──一月。
校舎の窓から差し込む冬の光は、冷たいけれど澄んでいた。
空気に少し張り詰めたような静けさがあって、 その分放課後の図書室はより居心地がよく感じられた。
先輩は、冷たい空気に溜息を吐いた。
「やっと、終わった…」
「受験?」
「うん。これで肩の荷が下りた感じだ」
机に肘をつき、笑顔を見せる先輩。
いつもより少し柔らかい表情で、肩の力が抜けている。
「久しぶりにゆっくりできるな」
「はい。よかったです」
静かな図書室で、ふたりで向かい合うだけで、
何も言わなくても安心できる時間が流れる。
「この冬休み、何してた?」
「家で本を読んだり、少しだけ勉強したり…」
「へぇ。俺も、合間に好きな小説読んでた」
「先輩も?」
「うん。あんまり勉強漬けじゃつまらないだろ」
笑いながら話す先輩の横顔が、いつもより少し大人に見えた。
長かった緊張が解けて、肩の力が抜けたからかもしれない。
窓の外では、冬の光が机にまぶしく反射している。
影が長く伸びて、ふたりの距離を少し近く感じさせた。
「…紬、放課後少し歩くか?」
「はい」
校舎を出ると、冷たい空気が頬を撫でる。
冬の空気は透明で、呼吸するたびに心がすっきりする。
先輩の横を歩くと、肩が少し触れる。
その瞬間、昨日までの緊張や不安が嘘のように、
ただ優しい気持ちだけが胸の中に残った。
受験が終わった今、
ふたりの時間は、またゆっくりと動き出す。
春までの残りの季節、少しずつ距離を縮めながら、
静かに心を通わせていくのだろう。
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