「そんなこと……。朋也さんの全てだなんて……」
「恭香はさ。好きな人がいるんだよな」
朋也さんのストレートな質問に驚いた。
「えっ?」
それ以上何も言えなくて、黙ってしまった。
「好きな人。一弥君だろ?」
えっ……
どうしよう、顔に出てしまったかな?
「あ、あの……」
「もちろん、一弥君は良い奴だと思ってる。仕事もきちんとこなす。ただ……俺は恭香のことだけは絶対に譲れない」
朋也さんは、ソファの背もたれから背を起こし、前かがみになった。
顔をこっちに向け、真剣な眼差しで私を見た。
「朋也さん……」
「恭香は……どれくらい彼が好きなんだ?」
「……えっ、えと……」
「はっきり教えてほしい。俺と一弥君、どっちが好きなのか……。それとも俺には可能性はないのか?」
「そ、そんなことは……。きっとこんな状態でいたら、結局、2人ともに嫌われてしまうよね。こんな答えも出せずにフラフラしてる私なんて……」
「えっ……」
本当にそうだ。
私なんかがもったいないくらいの告白を受けて、しかも、2人から……
それに酔ってフラフラ迷って……
最近会ったばかりの朋也さん、ずっと大好きだった一弥先輩――
2人とも本当に素敵過ぎて、私の気持ちが迷路の中でウロウロ迷子になっている。
そして、もしこれが出口のない迷路だったら……
私はいったいどうやって抜け出せばいいのだろうか?
「私ね。今日、一弥先輩から告白してもらったの。ずっと好きだった先輩から……」
一弥先輩に告白されたことを、私は自然に朋也さんに話していた。本当は良くないとわかっていたけれど。
「そっか……」
「朋也さんも、一弥先輩も、私にとってはとても大切な存在で……」
「恭香は、一弥君のことずっと好きだったんだな」
「うん。一弥先輩は、私をいつも励ましてくれたから。失敗しても責めたりしないし、丁寧に教えてくれたり、私にとって大切な存在だった。本当に……すごく優しい先輩なの」
そう言うと、朋也さんは少し怖い顔をした。
ドキッとする。
「恭香にとって一弥君が大切だったってことはわかった。そして、彼も……恭香のことが好き。だけど、一弥君がどんなに恭香を想っても、それは、俺が恭香を想う強さには絶対勝てない」
「えっ……」
朋也さんの言葉が強烈につき刺さる。
そして、朋也さんは、座っている私の腰に両手を回し、すごく優しく抱きしめてくれた。
「俺、ズルいな。同じ部屋にいて、こうやって恭香を抱きしめられる。これじゃあ、フェアじゃないよな」
「朋也さん……」
「俺にも可能性はあるんだよな? 恭香はどちらかで迷ってる……」
「……うん」
「だったら良かった。でも、もし可能性が無いと言われたとしても、俺は恭香を絶対に諦めたりしない」
「ごめん……なさい」
「謝るな。俺は恭香が好きだから。一弥君よりも何万倍も……お前が好きなんだ」
朋也さんにギュッと抱きしめられて、私はとてつもない安心感に包まれた。
キスをするわけでもない、体を求めるわけでも……
ずっといつも私のことを考えて大切にしてくれている。
朋也さんはズルくなんてない。
ズルいのは、私――
私達は、それぞれの部屋に入った。
朋也さんは、一弥先輩のことを信頼している。
仕事ではお互いを認め合っている2人だから。
私は、本当にどっちが好きなの?
ベッドにもぐって目を閉じてみるけれど、なかなか眠れなかった。
疲れているはずなのに、何度も寝返りを打ってしまう。
何も考えないように、無になるようにと必死に自分に言い聞かせるけれど……
どうやっても全然効果はなかった。
朋也さんも一弥先輩も、私の頭から離れない。
2人の笑顔や優しい仕草、嬉しかった言葉……
交互に出てきては消えて……
本当に、この厄介な自分の心を軽蔑しそうになる。
もう早く眠ってしまいたい。
だけれど……私は夢の中でも、2人のことを考えてしまうのだろうか。
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