テラーノベル
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結局、あの後はスタジオに戻らなかった。
若井や涼ちゃん、スタッフには申し訳ないけれど、今の僕にまともなディレクションができるはずがない。心ここにあらず、なんてレベルじゃないんだ。
家に帰り着くなり、僕はソファに深く腰掛けた。
手には、まるで体の一部になったかのようにスマホを握りしめている。
(……石川までは、新幹線でどれくらいだっけ。そろそろ着く頃かな。いや、まだ早いか)
一応、仕事のメールを確認するフリをしてみるけれど、文字が全く頭に入ってこない。通知の設定を「音あり」にして、さらに音量を最大まで上げる。
いい大人が、しかも自分から連絡先を渡しておいて、中学生からのメッセージを今か今かと待っている。客観的に見れば滑稽かもしれないけれど、今の僕にとって、これは新曲のリリースを待つよりもずっと、胃のあたりがソワソワする大事件だった。
それから数時間。
一向に鳴らないスマホを睨みつけ、「迷惑メールに入ってないよな?」「もしかして番号、書き間違えた?」と不安がピークに達した、その時。
ピコン!
静かな部屋に、待ち侘びた通知音が響き渡った。
僕は反射的に、0.1秒の迷いもなく画面をスワイプした。
「……あ」
そこには、らんちゃんからのメッセージ。
きっと何度も書き直したんだろうな、と思わせるほど丁寧で、それでいて彼女らしい真っ直ぐな言葉が並んでいた。無事に着いたこと、今日の感謝、そして「いつか恩返しができるように頑張ります」という力強い決意。
「……やった……!」
誰もいないリビングで、思わず声が漏れた。
自分でも引くぐらいに顔が綻んでいるのがわかる。
既読をすぐにつけてしまったことに気づいて、一瞬「早すぎたかな」と焦ったけれど、もう隠す必要なんてない気がした。
彼女が僕らを見つけてくれたように、僕もまた、彼女という光を見つけてしまったんだから。
僕は、彼女の緊張を少しでも解きほぐせるような、でも僕の「会えて嬉しかった」という本音が伝わるような返信を、一文字ずつ丁寧に打ち込み始めた。
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🌹はなみせ🍏