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side 元貴
きっかけは、些細なことだった。
新番組の発表。
若井が単独で出演することになった。
収録後、スタッフに囲まれている若井は、
どこか誇らしげで。
その横顔が、少し遠く感じた。
「若井、すごいね」
僕は笑って言う。
本音だ。
でも胸の奥が、少しだけざらつく。
涼ちゃんも拍手する。
「おめでとう」
若井は照れたように笑う。
「二人のおかげ」
そう言うけど。
収録が始まると、忙しいのは若井だけになる。
帰りが遅い。
連絡が短い。
疲れて、ソファで寝落ちする。
その背中を見ながら、僕は思う。
(僕、必要なのかな、)
涼ちゃんも思っていたらしい。
(最近、三人の時間減ってる)
でも言えない。
応援したい気持ちが、本物だから。
ある夜。
若井がまた遅く帰る。
「ごめん、今日も押した」
疲れた声。
僕は小さく頷く。
「おつかれさま」
涼ちゃんも水を渡す。
でも空気が、少し硬い。
若井は気づく。
「どうした?」
涼ちゃんが先に口を開く。
「最近の若井、忙しいね」
責めてない。
でも、寂しさが滲む。
若井は眉を下げる。
「……ごめん」
僕がぽつりと呟く。
「ち、が……くて、謝んないでよ、
ただ、、僕たちいなくても……って、思っちゃって、」
空気が止まる。
若井が顔を上げる。
「何それ」
声が少し低い。
僕は慌てる。
「違う、そういう意味じゃなくて」
涼ちゃんが続ける。
「若井が一人で輝いてるの見てると、ちょっと怖い」
正直だった。
「置いていかれるみたいで」
若井の胸がざわっとする。
「そんなわけない」
即答。
でも僕が言う。
「でも最近、僕たちより仕事優先みたい」
刺さる。
若井の顔が強張る。
「仕事は大事でしょ」
涼ちゃんが少し強くなる。
「……僕たちも大事?」
その問いは重い。
若井は少し苛立ちを見せた。
「当たり前だろ」
僕が目を伏せる。
「言葉じゃなくて、時間でほしい」
静かな本音。
若井の中で何かが弾ける。
「……ッ、、俺、頑張ってるのに、」
つい出た言葉。
空気が冷える。
涼ちゃんの目が揺れる。
「若井が頑張ってるのはちゃんと分かってるよ
でも、僕たちだって頑張ってるの、っ」
「分かってるよ」
「……分かってない。」
声が重なる。
僕の目に涙が浮かぶ。
「正直ね、僕たち、若井が一番になってくの見て、
ちょっと嫉妬してる」
初めてはっきり言った。
涼ちゃんも頷く。
「……僕も」
若井は言葉を失う。
嫉妬。
自分に向けられていると思っていなかったらしい。
「俺は、何も変わってないよ、?」
涼ちゃんが静かに言う。
「……知ってるよ。僕たちが不安になった、ってだけ」
それが本質。
沈黙。
三人の距離が、少し離れる。
若井はソファに座る。
糸が切れてしまったかのように顔を覆う。
「俺だって怖いよ……っ、」
低い声。
二人が見る。
「置いていかれるの、俺の方だと思ってた」
意外な言葉。
「二人のバランス、俺が崩すんじゃないかって」
僕の涙が止まる。
涼ちゃんも息を止める。
若井は続ける。
「仕事増えて、帰れなくなって、
二人に嫌われたらどうしようって」
本音だった。
「でも言えなかった」
強い若井の、弱い部分。
僕がゆっくり近づく。
「嫌わないよ」
涼ちゃんも隣に座る。
「でも、寂しいのは本当」
若井が顔を上げる。
目が少し赤い。
「俺はどうすればいい?」
素直な問い。
僕が小さく笑う。
「ちゃんと不安って言って」
涼ちゃんも頷く。
「僕たちも嫉妬するって言うからさ」
若井が息を吐く。
「……俺さ、正直嫉妬されて嬉しかった」
正直すぎる。
涼ちゃんが少し顔を伏せる。
「んふ、僕たちって変だね」
でも笑ってる。
僕が若井の手を握る。
「三人で嫉妬し合うのって、面倒だね」
若井が握り返す。
「でも、三人だから面倒なんだろ」
涼ちゃんが二人を抱き寄せる。
「一人だったら、こんな喧嘩できない」
三人でいるから。
不安も三倍。
でも安心も三倍。
僕がそっと言う。
「僕たち、若井が誇らしい」
涼ちゃんも続ける。
「でもちゃんと戻ってきて」
若井は頷く。
「毎日戻る」
額を合わせる。
「置いてかないし、置いていかれない」
三人の距離が、やっと戻る。
さっきより少しだけ近い。
すれ違いは痛い。
でも。
ちゃんとぶつかったから、温度が分かった。
僕が小さく笑う。
「今日、三人で一緒に寝よ」
涼ちゃんも言う。
「真ん中は若井ね」
若井が驚く。
「えっ、俺?」
僕が頷く。
「挟むのっ」
涼ちゃんが笑う。
「逃がさないよ」
若井は苦笑して、でもどこか安心した顔で。
「はいはい」
その夜、三人はぎゅっと固まって眠った。
少しだけ強くなったまま。
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