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怜の過去ストーリー
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雲一つない晴天のある日、小さな村の一角に一人の男の子が産まれた
元気で大きな産声を上げ、丁寧に丁寧に母親に抱き上げられる
月日が流れるにつれて、次第に少しずつ成長しそれと同時進行で目も開き出す
この村では目の色で階級が決まり、一番上の階級の者が次の教祖様になる
一番上もいるのなら一番下もいる
一番下の者はまるで奴隷のような扱いを受け、その人たちは皆教祖様に縋る
教祖様の教えを言われるがままにし、それが自分を救う行為だと信者は勝手に思い込む
だが中にはそれをおかしいと思い込み、反対をする者もいる
そんな人は皆、教祖様の信者によって次の日には跡形もなく姿を消している
だから従うざるを得ないのだ
そうやって村は毎日平穏を保ってきた
そんな恐ろしい風習が始まったのは遠い昔だった
19XX年、この時代、この辺りではそこら中が自身の村の領地を増やすがために争いが起きていた
そんなことが続く中、人々は次第にこう思い始めた
こんな事が起きたのは全て作物を刈り取り、木を伐採していく我々のせいだ
神を怒らせたんだ、神を鎮めるためには神聖な人が必要だ
そう思い始めてから動くのは早かった
狐が一番神に近い動物とされ、その狐の目は黄色だった
人々は黄色の目の子が産まれるたびにその子を神聖な子とし、崇めた
教祖様である神聖な子は血の繋がりがある者以外は顔を合わせては行けない
穢れた血が入っている者とは関わってはいけないという決まりが作られていた
そんな村で産まれた子の名前は怜
ゆっくりと瞼を開ける、その目の色は綺麗な青色だった
両親はその目の色が見えた瞬間から焦りに焦った
何故なら両親共々、目の色は黄色であり本来なら怜は教祖の立ち位置を受け継ぐはずだった
両親は焦りながらもどうこの事を村の者には隠すか考えた
流産した?不慮の事故?思いつく言い訳はいくつでもあった
なぜならこの村では全て神を怒らせたという事で片付けられる
そんな事が起これば自分たちは神聖な者じゃないとされこの立場を降ろされ生贄にされるに違いないと考えた
ならもう最初からこの子をなかった事にする?殺してしまう?
外で元気に蝶を追いかけ遊んでいる怜を見てはそんな事は出来ないに決まっていた
そんな事を数日考えている間にも信者たちは祈りを捧げ、助けを求める
そんな中で月日が流れるにつれて怜は少し出かけてくると言い、外に出ようとする事が何度もあった
教祖の決まりとし、狐としての牙は当たり前だがない、それでもそれを隠すための道具で口に覆い布をする事が決まりとなっている
怜が外に出る度に無理やりにでも付けさせる
ところがある日の朝、部屋の何処を探しても怜は見当たらなかった
焦った両親は急いで村を探しに回るがやはり何処にもいない
村の皆にこの事が知れ渡ってしまうのを防ぐため迂闊に捜索願いも出せない
そんな同じことをぐるぐると考えているうちに数日経ってしまった
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「何が教祖様だ、ふざけてる」
そう言いながら林の中を小石を蹴りながら歩く一人の男の子がいた
教祖様にはなりたくない、だが奴隷にもなりたくない、そんなわがままをボヤきながら林の奥へと突き進んで行く
結構深いところに来たな、そう思って周囲を見渡すと一つの古い祠が見えた
不思議に思っては警戒しながらも好奇心が抑えられなかったのか無邪気にその祠へと近づく
すると今まで祠の周りには何も無かったが急に空中に裂け目が見えたかと思うとそこに小さい黒い狐が出てきた
これだけでも驚きだがこれだけには留まらなかった
なんとその小さい黒狐は一瞬にして大きくなり、怜自身の身体の遥かに大きい狐となった
怖がり、逃げるのかと思いきや幼かった怜はその狐に興味津々に近づく
不思議な事にその狐自身も全く逃げる事はなく怜の事を一度頭からつま先まで見ては怜の服の裾を噛み、裂け目の中に連れて行ってしまった
裂け目の中に強制的に入ってしまった怜は流石にこれはやばいと少し焦りを覚えながらも目の前の幻想的な光景に目を奪われた
季節外れの藤の花が綺麗に咲き、その下には真っ赤な鳥居
その先にはこじんまりとした本殿が見えた
優しい風が怜の頬を撫でるように右から左へと抜けていく
そしてその狐は一枚の紙を引っ張ってきたかと思うとその紙はあの一つの都市伝説の儀式で有名なこっくりさんの形状にそっくりだった
するとその狐は自身の丸い手を置くとそれを文字を一つずつなぞるように動かした
その文字をなんとか追いかけては読む
「わたしのなまえはやこかだ」
「とつぜんだがきさまにたくしたいものがある」
そこで文字は途切れた
夜狐花という名のその狐は早く着いて来いとでも言わんばかりにこちらを何度も振り返りながら本殿の中へと入っていく
本殿の扉がゆっくりと開けられるとそこにはたくさんの刀が飾られているのが目に入った
だが夜狐花はそれには興味を示さず更に奥の扉を開ける
するとそこには大切そうに保管してある一本の刀が置いてあった
それを夜狐花は口に咥えたかと思うと怜の元へと歩き、これを持てと言わんばかりの様子で見つめる
「持てばいいんだな?…っ”…?!」
仕方なくそれを持ってやるとその瞬間に酷い頭痛が頭を襲った
まるで頭を刺されたかのような痛みだ
そしてそのまま何も出来ずに地面へと伏せてしまった
最後に視界の端に映ったのはまるで怜を試すかのような瞳で見つめる夜狐花の姿だった
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「ん…?ぁ…」
気がつくと地面に倒れていたのか横には驚くような顔をした夜狐花がいた
どうやら数時間の間、気を失っていたみたいだ
手にはしっかりと先程の刀が握られており、その刀はまるで戦った事がない怜でもプロのように扱えることが出来た
だが一つ、欠点はあった
それは離せない事だ
夜狐花の話によるとこの刀は今までに扱えた者はおらず、普通は刀を握った者は怜のように倒れそのまま亡くなる事がほとんどらしい
その証拠に、本殿には人々の死体が大量に壁に立てかけられていた
だが不思議と腐敗臭はなく、死んだ者は皆幸せそうな表情を浮かべていた
そして何故、その刀を握ったまま死ぬ人が多いのか
それは、先祖代々この刀は呪われていると言われておりこれに触った者は死ぬ、もしくは二度と離せなくなるというものだった
そして今までは死ぬ者が9割だったがその1割、つまり怜が離せない者になってしまったのだ
この刀は呪われていると言ったが、刀自体が呪いの元凶ではない
この場所、この狐が呪いの元凶なのだ
だからこの村は昔からずっとこの夜狐花という名の狐の神を怒らせないようにと祀っているのだ
そしてどうやら怜はそんな狐の神に選ばれてしまったらしい
そんな光景に驚いていると夜狐花が小さな手鏡を何処からか引っ張り出してきた
見てみろと言わんばかりの表情でこちらを見つめる
仕方なくその手鏡を取っては自身の顔を見ると、綺麗な青だった瞳は黄色へと変わっていた
そしてそれと同時に目の前に裂け目が出来ていた
夜狐花はその姿で両親と会えと言わんばかりの表情で見てくる
正直言って、何故なのかは分からないがここにいると幸福感などが上がるのが自分でも分かった
だから帰りたくない、それでも帰らなければいけない、仕方なく刀と夜狐花を連れて怜は裂け目を通った
裂け目を出るとそこは自身の家だった
夜狐花は辺りを見渡すと少し頷き、怜の隣へと座っては両親の帰りを待った
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両親は帰ってくるなり、驚愕しのか、悲しいのかよく分からない表情を浮かべてはその場で膝をついた
「あぁ…怜…その目に隣の狐様は…選ばれたのね…」
母親がそのセリフを言い終わると夜狐花は待っていたかのように立ち上がり、信者が集っている所へと歩く
その前にと夜狐花は黒い狐面を渡してきた
これは刀が突然暴走するのを防ぐためであり、これが無ければ身近な人まで傷つける事になるかもしれないらしい
そうこう言っているうちにいつもの信者が集っている所へとついた
信者達は皆、両親と同じような顔をしてはその場で膝をつく
狐面をしているから顔は見られない、その為人前に出ることが許される
「あぁ…怜様、そして夜狐花様、実在されておられたのですね…」
存在さえ疑わられるような狐の神だったのかよ、と内心思ってはため息をつく
正直、神なんかどうでもいい、自由に生きれたらなんでもよかった
こんなふざけたルールを勝手に作って、勝手に祀って、勝手に死んでいく
それが馬鹿馬鹿しくて仕方なかった
夜狐花が来たからと言って何かが大きく変わる訳ではない
毎日のように泣きながら縋る信者に怜は可哀想としか思えなかった
そんなある日、いつも通り目覚め、朝日が明るく差し込んでくるのに軽く目を瞑る
だが今日はいつもより外が騒がしい、そしていつも隣にいた夜狐花がいない
そんな異変に気づいては急いで外に出る
外には大量の奴隷である村人と、そんな真ん中で縛られている夜狐花がいた
どういう事か分からなかった
だがしかし、このままだったら確実に夜狐花が殺されてしまうのだけは明確だった
周りから「教祖様!」と呼ぶ声がうるさく耳に入る
両親が自分を呼ぶ声でさえうるさく感じてしまう
自分なりの考えだが、呪いの元凶である夜狐花、狐の神を殺せば呪いは収まるという考えなのだろう
自分勝手にもほどがある
何もする事が出来ないまま夜狐花の首目掛けて斧が振り上げられた
あぁ、どうして人間はこんなにも自分勝手なんだろうか
そう考えると同時に身体が動いていた
処刑人である村人の首は地面へと転がり落ちていた
夜狐花はお得意の裂け目を使って別次元へと逃げる事も出来ただろうがこれはおそらく怜を試したんだろう
怜の刀との、夜狐花との相性がどの程度なのかそれを調べたかったのだろう
落ちている村人の首を見ても何とも思わなかった
何なら死んで当たり前とまで思ってしまった
周りの村人は腰を抜かしている
涙を流す者もいれば、嘔吐する者、半狂乱になる者
全てが身勝手でうるさいと思ってしまった
気づけば誰も声を上げる者もおらず、ただ一人と一匹がその場に立っていた
賑やかだった村はもう跡形もなかった
どうやら皆死んでいるみたいだ
両親の首が自身の足元へと転がる
死んだ者に対して思う事は何も無いという考えが怜にとっては当たり前だった
そのため両親に対しても思う事は何も無くただ刀を鞘にしまうことしか出来なかった
夜狐花は満足そうな表情を浮かべ、怜の家路を辿る
少しでも夜狐花と怜の距離が開くと怜の目は元の青色へと戻る
だから本当にこの目の色は夜狐花の目の色を受け継いだのだろう
そして夜狐花は不老不死だ、その呪いを受け継いだ怜も自然と不老不死の身体へとなったのだろう
どれだけ苦しい思いをしても死なない、そんな呪縛をかけられた
長い年月を経て、村は再構築された
だが怜は未だに古い家でもう誰も来なくなった信者を待っている
だがそんなある日、一人の訪問者が来た
袴を着た綺麗なオッドアイの女だった、そんな女に怜は優しく問いかける
「旅人か?こんな所に珍しい…どうしたんだ?」
まだ教祖として生きる怜にその袴の女は革の手袋を少し引っ張りながら応える
「貴方が怜ですか、教祖とか私なら絶対嫌ですけどね…まぁとりあえず今はまだ待っていてください、必ず迎えに来ますから」
そう言っては離れていく女に頭にははてなしか浮かばなかった
ここに来る者は皆、苦しい思いをした者だけだ
あの女からはそんな気が一切しなかった、自分勝手なようにも感じられない
夜狐花は少し納得したような表情を浮かべては怜の膝の上でこじんまりと眠りについた
「人間ってのはやっぱりよく分からん…なぁ夜狐花、お前もそう思うよな?」
「俺は教祖様として最後までやり遂げるんだ、辛くて苦しいな人を今日も救うためにな」
そう言っては笑顔で夜狐花を撫で、今日も雲一つない晴天の中で暮らす
これは呪いの狐と忌み子の二人の物語
いつか現れる本当の救いの手に拾われる事を祈って
コメント
9件
おおおっ!!!怜の過去来たぁぁぁ!!! 夜狐花、、、なんか、ちょっとサイコパスな感じあるな???() 怜は怜でずっと教祖様として縛られてるのか、、、! 生まれた環境がなかなかに辛いもんですね、、、生まれた時から何をするかは決まってたなんて たまたま夜狐花に選ばれたから黄色の瞳になったけど、ならなかったらいずれは○されていたのだろうか、、、 結局怜が全員○しちゃったけども、、、!!