それからしばらくして、仕事も新しいチームが組まれた。
新たなプロジェクトに取り組む中、この前のシンプル4のCMと密着番組がいよいよ放送された。
CMはかなり好評で、シンプル4のおかげもあり、グミの売り上げがすごいらしい。
『文映堂』にとってもクライアントにとっても、嬉しい結果が出て本当にホッとした。
密着番組の視聴率も好調で、私も……少しだけれど出演してしまった。
一緒に見たいという朋也さんと2人で視聴し、自分がテレビ画面に大きく写った時は、ものすごく恥ずかしくて顔から火が出そうだった。
放送を見てくれたみんなは褒めてくれたけれど、やはり断れば良かったと後悔した。
今さら何を言っても仕方がない。
とにかく、もう次の仕事に気持ちを切り替えて頑張るのみだ。
今回は化粧品――
新しいアートディレクターが来て、私はそのチームに参加することになった。
やり手のディレクターのようで、バリバリ仕事をこなしていく。
今回も同じチームには夏希がいて、一緒に頑張っている。
朋也さんは……違うチームにカメラマンとして参加。
そのチームには、一弥先輩と菜々子先輩もいた。
そして、梨花ちゃんは、また別のチームになった。
『今日、一緒に帰れないかな?』
一弥先輩からメールがあった。
そうやって、時々誘ってくれる。
だけれど、朋也さんと一緒に住んでいることは、まだ内緒にしていた。
『ごめんなさい。今日は用事があって』
『また誘うね。断られても、何度でも』
『本当にごめんなさい』
そんな風に返信が来るたびに、申し訳ない気持ちになる。
私は……今日も朋也さんと帰る。
買い物して、部屋に入って、食事をして、お風呂に交代で入って……そして、リビングでくつろぐ。
話をしたり、テレビを見たり。
でも、朋也さんはそれ以上何もしてこない。
男女が同じ部屋にいても、ずっと朋也さんは何も……
「恭香。新しいプロジェクトどう? 上手くいってるのか?」
リビングのソファに隣同士に座って、2人で温かい紅茶を飲んだ。
ほんの少しだけ離れて座っているけれど、朋也さんがすぐ近くにいる感覚はまだまだ全然慣れない。
「うん、すごく順調だよ。新しいアートディレクターが結構厳しいけど、一致団結して頑張ってる。夏希がチームにいてくれるからすごく心強いよ。そうだ、モデルも決まって、コピーのイメージがすごく湧いてきてるの」
「そっか。順調で良かった。社長も喜んでる。今回はライターは恭香だけだから、大変だけど頑張れ。浜辺さんにも頑張れって伝えておいて。あいつは、時々ヘマするから」
「うん、夏希に言ったら喜ぶよ。今は違うカメラマンについて、ちょっとしごかれてるみたいだし。あ、でも……夏希は朋也さんにもしごかれてたよね」
「そんなことはしてない。俺の指導は優しい……はず」
私が笑うと、朋也さんも少し笑った。
「朋也さんこそチームはどう? 一弥先輩と菜々子先輩が一緒だし、まさに最強チームだよね」
「仕事だから、もちろん全力を尽くしてる。そこは手は抜かない。ただ……恭香がいないのが寂しい」
朋也さん……
真っ直ぐな気持ちを伝えてくれて、少し照れるけれど本当に嬉しい。
「ありがとう。私も仕事は手を抜かずに頑張るね。今回の化粧品も最高に良い商品だし、モデルさんもめちゃくちゃ可愛いから、何としても素敵なコピーを考えるね」
「ああ、恭香なら大丈夫だ。前にお前が出したグミのコピー、いくつもあったけど、俺は全部良かったと思った。あれをボツにする気持ちがわからない」
「朋也さん、私のコピー見たの?」
「ああ。良く考えられてて、商品にピッタリの作品がたくさんあったのにもったいないな」
「ありがとう……残念だったけど、そう言ってもらえただけでも、頑張って良かったと思えるよ。次はちゃんと選んでもらえるように気合い入れるね」
「俺はいつだって恭香を応援してる。朝から晩までずっとお前のことを想ってるから。たとえそばにいなくても、恭香はずっと俺に頑張る力をくれる。そのおかげで俺は頑張れてるんだ」
「わ、私にはそんな力なんかないよ。私は何もしてない、朋也さんがすごいだけだよ……」
嬉しいくせに、なぜかひねくれた言い方をしてしまう。褒められることに慣れていないからか、本当に恥ずかしくて……
「お前は自分で気づいてないんだ。恭香にはものすごく大きな力がある。俺を喜ばせたり、落ち込ませたり。恭香の行動が俺の心を左右する。俺にはお前が全てだから」
甘過ぎるセリフをこんなにもイケメンな朋也さんに言ってもらっている幸せを、今、私は1人噛み締めた。
やっぱりドキドキする。
幸い朋也さんは前を向いているから、私からは見えない。
でも、隣から感じるオーラがあまりにもすごくて、ますますドキドキが加速した。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!