テラーノベル
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山道を駆けながら、マナは何度も後ろを振り返りそうになっていた。
だが、そのたびにライの手が強く引く。
「前を見ろ」
短い声。
けれど震えていた。
ライも平静ではない。
ロウを置いてきたのだ。
あの人数相手に、一人で。
胸の奥が重く痛む。
「……ロウ、平気かな」
掠れた声で呟く。
ライは答えなかった。
答えられなかった。
木々の間を抜け、二人は必死に山を登る。
だが。
「っ……!」
突然、ライが足を止めた。
前方。
木の影から武士が現れる。
二人。
いや、三人。
迂回して先回りされていた。
「いたぞ!」
怒声が響く。
マナの血の気が引く。
ライは即座にマナを背後へ庇った。
武器はない。
ロウに刀を預けたままだ。
武士たちがじりじり距離を詰める。
「若様、お戻りください」
中央の男が低く言う。
その声音に敵意はない。
むしろ苦しげだった。
ライは目を細める。
「……下がれ」
「できません」
「父上の命か」
男は黙る。
それが答えだった。
マナは無意識にライの袖を掴む。
終わる。
そんな予感がした。
逃げ場がない。
その時。
ライが静かに前へ出た。
「……マナには手を出すな」
「ライ!?」
マナが目を見開く。
ライは振り返らない。
「俺は戻る」
空気が止まった。
武士たちも動きを止める。
「だから、こいつを逃がせ」
「駄目です!」
マナは反射的に叫んだ。
「何言ってんだよ!」
ライがようやく振り返る。
その顔は、不思議なくらい穏やかだった。
「これ以上、お前が傷つくのを見たくない」
「嫌だ」
マナは首を振る。
「そんなの嫌だ……!」
喉が痛い。
涙が滲む。
やっとここまで来たのに。
ここで離れるなんて。
ライは苦しそうに目を伏せた。
「……すまない」
その一言が、ひどく遠く感じた。
武士たちが近づく。
マナはライの腕を掴んだ。
離したくない。
だが次の瞬間。
後ろから腕を押さえ込まれる。
「っ!?」
別の武士だ。
いつの間にか背後へ回られていた。
「離せ!!」
暴れる。
だが力が強い。
ライの表情が変わった。
「マナ!」
その隙に、武士たちがライも取り押さえる。
「若様、申し訳ありません」
「離せ!」
ライが初めて声を荒げた。
必死だった。
マナへ手を伸ばす。
「マナ!!」
その声が胸を裂く。
マナも叫ぶ。
「ライ!!」
届かない。
指先すら触れられない。
武士たちは二人を引き離す。
「やだ、嫌だ……!」
マナの目から涙が零れた。
終わる。
本当に。
全部。
その時。
——ガキン!!
金属音が山へ響いた。
武士の一人が吹き飛ぶ。
「……は?」
全員の動きが止まる。
土煙の向こう。
そこに立っていたのは——。
「ロウ!!」
マナが叫ぶ。
小柳ロウは肩で息をしながら、刀を構えていた。
羽織の袖は裂け、頬には血が流れている。
だが笑っていた。
「悪ぃ、遅れた」
その後ろには、倒れた武士たち。
追手を振り切ってきたのだ。
中央の武士が顔を歪める。
「まだ追ってきたか……!」
ロウは刀を構え直す。
「人の雇い主、勝手に連れてくなよ」
「誰が雇い主だ!」
マナが涙声で怒鳴る。
その瞬間だけ、ロウが吹き出した。
「元気あるじゃねぇか」
だが状況は最悪だった。
武士はまだ多い。
しかも遠くからさらに馬の音が近づいてくる。
増援。
ロウの顔から笑みが薄れる。
「……ちっ」
ライも気づいた。
「ロウ、このままでは——」
「わかってる」
数では勝てない。
長引けば終わる。
武士たちも包囲を狭め始める。
逃げ道がない。
その時だった。
「若様!!」
突然、別方向から声が響いた。
全員が振り向く。
馬に乗った若い武士が一人、山道を駆け上がってくる。
そして叫んだ。
「当主様がお越しになります!!」
空気が凍った。
ライの顔色が変わる。
父が来る。
ついに。
伊波家当主が、自ら。
コメント
1件
うわああ第26話読み終わった…!!!😭💦 もう息継ぐ暇なかったんだけど!?武士に囲まれて万事休すかと思ったらロウが舞い戻ってきて「悪ぃ遅れた」…かっこよすぎるでしょ!!でもまだ数で押されて増援も来て、絶望かけたところでまさかの父上が来るって…次の話が待ちきれないよ〜😭✨ ライが「これ以上お前が傷つくのを見たくない」って言ったとこ、涙腺崩壊した…💔