仕事が終わったあと、ふっかさんに連れられて焼肉屋にやってきた。
個室に案内してもらい、適当にメニューを決める。
「とりあえず、生でいい?」
「……あ、うん」
いつもなら自然に返せるはずなのに、どこか上の空だった。
目の前にはふっかさん。
相談しようと思って来たのに、いざとなると、何から話せばいいのかわからない。
注文したドリンクが運ばれてきて、軽くグラスを合わせる。
「お疲れ〜」
「……お疲れさまです」
ごくりと飲みながら、ちらりとふっかさんの横顔を盗み見る。
(どう切り出せばいいんだろう……)
沈黙が落ちる。
ふっかさんは、しばらく何も言わずに肉を焼いていたが、不意に口を開いた。
「……で?」
「え?」
「めめが話したいことって、結局なんなの?」
ズバリと問われ、思わず息を呑む。
「俺から聞き出した方がいい?」
「……いや、そういうわけじゃ……」
「じゃあ、ゆっくりでいいから話しな。悩んでるんだろ?」
優しい声だった。
けど、真剣だった。
無意識に拳を握りしめる。
「……あの」
深呼吸をする。
(大丈夫、まずは一歩ずつ)
そう自分に言い聞かせ、ゆっくりと口を開いた。
「……好きな人が、いるんですけど」
「うん」
「……その人、男で」
言葉を発した瞬間、心臓が跳ねた。
ふっかさんの反応が怖くて、思わず顔を伏せる。
沈黙。
怖い。何か言ってくれ——
「……そっか」
たった一言だった。
「……え?」
「うん、なるほどね」
それだけ言って、ふっかさんは焼けた肉をひょいっと自分の皿に移した。
驚いて顔を上げると、ふっかさんは特に動揺した様子もなく、普通に飯を食っている。
「……それだけ、?」
「ん? 何が?」
「……なんか、もっと驚くとか……」
「いや、そりゃまあ意外っちゃ意外だけど……めめが真剣に悩んでんのに、そこで驚いたら傷つくだろ」
さらっと言われて、言葉を失う。
「それに、俺は“好き”って気持ち自体に性別とか関係ないと思ってるし」
そう言いながら、ふっかさんはビールをひと口飲んだ。
「……めめにとって、大事な人なんだろ?」
その言葉に、胸がギュッと締めつけられる。
「……うん」
やっとの思いで答えると、ふっかさんはふっと微笑んだ。
「そっか。じゃあ、もうちょい詳しく聞かせてもらおうかな?」
まるで、何も特別じゃないかのように。
その優しさに、思わず目が熱くなる。
コメント
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優しいふっかさん😊