雪の舞う夜に、燃え盛るひとつの家。
その周りには見物客らしき人々が屯している。
 「おおぉ、すげぇ燃えてるなぁ…消防はまだか…?」
 「これ、やばくね…とりまインスタにあげよ」
 「うちに燃え移ったりしないわよね、これ…」
 意志を持っているかのようにうねるように動く炎は、人の命を容易に奪えるほどの大きさを有していた。
 しかし野次馬が行ったことは、その燃える家にスマートフォンのカメラを向けることだけであった。
 まるで、あくまで自分は他人事であると示すかのように
 そんな中、ひとつの声があがった。
 「おい!2階に人がいねぇかぁ!?」
 その声を聞いて、野次馬達は首とスマホを上に向けた。
 確かに2階の小窓には人影のようなものが蠢いているのが見えた。
 「おぉ、まじだ!取り残されてるやつがいるぞ!?」
 「えっ、マジじゃん。でもこの炎じゃ死ぬくね?」
悲しきかな、それでも野次馬はスマホを向けるだけであった。
 どこまでいっても目の前の光景は自分には関係ない。
知らない人間がどこで不幸になろうが、死のうが、自分たちはなんら変わらない日常を送ることができる。
 そんな第三者の精神がこの異常ともいえる光景を生み出していた。
 灼熱の炎が人の営みの証拠と、命を崩していく。
 そして、その中には1人の男がいた。
 元は寝室であっただろうその部屋は、充満する黒煙と炎により、原型を失っていた。
 男は自分の服に噛み付く炎をものともせず、何かを探すように辺りを見渡す
 そして何かを見つけたのか一目散に駆け寄ってそれを見つけた
 「なんで…」
 男の眼前には2つの骸が転がっている。
 その顔は鈍器で殴られたような激しい打痕の跡があった。ただの火事では出来ることのない傷。
 一見すれば誰かも分からないその遺体。
 「父さん、母さん…」
 しかし男はその骸を抱き抱える、まるで飛んでいってしまいそうな物を必死に引き留めるかのように……強く強く抱き抱えた。
 そして号哭が響く。
 
 「なんで…なんでこんなことに…!! 」
 炎は男の涙を蚩うように囂々と燃えていた。
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 「焼き芋~焼き芋~ホッカホカの焼き芋だよ~。」
 空気がシンと冷え、地面と吐息が白く染められる冬の夜。
クリスマスシーズンであるこのスタジェムシティは、イルミネーションの装飾によって煌びやかに彩られていた。
 「お母さん、あのゲーム欲しい!」
 「あら、ゆーくんは今年いい子だったしサンタさんが来て、あのゲームくれるかもよ」
 
 「寒くない?マフラー貸してあげようか。」
 「ううん、大丈夫。そのマフラーは私があげたものだし、何故か今凄く体が熱いの。」
 家族連れやカップルらしき男女が、今日は自分たちが主役とでもいうように幸せそうな雰囲気を醸し出しながら、街を廻っている。
 その中を声高らかに焼き芋屋が、街の大通りを通り過ぎていく。
 雪に気をつけるように、歩行者に合わせるようにゆっくりと、甘い匂いと間延びした声をこのスタジェムシティに散布していく。
 その焼き芋屋が歩道を歩く1人の青年を追い越していく。
 薄めのオーバーサイズ黒パーカーに青のデニム。
軽装とはいわないが、この寒空の下では些か薄寒く感じる服装である。
 「いいなぁ、焼き芋。俺たちもくいてぇなぁ…」
 「ぷぃ~…」
 その男…ヒイラギは非常に焼き芋を食べたい気分であったが、目で追うだけでその車を見送った。
 理由は単純明快。
金が無いからだ。
 もう何度目かも分からない財布の中身確認。
 無駄と分かってるがせずにはいられない。
もちろんのこと、中身は変わっていなかった。
 それを見てはぁ…と溜息をつく。
吐息が凝結し、白いモヤのようなものを作ってきえた。
そうして、足元にいる毛玉に話しかける。
 「バイトでもいいから、職が見つかるまで帰ってくるななんて、母さんと父さんも無茶いうよな、イーブイ」
 「ぷっきゅるるる…」
 不貞腐れたように俺を睨むこいつはイーブイ。俺が高校入学と同時に両親からプレゼントされたポケモンだ。
 仔犬のような小さい体に、ウサギのような可愛らしい耳。そしてキツネのようなモフモフの尻尾を備えるという、非常に庇護欲を掻き立てられる可愛いポケモンであるが俺のイーブイはその長所を全て無に帰すような短所がある 。
端的にいうと性格が最悪だ。
 具体的な性格最悪エピソードを挙げるとキリがないが、流石に町中の外干し洗濯物を集めてきて俺の部屋の前に置いていった時はほんとに野に返そうと思った。
 それも両親の反対とイーブイの強い抵抗により未遂に終わったのだが。
 「なんだその目は、俺が悪いとでもいいたそうだな?」
 「ブイ!!」
 「すっげぇ元気だなお前!?… そうだよ俺が悪いよ!高校卒業から何時まで経っても就職しようとせずにゴロゴロしてる俺なんて追い出されても仕方ないと思うよ!! 」
 でも、と息を大きく吸って柊は叫ぶ 。
 「俺は根っからのゴミだから、働くなんて高尚なことは簡単にできねぇんだよ!! 」
 今日1日、カラオケやコンビニなどいろんな場所にバイトの申し込みをしてきた。
しかし戦績は撃沈。33-4。その場で不採用って言われた。
 高校卒業以降、殆ど親とゲームキャラ以外にまともに話さなかった男のコミュ力は伊達ではなく、緊張でキョドるわ質問にはまともに答えられないわ、散々な結果だった。
 どれくらい散々かというと、途中面接感の顔で何となく合否が分かるくらいには散々だった。
 もうなんか、高校のテスト返しを思い出した。
先生の顔で、何点くらいか分かるみたいな。
 
 そうして面接を何軒もハシゴしているうちに日は暮れて、チラチラと雪が降り出してきてしまい今に至るという訳だ。
 「うぅ、寒っ」
「プイ~…」
 なんの準備も事前報告もなしに突然追い出されたため、俺の今の装備は12月の夜にしては、あまりに貧相すぎる装備。
 歯がガチガチなって歯止めが効かない。(歯だけに)
 イーブイも寒そうに足を内股にして擦り合わせるようにブルブルと震わせている。
 こいつは全身に暖かそうなモフモフの毛がついているが、12月の寒さには焼け石に水程度なのだろう。
 「だから言ったろ、雪も降ってくるから予報だから寒くなるぞって、…今からお前だけでも家にかえっとけ。」
 「プイィィィィィ!」ガブッ
 「あっ痛い痛いぃ!噛むな噛むなよ!ごめんごめんごめん?!!」
 突然、俺の腕に勢いよく噛み付いたイーブイをなんとか振りほどく。
イーブイは地面に落とされても尚、俺の方を向き唸り声のような低い声をあげている。
 一体なんだってんだ。
 「なんだよお前…せっかくお前のことを想って言ってやったってのに」
 「プイッ」
 「ほんとになんだってたんだよ…」
 そっぽを向いてすっかり拗ねてしまったイーブイ。
どうやら帰るつもりはないようだ。
 しかしその足は先程より、ブルブルと震えている。
振られる尻尾の動きも激しさを増しており、
強がっているが、無理をしてるのは明らかだ。
 それを見て俺ははぁ、と溜息をつく。
 「次も駄目だったら、土下座して家に入れて貰えるように頼むかぁ。」
 俺もこいつも余裕がない。
流石に子供が凍死しかけてるのだから、入れてくれるだろう。
 そう言って向かう先は、小さな文房具屋。
小学生の頃、好きなアニメキャラが印刷された下敷きを買いもしないのによく見に行って、店主のじっちゃんによく 冷やかしならくんなと言われていたのを覚えている。
 それでも、時々売れ残りだからといろんな文具を与えてくれた。
 そんなやり取りが、子供の俺には何故か楽しく感じていて、小さい頃は毎日のように通っていた。
あの店はこの前通りかかった時、窓にバイト募集の古紙が貼られていた。
 店主が歳で腰を痛めてしまい、1人ではどうしようもなくなってしまったのでバイトを募集しているらしいと隣の情報通のおばさんに教えて貰った。
 その話を聞いて少しの寂寥感を感じたが、あまり深く考えないようにしていた。
 「……」
「ぷい?」
 「いや、何もねぇ。早くしねぇとあの店閉まっちまうし走っていくか。」
 気がつけば今は6時半。
 店がしまるのは7時半程であるため、面接も考えると早く行くに越したことはないだろう。
 「この際結果はいいから、面接して早く帰ろう。 」
 「ぶい!」
 今日何回目か分からない溜息をついて、文房具屋に向かう。
 でもこの時の俺は知らなかった。
 
 
 「いしや~き芋!お芋~。いしや~… !?」
 
 
 全てを根絶やしにするような煉獄の炎が
 
 
 
 「かっ、火事だ!!消防車っ!」
 
 
 
 俺の大事な物を飲みこんでいた事を。
 
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紹介
 ヒイラギ  カナタ
 年齢  19歳
 大学受験に失敗し、燻って家で半年以上ニートのような暮らしをしていたが、親が許さず一時的に家を追い出した。
 ポケモンに対する知識は浅いが愛情は深く、どんな見た目のポケモンでも平等に愛を注ぐので彼と関わるポケモンは、だいたい彼に懐いている。だが本人はそれに全く気づいていないよう。
 身体能力は人並みだが、反射神経が飛び抜けており、学生時代はドッヂボールで重宝していた。
 本作の主人公
 イーブイ
 ヒイラギに構って欲しくてイタズラ好きな性格になった。ヒイラギは知らないが彼がいない時は基本的に大人しく、礼儀正しい。
 主人が過保護のため、ポケモンバトルはあまりしたことがない。そのためバトルの腕は未知数。
 
 
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