テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
18
3,143
山道に、重い沈黙が落ちた。
「……父上が」
ライの唇から、掠れた声が漏れる。
追手たちの空気が一変する。
誰もが姿勢を正し、道を開け始めた。
馬の蹄の音が近づく。
ゆっくりと。
だが確実に。
やがて木々の奥から、一団が現れた。
中央にいる男を見た瞬間、マナは息を呑む。
黒の狩衣。
年齢を重ねても衰えない威圧感。
鋭い眼差し。
ライとよく似た顔立ち。
——伊波家当主。
ライの父だった。
馬上から静かに周囲を見渡し、最後にライを見る。
「……見苦しい姿だな」
低い声。
感情を押し殺したような声音だった。
ライは真っ直ぐ父を見る。
「父上」
「戻れ」
短い一言。
それだけで空気が張り詰める。
マナは無意識にライの袖を掴んだ。
父の視線がこちらへ向く。
冷たい。
まるで虫でも見るような目だった。
「それがお前を狂わせた男か」
マナの肩が震える。
ライが即座に前へ出た。
「侮辱はやめていただきたい」
父の眉がわずかに動く。
「……まだ庇うか」
「庇うのではありません」
ライは低く言った。
「愛しています」
空気が凍った。
追手たちすら目を見開く。
マナの呼吸が止まる。
こんな状況で。
父の前で。
それを口にするなんて。
だがライの瞳は、一切逸れていなかった。
父はしばらく黙っていた。
やがて静かに口を開く。
「愚かだな」
その声に怒鳴りはない。
だからこそ怖かった。
「お前は伊波の跡継ぎだ」
「……」
「家を継ぎ、多くの者を守る責務がある」
風が吹く。
木々がざわめく。
父の声だけが、静かに響く。
「一人の男へうつつを抜かし、全てを捨てるなど許されると思うか」
ライは拳を握り締めた。
「……許されないのでしょうね」
「ならば戻れ」
父の視線が鋭くなる。
「今ならまだ間に合う」
その言葉に、追手たちの表情も揺れる。
誰もが、ライが戻ることを望んでいる。
だが。
ライはゆっくり首を横に振った。
「戻りません」
空気が張り詰める。
父の目が細くなる。
「その男を捨てれば、許してやると言ってもか」
マナが目を見開いた。
ライも息を止める。
「家へ戻れ。跡継ぎとして生きろ」
父の声は静かだった。
「何もなかったことにしてやる」
破格の温情だった。
本来なら、許されるはずがない。
それでも父は、息子だからこそ道を残している。
マナの胸が苦しくなる。
これが正しい。
本来ライは、あちら側の人間なのだ。
自分と一緒にいていい人じゃない。
「……ライ」
思わず声が漏れる。
言わなければと思った。
戻って、と。
自分のせいで全部失わないで、と。
だが。
ライは振り返らなかった。
視線はずっと父へ向けたまま。
「嫌です」
静かな声だった。
けれど、誰より強かった。
父の眉がぴくりと動く。
「……何だと」
「俺は、マナを捨てません」
マナの目から涙が落ちる。
ライは続ける。
「家のために生きろと言われ、ずっとそうしてきました」
声が震えていた。
それでも止まらない。
「父上の期待に応えようとした。伊波の名に恥じぬよう生きてきた」
追手たちが静まり返る。
ライがこんな風に感情を露わにするのは、初めてなのだろう。
「……でも」
ライの拳が震える。
「それだけでは、駄目だった」
父は黙っている。
「マナと出会って初めて、自分が生きたいと思った」
その言葉は、痛いほど真っ直ぐだった。
「だから、戻れません」
長い沈黙。
風だけが吹く。
父はゆっくり目を閉じた。
その横顔は、初めて少しだけ老いて見えた。
「……そうか」
低い声。
感情の読めない声音だった。
やがて父は目を開く。
その瞳は再び冷たくなっていた。
「ならば、力ずくでも連れ戻す」
追手たちが一斉に動く。
ロウが即座に刀を構えた。
「来るぞ!」
空気が裂ける。
武士たちが一気に踏み込んできた。
コメント
1件
うわあああ第27話ヤバすぎた…!!😭💦 ライが父の前で「愛してます」「マナを捨てません」って言い切ったシーン、マジで声出そうになったよ…!!今まで家のために生きてきたライが、初めて自分の意志で選んだ相手のために反抗する姿が熱すぎる🔥 しかも「戻れ」って温情まで見せた父も、最後は「力ずくでも」ってなるところで親子の確執が深くて切ない…どっちの気持ちもわかるから余計に辛いわ〜 次どうなるの!?ロウも構えてるし、戦闘始まっちゃうの!?続きが気になりすぎるよ!!!🌸