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マンションに帰ると、俺達はネット注文を始めた。
「いや…最初からネットで頼めば、こんな苦労しなかったんじゃ…」
重い荷物を担いだ俺は愕然とするが、異世界先生は違う様だ。
「ネットはいくら早くても、明日の朝にならないと届かないよね。
今日出来る事は今日しよ?」
聖奈さん。その言い方じゃ、俺がまるで夏休みの宿題をギリギリまでやらない小学生みたいじゃないか……
たしかにギリギリまで遊んでるタイプだったけど。
促されて瓶詰めを始めるが、そろそろ暗くなるころだ。
「今日は何時ごろに帰る予定?」
聖奈さんを送った帰りにでも弁当を買って帰るかな。俺はそんな予定を立てながら、聖奈さんへと聞いた。
「え?帰らないよ?着替えも買ったし。それとも聖くんは私に帰って欲しいの?」
また帰らないのかよ……
たしかに何故か服を買ってたのは気になったが、女子とは急に服を買うものだと勘違いしたな。
「家出じゃないよな?ちゃんと親には連絡しろよ?俺が言うのもなんだけど…」
ホントにな!
「親には連絡したけどプチ家出かな?
とりあえず夕ご飯の買い物をしてくるね」
何か流されている感が拭えないが、作業効率が段違いだし、アイデアも知識も俺より豊富だからなぁ。
そんな事を考えながら財布ごと渡したのであった。
暫くして買い物から帰ってきた聖奈さんは開口一番に告げる。
「頑張って美味しいご飯作るから、楽しみにしててね」
まるで新婚さんの様なやり取りだが、現実は家出オタク女子大生とのんだくれ大学生(転移出来る)の作業場だからな。
実際に向こうは、俺のことを異性としては見ていないだろう。悩みを聞いてくれて、秘密を共有している仲間って感じだろうな。
異世界に恋している感じだな。
俺の方は……もちろんタイプだ!見た目だけな!だけど流石に(オタク度合いが違いすぎて)話が合わなすぎて、恋愛感情はない。
俺は兄と姉がいる末っ子だ。だからかわからないが、妹属性がタイプだ!もちろんロリコンではない!あくまで妹属性だっ!
聖奈さんは妹というよりも、面倒見のいい姉だな。少し目が離せないタイプの……
見た目は物凄く可愛いいけど、だから尚更パーソナルスペースはきちんとして欲しい…家出とかやめて……
「お待たせ!多分美味しいと思うけど…どうかな?」
並べられた料理は、確かに見た目は素晴らしい。
俺は箸を取り、料理を口へと運ぶ。
「うん!美味いよ!」
マジで美味い…朝も食べたけど、これなら多少俺のパーソナルスペースを侵害しても許しちゃう……
俺ってこんなに流されやすかったか?チョロインよりチョロいだろ……
「良かった!聖くんはこういうガッツリ系が好きなのかな?」
俺は口に運びかけた揚げ物(謎の美味いソース付き)を見て、正直に答える。
「いや、好き嫌いはないけど、単純に美味い。聖奈は凄いな」
もはや褒める言葉しか口から出てこなかった。
余りこの食事に慣れてしまうと、戻れなくなりそうで怖いな……
あれから数日を掛け、砂糖の仕分けを終わらせた。
ちなみに聖奈さんが泊まったのは、アレっきりだった。
だが、大学に行く前に朝食を作りにきてくれて、その日の講義が終わってからは一緒に作業をして、帰る前に夕ご飯を作ってくれていた。
「完全に抜けきれなくなったな…」
当たり前に美味い食事を毎日食わされて、胃袋が人質に取られてしまった。通い妻恐るべし……
「ん?何か言った?」
「いや、何でもない」
独り言を拾われてしまったな。ここは家じゃないから気をつけなくては……
では、どこかというと……
漸く準備を終えた俺達は、打ち上げと称して近所の居酒屋にやって来ていたのだ。
「いよいよ明日だね!転移はちゃんと出来るんだよね?」
聖奈さんが気になっていることを聞いてくる。まぁ、俺しかわからないから気になるよな。
俺は用がなくても、毎日2分ほどこっそり転移しているので、問題がないことを知っている。
「大丈夫だ。問題は本当に全部買い取って貰えるかの方だと俺は思う」
次は俺の心配を投げ掛けた。
「そっちの方は大丈夫だよ。それに相手があることだから、どうしようもない部分は気にしても仕方ないよ」
聖奈さんの男らしいセリフに……
アンタが転移出来るようになれば全部任せます!
と、下っ端のようなことをつい考えてしまう。
この考えが、後にとんでもない事態を引き起こしてしまうのだが、この時の俺に知る由はなかった。
「聖奈には感謝している。カッコ悪いけど、俺一人なら尻込みしてここまで出来なかったと思う。多分、未だにちまちまやっていただろうな。
ありがとう」
普段は恥ずかしくて言えないが、酒の力を借りて本心を伝えた。
「・・・私の方こそありがとうだよ。こんな奇跡の様なことを体験させて貰っているんだから」
まだ異世界に連れて行ってすらいないのだが、聖奈さん的にはすでに感無量のようだ。
暫くお通夜のように、静かに食事が進む。
「大丈夫だと思うけど、いざとなったらどんな場所からでも転移で逃げてきてね。
方法を考えるのは、後でも出来るんだから」
気遣いの言葉に胸が熱くなる。
「ありがとう。肝に銘じておくよ」
それを皮切りに話は戻り。
「転移が出来るのは、今は日を跨ぐまでの夜だけだよね?」
「ああ。明日は午前に月の出がある。月の入は夜の0時前だな。
だから明日は夕方に月が見えるくらい日が傾いたら転移する。
後は予定通りだな」
後は二人で考えた方法を実行するだけだ。
出たとこ勝負感は否めないが、仕方ない。
話も終わり、俺達は帰路についた。
帰った俺はいい感じに酔っていたので、月に感謝を捧げて明日の成功も祈っておいた。
そして、翌日に備えて眠りについた。
夕方、準備を終えた俺は寝室で靴を履いていた。泥棒みたいだが、仕方ないでしょ!アメリカンスタイルだと思おう!!土足万歳!!
転移を連発するので、連絡するまで聖奈さんには来ない様に伝えている。
よくよく考えたら昨日は七夕だったな。どうせなら星にも願えば良かった。と、どうでもいいことを考えながら
「異世界に行きたい」
願いを伝えると、景色が一変した。
誰にも見られていないようだな。
やって来たのは街から少し離れた場所。ここから俺は街を目指して歩くことに。
暗くなる前に、門に着くことができた。
「久しぶりだな。商売は順調か?」
例の兵士が気安く声を掛けてきた。
「はい。お久しぶりです。ぼちぼちですね」
ついに言ったぞ!『ぼちぼちです』!
「そうか。よし、通っていいぞ」
商人カードを確認した兵士に促され、街へと入って行く。
久しぶりの異世界の街は相変わらず異世界情緒豊だった。
いつもの宿に着いた俺は、前回の残金を確認して、2泊と今日の夕食代を支払った。
一泊の予定だけど転移出来るポイントは多い方がいいからな。
相変わらず美味い夕食を頂いた後は、部屋へと戻り作業の為の確認をする。
「よし、床は丈夫そうだな。面倒な事はさっさと終わらすか」
一呼吸置くと……
「地球へ帰りたい」
寝室に転移した俺は、寝室へ運び込んでいた段ボールを抱え、再び……
「異世界へ行きたい」
宿の部屋へと戻った俺は、段ボールから砂糖の入った瓶を取り出して部屋の隅から並べていく。
そして並べ終えたら空いた段ボールだけを持ち……
「地球へ帰りたい」
作業を終えた俺は、地球から持ってきていた日本酒を飲んでから寝た。
翌日は朝食を頂いてからもう一度寝る。
昼前に起きた俺は、カバンに入るだけの白砂糖の入った瓶を持って、商人組合を目指した。
「こんにちは。ハーリーさん。いつもの部屋は空いてますか?」
カウンターの近くにいたハーリーさんに声を掛けて別室へと向かう。
「暫くぶりですね。あっ。領主様が献上品を大変お喜びになられていました。
一応匿名ということにしていますが、大分詮索されましたよ。
組合の株も上がり、セイさんには感謝してもしきれません。ありがとうございました」
どうやら献上品にしたのは間違いではなかった様だな。
「実は、本日は折り入ってお願いがあります」
「はい。私に出来る事であればいいのですが」
面倒なので過程はすっ飛ばし、いきなり本題に入ることにした。
残金
1,270,000-81,000-50,000=1,139,000円 次回、一万単位以下は切り捨て
14,000-8,000-500=5,500ギル