テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
※死ネタ、暗いです。以上よろしければお進みください。
いなくなったトラゾーをみんなで手分けして探し回り、思いつく限りの場所を全部探した。
「トラゾー…っ」
思い浮かぶのは笑う姿と傷付いて泣く顔。
謝りたい。
許してもらえなくても。
諦めさせてしまった俺に謝らせてほしくて。
「っ、もう、…あそこしか…ッ」
そして、一番最後に行き着いた一番大切な場所には思った通りトラゾーの車が停まっていた。
「!!」
ただ、トラゾーの姿はどこにもない。
「トラゾー!」
どんなに叫んでも声は返って来ない。
俺の叫ぶ声は波音と潮風に打ち消されるだけだった。
「トラゾーっ!!」
焦燥感に駆られ、震える手でスマホを取り出す。
とりあえずぺいんとたちに連絡をとり、警察とかに電話をかけた。
2人が来る間も探し回った。
濡れることも厭わず、砂まみれになってもトラゾーを探した。
「トラゾー!!どこにいるんだよ!!」
そんな大きな声も出せるんですねと、笑いながら出てきてほしかった。
「いた!」
駆けつけたぺいんとたちを見た瞬間、急に足から力が抜けてその場に座り込む。
慣れない砂浜を走り回ったせいで足が震えていた。
「「クロノアさん…!」」
「…ぺいんと、しにがみくん…」
ここに来る時にトラゾーの車を彼らも見たのだろう。
辺りを見回すぺいんとが大声を出す。
「トラゾーーーっ!!!」
返ってくるのは変わらず波音だけ。
「くそっ!トラゾー!!どこにいんだよ!出てこいよ!!」
ぺいんとは舌打ちをしてまた大きな声を張り上げる。
「トラゾー!!おい!!」
「トラゾーさん!!悪い冗談はやめてください!!出てきてくださいよ⁈」
しにがみくんの声もこだますること無く波音に消されていく。
3人で叫び続け、徐々に海の風の冷たさが体の体温を奪っていった。
「…トラゾー…」
小さく呟いた声なんて簡単にかき消されてしまう。
「……、」
こちらに向かってきているであろうサイレンが遠くで聞こえた。
警察から連絡が入ったのは2日後。
見つかりました。ご確認お願いします。という連絡だった。
その意味を理解したくないまま、言われた通りに警察署に向かう。
「……」
ぺいんととしにがみさんも連絡を受けたのか、待合室のようなところで俯いていた。
真っ青を通り越して真っ白な顔で。
「皆さんお揃いですね」
声をかけられ、とある部屋に通された。
薄暗く、好きとは言えない匂いのする部屋へ。
「「「……」」」
白い布。
それはTVや漫画の中だけの物のように思え現実味を感じれなかった。
「!!」
「お間違いないですか」
その布が捲られ、見えたのはずっと探していた大切な人。
俺らなんかの比じゃないくらい真っ白で血の気の引いた肌をしていた。
「…普通ならもっと体などに傷がついたりするのですが……とても綺麗な状態で発見されました」
確かに顔などには傷ひとつない。
その顔は死とは似つかわしくないほど全てを受け入れたかのように穏やかだった。
「……彼でお間違いないですか」
警官からそう声をかけられハッと我に返る。
「……、…間違いありません。俺らの探していた人です」
認めたくなかった。
信じたくなかった。
生きていて、ほしかった。
その場で泣き崩れるしにがみくん。
俯いたまま肩を震わせるぺいんと。
感情をなくしたかのように泣くことも叫ぶこともできず冷たくなったトラゾーを俺は見つめることしかできなかった。
───────────、
そこからは毎日がバタバタして、あっという間に時間が過ぎていった。
それなりにネットニュースや記事やらに取り上げられた。
俺らも活動どころでなく、しばらく休止するという形をとることにした。
「……」
空虚で喪失感を感じる毎日。
トラゾーはこの何倍、何百倍…言い表せないくらいの苦しみと悲しみとつらさを感じ、遂には自ら消えることを選んだ。
トラゾーがいなくなったことによって俺が失って取り戻した記憶は更に強固なものになったのは皮肉なものだ。
ぼんやりと思い出す。
過去の記憶を、自身の罪を。
「……」
手元に握られる小瓶を見つめる。
彼は両親の元へ帰った。
とても軽くなって。
「トラゾー…」
本来、形見分けとならないがトラゾーの両親から分骨として、遺骨を分けていただいた。
あなたには持っていてほしいと、言われて。
あの人たちにとって俺は恨むべき存在なのに。
トラゾーの優しさはこの人たちに似たのだろう。
全ての感情を飲み込み、大切な息子の骨を俺に渡す気持ちがどれだけのものか。
「ちっちゃくなっちゃったね」
俺の手元には更に小さくなって小瓶の中にいるトラゾーがいる。
「……」
ふと思い立ちふらりと立ち上がる。
あの場所へ行かなければと。
大切に小瓶を握りしめてそこへ向かう。
「トラゾー、…」
───────────、、
あの日のように、肌寒く冷たい海。
潮が満ち今にも呑み込まれそうな感覚になる。
「……」
どんな気持ちでここにいたのだろうか。
どんな顔をして立っていたのか。
「……」
寒くて冷たくて、苦しい思いをしながら海の中へ入っていくトラゾーを思い浮かべ胸が張り裂けそうになる。
それなのにあんな穏やかな顔で。
どこまでも優しくてお人好しで、心配かけまいと迷惑をかけないようにと。
「…ははっ、今更遅いってね」
靴も脱がず、一歩ずつ進む。
「でも、大丈夫だよ。…もう、絶対に独りにはしないから、トラゾー」
大切に持っていた小瓶の蓋を開けて中のものを口に入れる。
砂を噛んでるような感覚に、もしかしたらトラゾーもこんな感じだったのだろうかと思った。
「………」
異物とみなして吐き出そうとする反射を押し込め、無理矢理飲み込んだ。
喉を通っていく感覚、それすらを追い出そうとする嘔吐感にこんなにつらい思いをさせていたんだと、ホントに申し訳なくなる。
「っ、ぅ…」
こんな時に思い出したのは黒紫色の実のこと。
甘いや酸っぱいや不味い美味しいなんて笑った日のことを思い出す。
「、…」
胸元まで浸かる。
不思議と恐怖を感じることはなかった。
寧ろ穏やかな気持ちだ。
「最低だね、俺って」
いろんな感情が頭を巡っていたであろうトラゾー。
それなのに俺は反してひとつのことしか頭にない。
だって、俺の中にはトラゾーがいる。
「でも、もう離れないよ」
浮遊する体は、段々と沈んでいく。
「(ずっと、俺と、一緒)」
ぼやける視界、月の明かりが届かない薄暗い水の中。
──クロノアさんのバカ、
聞こえるはずのないトラゾーの泣いてる声が耳元でした気がして、思わず笑ってしまった。
そして、俺の意識もそこで途絶えたのだった。
桑の実の別称
………共に死のう
コメント
5件
”もしもの話”っていうのが心の支えですね、こうならなくて良かった…って思います 私はアンハッピーエンド嫌いです苦手です嫌です (できる限り見たくない派) アンハッピーエンド撲滅委員会でも開こうかな… でも見はします(矛盾してる…) なんだろう、ポン酢さんの作品アンハッピーエンドでも様になってるのが凄いです