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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。『エルダス・ファミリー』への手紙は無事に送り届けられたみたいなので、あちらの動きを警戒しつつ私達は内政に力を注ぎます。

町の建設は人員も増えたことで順調に進んでいます。少なくとも今『暁』に属している人達全員の居住環境は最優先で整えました。次は水路と下水道の整備です。

人間が生きている以上排泄物が出来るのは当たり前、その処理として下水道を作り離れた場所に破棄する。そんな概念は帝都にしか存在していませんでした。

何せ、排泄物はそのまま肥料として使われていましたからね。衛生的に悪くて更にハエが多い。そのことに困っていましたが、これなら問題を解決できそうです。

下水道の整備そのものは概念さえ分かればそれほど難しいことではありませんでした。各家屋のトイレからパイプを通じて汚物を流すだけです。流した先も河川を汚染しないように下流の誰も使わない場所に設置しました。

次に用意しなければいけないものは、やはり皆さんの被服です。

他所から仕入れるのも良いですが、町を作る以上自給自足が出来ればと考えています。売り物にもなりますからね。

「それについてはご報告がございます、お嬢様。今回引き入れた人材の中に被服関連の仕事をしていたものを数人見つけましてございます」

セレスティンの報告は非常に有り難いことでした。探していた側から人材が手に入るなんて。

「では材料を用意して、彼らに被服の生産と販売を任せてみましょうか。専用のお店も建設候補に加えてください」

お金を使う、つまり経済を回すのです。投資は必要ですが、必ず回収できれば問題ない。

「御意、綿なども農園で生産できればと考えております」

「ロウと相談してください。結果は事後報告で構いません」

「御意」

原材料を自ら調達できるならコストも下がります。それに、農産物以外がどんな成長を遂げるか気になりますからね。

商店についてはマーサさん達の加入後で良いでしょう。またピンクにされそうで不安はありますが。

「その職人さん達と顔を会わせておきましょうか。長い付き合いになる筈ですから」

「御意」

私は『大樹』前の広場にやってきました。そこには数人の男女が神妙に……おや?まさか!

私は一人の俯いた金髪の少女に駆け寄ります。間違いだったら恥ずかしいのですが!

「もし!貴女はまさか、エーリカではありませんか!?」

私が問い掛けると、少女も慌てて顔を上げました。その顔は驚愕しています。

「まさか、まさか……お嬢様!?シャーリィお嬢様なのですか!?」

腰まで延びる綺麗な金髪、そして意志の強そうな青い瞳!間違いありません!

「お嬢様、お知り合いで?」

「気付きませんか!?セレスティン!エーリカです!エリサさんの娘さんの!」

「なんと!」

そう、彼女はアーキハクト伯爵家御用達の被服職人エリサさんの娘さんなんです。屋敷によく出入りしていまして、その時に親交を得た数少ない悪ゆ……けふんっ!親友です。まさかこんな形で再会するなんて!

「お嬢様っ!……お嬢様ぁあっ!!」

いきなり泣き出して抱き付いてきたのは予想外でしたが。とっ、とにかく!

「解散しなさい!セレスティン、落ち着ける場所を!」

私はエーリカを抱きしめながらセレスティンに指示を出しました。訳ありなのは間違いない。

「御意、此方へ」

私は泣くエーリカを抱きしめたままセレスティンの先導で教会の私室へ戻りました。

ここなら他所の眼を気にする必要はありません。

エーリカを椅子に座らせて私も向かいに座り、セレスティンが淹れてくれた紅茶を飲みながらエーリカが落ち着くのを待ちました。

「落ち着きましたか?エーリカ」

エーリカが泣き止んだのを見計らって声をかけます。

「……はい、お嬢様。お手数をお掛けしました」

「それは構いませんよ。聞きたいことがたくさんありますがね」

「私もです。先ずは……御無事で本当に良かったです。亡くなられたとばっかり……本当に……良かった……」

「心配させてしまったみたいですね。でも、私はしぶといんですよ。あの程度じゃ死にはしません。エーリカもよく知っているでしょう?」

「ふふっ……そうでしたね」

ぎこちないですが、ようやく笑顔を見ることが出来ました。うん、笑顔の方が似合いますね。

「それで、何があったのですか?なぜ奴隷なんかに?エリサさんは?」

今のエーリカはボロボロの服だけを纏い、靴も履かず裸足のままです。どう見ても奴隷扱い。

「それは……」

「辛いなら話さなくて構いませんよ?私にとって貴女は今でも友人だと思っています。保護するのは当たり前なのですから」

無理に聞く必要はありませんからね。

「いえ、お嬢様にはお伝えしなければいけません。あの後何が起きたのかを」

顔を上げてエーリカらしい強い瞳を向けてきました。

「聞きましょう」

「最初に、伯爵領はマンダイン公爵家に併合されました」

「は?」

マンダイン公爵と言えば、お父様を目の敵としていた大貴族です。それより併合?ルドルフ叔父様は一体……?

「名目上は保護でルドルフ様を立てていますが、実際には傀儡だそうです。マンダイン公爵の統治は最悪で、税金も高くて私達は日々の食べ物に困るほど搾取されました」

帝国貴族にとって民は搾取する対象でしかありません。内政も適当で、ただ重い税を課すだけです。お父様はそれを否として民を愛し領地改革に力をいれていました。その結果領内は発展しました。

当たり前ですよね、治水工事、道路の整備、産業商業の推奨、税制改革。内政に力を入れれば領地は豊かになりますし収入も増えるわけですから。

「たった一年で領内は最悪の状態になりました。旦那様の成果を全部吸い上げて、私達は皆奴隷のような扱いを受けたんです。それでもお母さんは服だけでも綺麗なものをって、少ない材料を遣り繰りして服を作って皆に配っていました。でもっ……!」

エーリカが握り拳を強く握ります。

「三年前、お母さんがアーキハクト伯爵の御用職人だと気付いたマンダイン公爵家は私達を捕まえて……お母さんはっっ……!」

大粒の涙を流すエーリカ。それだけで何が起きたのか分かります。

そっか、エリサさんはもう……。

ただ、私は悲しみを感じつつ大きな疑問が浮かびました。そう、何故です。

彼女達は、アーキハクト伯爵家の一族ではないんです。親しかったですが、言ってしまえば御用職人、それだけです。なのにマンダイン公爵家はわざわざ探し出して処刑している。一族でもない、ただ伯爵家に出入りしていただけで。

……そこに明確な悪意を感じたのは私だけでしょうか。これは詳しく話を聞く必要がありますね。

シャーリィ=アーキハクト十七歳春の日。幼馴染みと再会を果たした私は、あの日の真相に少しだけ近づくこととなりました。

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