも、勇斗の圧倒的な熱量が伝わってきた。
「……仁人、こっち向いて」
促され、顔を上げる。
至近距離にある勇斗の顔。お酒の香りと、彼自身の男らしい匂いが混ざり合い、仁人の思考を麻痺させる。
「俺さ、ずっと確かめたかったんだ。……カメラが回ってないところで、お前が俺にどう反応するか」
勇斗の大きな手が、仁人の後頭部を優しく、けれど力強く引き寄せた。
「……っ、勇斗……」
その名を呼ぶ声は、自分でも驚くほど甘く、震えていた。
重なった唇は、さっきまでの桟橋でのそれとは全く違っていた。
痛いほどの切実さはなく、ただ確認するように、慈しむように、何度も角度を変えて重なる。
「ん、……ふ……ぅ……」
仁人の喉から、抗えない吐息が漏れる。勇斗の舌が唇を割り、内側をなぞるたび、仁人の身体はシーツの上にいる時のような熱を帯びていった。
「……は、……仁人、かわい、……」
勇斗が一度唇を離し、赤く染まった仁人の顔を見て、低く笑った。
その瞳には、もう「航平」はいない。目の前にいる仁人だけを、一人の男として欲しがっている「佐野勇斗」の欲望が、剥き出しになっていた。
「芝居じゃ、こんな声出さねーだろ?」
「……うるさい。勇斗が、変なことするから……」
「変なこと、もっとしたいんだけど。……いい?」
勇斗の指が、仁人のシャツの襟元に掛かる。
仁人は、自分の心臓の音が個室中に響いているのではないかと思うほど激しく打つのを感じながら、勇斗の首に腕を回した。
「……もう、引き返せないよ」
「最初から、引き返すつもりなんてねーよ」
勇斗は、仁人の答えを飲み込むように、再び深い口付けを落とした。
何度も、何度も。お互いの想いを、酒の味と共に喉の奥へと流し込んでいく。
個室という密閉された空間で、二人の境界線は完全に崩壊し、ただ熱い衝動だけが渦巻いていた。
「……仁人。ここじゃ、足りない」
勇斗が、耳元で熱く囁く。
「……俺の家、来るだろ?」
その問いに、仁人は言葉の代わりに、勇斗の手を強く握り返した。
タクシーを降りてから、エレベーターが目的の階に到着するまで、二人の間に言葉はなかった。
深夜のマンションの廊下は、静まり返っている。勇斗がカードキーをかざし、重厚な扉が開く。仁人がその中に吸い込まれるように足を踏み入れ、背後で「カチリ」とオートロックが閉まった瞬間。
「……っ、ん、……勇斗……っ」
靴を脱ぐ暇さえなかった。壁に押し付けられ、降ってきたのは暴力的なまでに深い口付け。
肺の中の空気をすべて奪い去るような、執拗な舌の動き。居酒屋での甘い触れ合いとは違う、剥き出しの独占欲に仁人の背筋がゾクりと震える。
「……は、ぁ、……まって、勇斗、急ぎすぎ……」
仁人は必死に勇斗の胸板を押し返そうとするが、その腕は力なく、むしろ彼のシャツを強く掴んでしまっていた。
そんな仁人の「形ばかりの抵抗」を見透かしているのか、勇斗は唇を離すと、いたずらっぽく、それでいて酷く熱い瞳で仁人を見下ろした。
「急いでないよ。……ただ、これ以上我慢してたら俺が壊れるって言っただろ?」
「それは……っ。でも、まだ心の準備が……」
「準備? 撮影であれだけ予行演習したのに? それとも何、まだ俺が『航平』に見えてる?」
図星だった。
至近距離にある勇斗の顔。整った眉、通った鼻筋、そして濡れた唇。
それは紛れもなく佐野勇斗のものなのに、仁人の脳裏には、桟橋で泣きそうな顔をしていた「航平」の残像がこびりついている。演技なのか、本気なのか。その境界線が曖昧なまま、仁人は勇斗の熱に絆され続けていた。
「……そんなこと、ない。勇斗は勇斗だよ」
「嘘つけ。……お前、今考えてること全部顔に出てるぞ。仁人」
勇斗の指が、仁人の唇を強く弾く。
「『これは演技の続きじゃないか』『勇斗は役から抜けてないだけじゃないか』……そんなこと考えて、また逃げ道作ろうとしてんだろ? お前はいつもそうやって、肝心なところで臆病になる」
「臆病なんかじゃ……っ!」
「じゃあ、なんで俺の目を見ない。……俺を見て、名前を呼べよ。役の名前じゃなくて、俺の名前を」
勇斗の手が仁人の上着を乱暴に剥ぎ取り、リビングを素通りして寝室へと誘う。
大きなベッドに倒れ込むと、仁人の視界は勇斗の影で支配された。
仁人は、自分の心臓の音がうるさくて仕方がなかった。やっと想いが通じ合ったという歓喜。ずっと触れたかった、触れられたかったという切望。それが全身を巡っているはずなのに、いざその瞬間が来ると、どうしても「吉田仁人」としてのプライドが邪魔をする。
「……勇斗、余裕だね。俺のこと、からかって楽しい?」
「余裕? 冗談だろ。……俺が今、どれだけお前を滅茶苦茶にしたいか、わかってて言ってんの?」
勇斗の手が仁人のシャツのボタンを一つ、また一つと外していく。
露出した白い肌に、勇斗の熱い掌が触れる。その感触に、仁人の喉から小さな悲鳴が漏れた。
「……ぁ、……ふ、ぅ……」
「仁人、身体は正直じゃん。……ここ、撮影の時よりずっと熱いぞ」
「……うるさい。それは、お酒のせい……っ」
「へぇ……お酒のせいね。じゃあ、もっと酔わせてやるよ」
勇斗の唇が、仁人の首筋に深く吸い付く。
わざと音を立て、跡を残すような執拗な愛撫。仁人の弱い場所を、勇斗は知り尽くしている。
(……ああ、ダメだ。この感じ、航平じゃない……)
航平はもっと、直実を壊さないように、大切に、おずおずと触れていた。
けれど今、自分を組み伏せているこの男は、もっと強引で、もっと欲張りで、もっと……吉田仁人を一人の男として、逃がさないように繋ぎ止めようとしている。
「……仁人。お前、まだ何か考えてるだろ」
勇斗が顔を上げ、じっと仁人の瞳を覗き込んだ。
「考え事できる余裕があるなんて、俺の攻め方が甘いってことか?」
「……違う。違っ、……あ、ん、……っ!」
不意に、勇斗の指が仁人の一番敏感な場所を掠めた。
電撃が走ったような快感に、仁人の腰が大きく跳ねる。
「っ、ぁ、……はや、と……っ、まって、……っ」
「待たない。お前がその余計な思考を止めるまで、止めないからな」
勇斗の瞳に、獰猛な火が灯る。
いつも優しく、相棒として隣にいてくれた彼。
太陽のように笑い、グループを引っ張ってきた彼。
けれど今、仁人の目の前にいるのは、欲望を隠そうともしない、一人の「佐野勇斗」という男だった。
「仁人。……今日こそ、お前の本音、全部吐き出させてやる」
勇斗の指が、唇が、そして肌から伝わる拍動が、仁人の内側にある「強がり」という防壁を一つずつ丁寧に、かつ強引に崩していく。
「……ん、……っ、……はや、と、」
名前を呼ぶ声が、熱を帯びて震える。勇斗は仁人の目尻に溜まった涙を親指で乱暴に拭うと、塞ぐように深いキスを落とした。
一度唇が離れると、勇斗は仁人の熱い頬を片手で固定するように抑え、そのままサイドチェストの引き出しを開けた。
取り出されたローションのボトル。勇斗はそれを自分の掌に垂らすと、ゆっくりと両手を擦り合わせて温め始める。その動作一つ一つが、これから起こることを仁人の脳裏に刻みつけるようで、仁人はたまらず顔を背けた。
「……こっち向けよ。……逃げんの、もう終わりだろ」
「……うるさい。……勝手にすればいいじゃん」
「そうするよ。……力抜いて。お前、緊張しすぎ」
人肌に温められたぬめり気のある掌が、仁人の太腿の内側を割り、最も奥まった秘部へと直接触れる。
熱を帯びた指先が仁人の窄まりをなぞり、一節、二節と、確かめるように内側へと滑り込んだ。
「あ、ぁ……っ! は、やと、……っ」
「……っ、ここ、すげぇ熱い。……撮影の時より全然素直じゃん」
潤滑剤に濡れた二本の指が、仁人の内側の壁を執拗に押し広げていく。
粘膜が擦れる生々しい音と、逃げ場のない快感が仁人の脳を直接かき乱す。航平のような「役柄の優しさ」ではない。勇斗の指は、仁人が一人の男として自分を求めていることを暴き出すように、敏感な場所を容赦なく抉り、道を作り上げていった。
「……っ、……ひ、ぅ、……あ、っ! もう、……いい、……っ」
指が三本に増え、奥を強く擦り上げられると、仁人の腰が大きく跳ねた。
勇斗は余裕たっぷりの、けれどどこか飢えたような瞳で仁人の反応を捉えている。
「……十分、解れたな」
勇斗が指を引き抜くと、そこには空気に触れた粘膜の熱い余韻が残った。
彼は仁人の腰を掴んで自分の方へと引き寄せ、熱く脈打つ剛直を、仁人の入り口に押し当てた。
「……っ! はや……」
「……入れるぞ。……仁人」
短い宣告と共に、勇斗は一切の迷いなく、吉田仁人という存在を自分のものにするように、深く、重く、その身を沈めていく。
「ぁ、……あああぁっ……!!」
内側を無理やり割り広げられ、最奥を突き上げられるような、強烈な圧迫感と一体感。
仁人はあまりの熱量に息を止めるが、勇斗は容赦なく腰を動かし始める。
「……っ、仁人……、……っ、仁人、」
勇斗の喉から、余裕の消えた掠れた吐息が漏れる。
吸い付くような締め付けに、彼もまた欲望を剥き出しにしていた。
仁人は勇斗の広い肩にしがみつき、彼の首筋に顔を埋めた。突き上げられるたびに、身体の芯が焼けつくように熱い。潤滑剤と汗が混ざり合い、肌と肌が激しくぶつかり合う音が静かな寝室に響き渡る。
「あ、ぁ……っ! はや、と、……っ、あ、っ!!」
自分の名前を呼ぶ声に突き動かされるように、勇斗はさらに深く、力強く仁人の奥を支配していく。
絶頂の瞬間、勇斗は仁人の唇を強く奪い、熱い情動をすべて、仁人の内側へと解き放った。
「っ、……ぁ、……ああ、っ!!」
しばらくの間、繋がったままの二人の荒い呼吸だけが響いていた。
勇斗がゆっくりと仁人の上から重なり、汗に濡れた仁人の前髪をかき上げた。
「……仁人」
「…………っ、なに」
「やっと、俺の……仁人になったな」
勇斗が顔を上げると、そこには欲望を晴らした後の、静かな独占欲を湛えた笑顔があった。
「…は、…お前、……あんな、強引に……」
「そうしなきゃ、お前はずっと逃げてただろ」
勇斗が仁人の涙を指で拭い、再び短く唇を重ねる。
仁人は顔を真っ赤にしながらも、息を整えながら、今度は勇斗の瞳を真っ直ぐに見つめ返した。
「……勇斗」
「……ん」
「……愛してるよ」
今度は勇斗が、驚いたように目を見開いたあと、泣きそうなほど幸せそうな顔で仁人を抱きしめた。
窓の外では、夜が明けようとしている。
けれど、二人はまだ、この静かな熱の中にいた。
重なり合った手のひらは、もう二度と、解かれることはない。