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新宿。かつて俺たちが血を流し
火の海となったあの街は、何事もなかったかのように新しい朝を迎えていた。
榊原ビル跡地を中心に広大な仮囲いが組まれ、その中央には巨大な特設ステージが鎮座している。
今日は三和会による「新宿新都心構想」の起工式。
会場周辺は、制服警官と三和会の私設ボディーガードによって、文字通り蟻の這い出る隙もないほど固められていた。
「……見ろよ。拓海を殺した跡地で、あいつら笑ってやがる」
会場から数ブロック離れた雑居ビルの屋上。
山城が双眼鏡を握りしめ、憎しみを込めて吐き捨てた。
ステージの壇上には、白髪を完璧に整えた老人――
三和会会長、大河内が座っている。
その隣には、車椅子に乗り、力なく項垂れる中臣の姿もあった。
連中は中臣を「悲劇の政治家」として演出し、自分たちの計画の正当性を世間にアピールしようとしているのだ。
「黒嵜、準備はいいか」
志摩が無線機のイヤホンを調整しながら問いかけてくる。
奴の傍らには、三和会の通信網に侵入するためのノートPCが置かれていた。
「……ああ。ドスの手入れは終わってる」
俺は喪服のような黒いスーツに身を包み、腰に二振りのドスを隠した。
今回の作戦は単純だ。
志摩がハッキングで会場のセキュリティを一時的に無力化し、その隙に俺と山城、松田が正面から突入する。
「志摩さん、ハッキング開始まであと三十秒です」
松田の声が緊張に震える。
「……誰も死ぬなよ」
志摩の言葉に俺は鼻で笑う。
「……フン。地獄の続きは、あの大河内の首を獲ってからだ」
午前十時。
起工式のファンファーレが鳴り響いた瞬間、会場の大型ビジョンが一斉にノイズに包まれた。
「な……何だ!?」
動揺する聴衆と警備員。
志摩が三和会のシステムを掌握した合図だ。
「行くぞ!」
俺はビルの非常階段を駆け下り、騒乱の渦中へと飛び出した。
正面ゲート。
立ち塞がるボディーガードを、山城と松田が捨て身のタックルで排除する。
「ここは俺たちが食い止める! 兄貴は先へ!」
「……頼んだぞ!」
俺は警棒を振り回す警備員を最小限の動きでいなし、真っ直ぐに大河内のいるステージへと突き進んだ。
雪解けの風が、俺の頬を叩く。
目の前には、この国の闇を形にしたような老人の、驚愕に歪んだ顔があった。
「……大河内。…榊原組若頭、黒嵜和貴だ。迎えに来たぜ」