コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。マスターの鬼のような訓練を夜まで行った私は、疲れきった体を湯船に沈めて一息しています。もちろん大浴場ではなく個人用のお風呂です。数少ない贅沢ですね。
「お疲れだな、シャーリィ」
当たり前のようにルイと一緒に入ってるんですけどね。もちろん素っ裸です。羞恥心?幼い頃からあんまりありませんね。で、
いつものように後ろから抱きしめられるようにして湯船に浸ってます。
「マスターは非常に厳しい方であると再認識できました。もう火傷が怖くなくなりましたよ」
今日だけで数十回大火傷を経験しましたからね。最後の方は痛みに鈍くなってきて焦りましたよ。
「そりゃ大変だったなぁ。シスター並みか?」
「シスター並みです」
お母様、シスター、マスター。私が師と仰ぐ方々は皆厳しいのです。優しい師匠が欲しい。
「そっか、俺にも手伝えることがあると良いんだけどなぁ」
「ルイに頭脳労働は求めません。居てくれるだけで癒されますので」
ルミを喪った私は、ルイが居なかったら生きていなかったかもしれません。家族を喪い、親友さえ喪った私の精神状態は最悪でしたからね。
「そっか。それで、どうだったんだ?」
「色々試してみた結果は、悪いものではありませんでした。魔法剣は十分前後維持できることが分かりました」
更に、魔石の魔力消費も思ったより少なく済んでいます。マスター曰く数日間出していても問題ないのだとか。私の精神が持ちませんが。
「長いな」
「出しっぱなしにした場合です。戦闘の合間は消しておけば良い」
更に柄を作れば更に負担を減らせますし、何より火傷しなくて済みますからね。
「炎の剣かぁ、ロマンがあるよなぁ」
「温度もある程度ならば調整できますからね。攻撃にも防御にも活用できます。それに、魔法障壁なんてありませんから防ぐ手立ては少ない筈」
「普通魔法の剣なんて考えないからな」
「しかも、明日完成する柄があれば持ち運びも簡単。暗器としても使えますね」
「益々万能だよな」
「出来ればルイにもと考えたのですが」
ルイにプレゼントした水の魔石は大きくて、今では大浴場のお湯を貯めるために使われています。
「あれを持ち運ぶのはちょっと邪魔になるな。俺の事は良いさ」
「ルイがそう言うなら」
「それより、今は疲れてるだろ?ゆっくり休めよ?俺にはこれくらいしか出来ないからさ」
私を後ろから抱きしめながらルイがささやきます。その気持ちが嬉しい。
「まだまだ先は長いんです。次は活躍してもらいますからね?ルイ」
「おう、任せとけ」
こうして夜が更けていき、翌朝。
「嬢ちゃん、こんなもんか?まずは試作品だ」
ドルマンさんが届けてくれたのは、魔石を埋め込むための窪みがあるシンプルな剣の柄でした。
「ありがとうございます、ドルマンさん。早速使ってみますね」
魔石を窪みに嵌め込み、取れないように金具で押さえて。さてと。
柄から刃だけを生み出すようにイメージして。
「炎よ!」
ゴウッッ!!っと柄から炎の刃が飛び出します。形は洗練されており、遠目には赤い刃の剣にしか見えません。
「おおっ!」
「よし、上手く行ったな」
ルイが驚いて、ドルマンさんが安心したように言いました。私は何度か剣を振るって刃を消しました。うん、柄も軽いので振り回すのも簡単です。
「熱いままですか」
当然柄の刃が吹き出していた部分は熱いままでした。
「すぐに冷やすしかないな。熱に強い金属で作り直してみる。しばらくはそれで我慢してくれ」
「はい」
まだ試作品ですからね、排熱の問題はドルマンさん達に任せるとしましょう。この熱い部分には濡れた布を押し当てるか水に浸すことで冷やすことにしましょう。
「なら水筒を持ち歩けば良さそうだな」
「名案ですね、ルイ。冷却用の水筒を持ち歩くことにしましょう」
よし、新しい武器が完成したので次なる一手を打つことにしましょうか。
「ベル」
「なんだ?お嬢」
「『エルダス・ファミリー』に手紙を届けることは可能でしょうか?」
「本部にか?事務所はあるからそこに届ければ良い。まさか」
「はい、手紙を認めます。『エルダス・ファミリー』のボスに宛ててです」
「怖いもの知らずだな」
「あちらがキッドについて詳細に知らせるだけですよ。下手な策略なんかしないで真正面から掛かってきたらどうなんですか?と」
だって彼らからすれば私達は弱小勢力なんですよ?それを相手に策を巡らせるなんて、恥ずかしくないんですかと。
「おいシャーリィ、それ完全に挑発じゃねぇか」
「そうですよ、ルイ。キッドの件で手を引かれては困りますからね。あちらの十六番街へ乗り込むにしても、もう少し勢力を削いでからです」
私は臆病なので、あちらから来ていただかないと。
「分かった、手紙を用意してくれ。伝を使って届くようにしておく。それに、残った幹部は血の気が多いからな。簡単に乗るだろ」
「そうなのか?ベルさん」
「ああ、特にバンダレスの奴はな。上手くいけば真正面から攻めてくるぞ」
「それは望むところですな。新型の機関銃をテストするのに最適だ」
マクベスさんの言う通り、ドルマンさん達は手回し式ではない機関銃の開発に成功しました。もちろん『ライデン社』の最新モデルに比べれば性能は高くないそうですが、それでも火力は優れています。
それに、以前から着目していた地雷なる兵器の開発も順調です。地面に埋め込む爆弾なんて、素敵じゃないですか。
「マクベスの旦那が言う通りだな。真正面から来てくれた方が俺達も楽だ」
「では直ぐに用意しますね」
私はその日のうちに手紙を書いてベルに託すのでした。
それから二日後、十六番街にある『エルダス・ファミリー』の本部ではキッド一派の死亡が冒険者ギルドから知らされていた。
「あのばか野郎が!」
エルダスは憤激して机を激しく叩いた。
「けっ、お高く止まってるからそうなるんだよ」
幹部のバンダレスは鼻で笑う。冷静なキッドとは馬が合わずいつも対立しており、それが消えて喜んでいた。
「ボス、ボス宛てに手紙が届いてるぜ。真っ白で綺麗な紙だ」
そんな時、シャーリィからの手紙が届く。
「手紙だぁ?貸してみろ」
珍しい植物紙の手紙を開き、中身に眼を通すエルダス。
『あなた方の幹部キッドおよび十名の方がうちのダンジョンで亡くなりました。まさか警戒していないと勘違いさせてしまいましたか?だとするならば謝罪します。あの程度の策に引っ掛かる幹部が居るとは思いませんでした。下手な策略など私には通じませんよ?こんな弱小勢力相手に、恥ずかしくないのですか?もしかして私達のことが怖いんですか?武闘派で知られるあなた方が?まさか、そんなことはありませんよね?どうぞ『エルダス・ファミリー』の本領を見せてください。私達はいつでも歓迎しますよ。あっ、来ないなら来ないで構いませんよ?うちに恐れを成したとシェルドハーフェン中に流布するので』
そう記された手紙を読んだエルダスは顔を真っ赤にした。まるで噴火寸前の火山のように。
「舐めやがってあの小娘がぁあっ!バックに『オータムリゾート』が居るからって調子に乗りやがって!!!」
「どうしたんだよ!?親父」
「バンダレス!!二百人連れていけぇ!!あいつらを叩き潰してこい!!舐めたこと抜かした小娘を八つ裂きにしてやれ!!」
「なんだなんだ?親父を怒らせたのか?運がねぇなぁ。任せとけ!!」
激怒したエルダスは、幹部のバンダレスに二百人を与えて武闘派組織らしく真正面からの攻撃により『暁』を叩き潰すことを命じた。
シャーリィの思惑通りに。