コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
七度目の【時戻り】。
私は二ヶ月半前にさかのぼり、魔法を使わず脚立から落ちた。
それからはブルーノに罵られ、オリバーに怪我を治してもらい、メイド長から職場変更の打診が来る。
私はメイド長の提案を受け入れ、庭園の手入れの仕事に回った。
☆
初日。
私は庭園の雑草を抜きながら六度目の【時戻り】で得た情報を思い浮かべていた。
抜いた雑草はかごに入れ、それらは処分場にある焼却炉でまとめて廃棄する。
この仕事は二度目なので、薬草と雑草の区別はつくし、水やりも慣れている。長時間しゃがんで作業するのは疲れるけど、作業が終わりさえすれば、自由な時間が取りやすいので、野外の行動はしやすい。
オリバーが小屋へ向かう時間を把握していれば、偶然を装って彼に接触することも可能だ。
「オリバーさま」
「こんにちは」
私はオリバーに声をかける。
オリバーは小屋へ向かう途中だった。書物を抱えており、これから魔法の研究を行うようだ。
「エレノア、仕事の方はどうだい?」
「順調です」
「それは良かった」
「オリバーさまは、どちらへ向かわれるのですか?」
「ああ……、ちょっとね」
行き先を聞くとオリバーは言葉を濁す。
小屋の存在は新米の私には話せないようだ。
「あの、一つお聞きしてもよろしいですか?」
「いいよ」
私はオリバーに聞きたいことがある。
すうっと息を吸ったあと、私は尋ねる。
「なぜ、私を雇って下さったのですか?」
「……」
私の問いにオリバーは黙った。
真面目な質問だと私の表情を見て、分かったからだろう。どこから話そうか考えているに違いない。
「ブルーノになにか言われたのかい?」
「ブルーノさまからは『ブス』『のろま』などの暴言だけです」
「あいつじゃないなら、スティナ義母さまかい?」
「いいえ、同僚です。その人から『ソルテラ家の従者は代々引き継がれていて、私みたいなよそ者が仕えるのは難しい』と言われて」
「なるほどねえ」
事情を聞いたオリバーは、うんうんと頷き、私の身に起こったことを理解していた。
「私のこと……、私が嘘を付いていること、オリバーさまはご存知の上で私を側に置いていますよね」
「まあ……、ね」
オリバーは肯定した。
「君の顔立ちはマジル王国民に多い。マジル出身だっていうのは分かっていたよ」
「その……、私がオリバーさまの暗殺を企てていると考えているとはーー」
「今更だよ。それなら僕はとっくに殺されている」
「……」
「君はスパイや暗殺者としては抜けてるところが多い。そういう教育は受けていないとすぐに分かったさ。ブルーノはまだ警戒しているみたいだけどね」
私の懸念にオリバーは笑っていた。
オリバーの言う通り、私はスパイや暗殺者の教育は受けていない。ただ、祖国にいるのが嫌でカルスーン王国に逃げてきただけ。彼はそれを見抜いていたようだ。
「敵国出身の君を雇わないといけないほど、ソルテラ家の従者は人手不足なんだ」
「……オリバーさまの温情に感謝いたします」
「話はこれで終わりかな?」
「いいえ」
私が敵国の人間だと知っていながらオリバーはメイドとして私を雇った。
そのことについてブルーノは反発しただろう。今も、私のことを目の敵にしている。
「マジル王国の民として、一つお伝えしたいことがあります」
この【時戻り】でオリバーの運命が変わるか分からない。だけど、今の私は彼に伝えたかった。
「百年前に本邸が全焼した事件……、あれはマジル王国が謀ったことです」
私は百年前の事件の真相についてオリバーに語る。