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いじめっ子には【教育】を 前編
ふゆのつめたいかぜがわたしのはだをしげきする。はいたいきがうっすらとしろくなりはんとうめいなせかいがわたしのしかいにあらわれて、すっときえていく。わたしはこんなせかいがだいきらいだ。みかたなんてどこにもいないこのせかいが。
だからきょうは、きょうこそは、こんなせかいからおさらばしようとおもう。したをのぞくとミニカーのようなちいさいくるまがよこにれつをなしてならんでいた。
このよにせいをうけてからそれをつづけるかちをうしなうのは、いつだってとつぜんのこと、そしてそれはいまでもハッキリとおぼえている。
「お前ってなんか『空気』みたいだよな」
「え?」
それはクラスの男子の一言から始まった。
私は他の子と比べると個性もない、どこにでもいそうな静かな学生だ。休み時間はいつも本ばかり読んでいるし、下校時はいつも1人でひっそりと帰っている。クラスが騒がしくなっても声をかけたりせずにじっと耐えるし、学級委員決めの時にはだいたい手を挙げずに無所属で一年を過ごす。
そんな生活を続けて7年が1人だけど幸せだった。なのにそんな私は空気になってしまった。
最初は男子数名が私に「空気」という不本意なあだ名をつけてからかうだけで終わっていたが、面白がっていた人やターゲットにされたくない人が1人また1人と私を囲んでいった。
「お前は『空気』なんだから静かにしていろよな」
「お前は『空気』なんだから俺らのやった事を誰にも言えないよな」
「お前は『空気』なんだから誰もお前を気にかけてくれないよな」
最初は反発した。『いい加減にして』って声を大きく出した。でも結果は最悪だった。
「うわっ、『空気』が俺らを罵った!!」
「もー最悪なんだけど!」
「『空気』は喋らねーんだよ?」
何度も何度も『空気』にできるだけなるようにしていった。その度に心が苦しくなって、助けを求めたかった。でもいつの間にか私は声が出せなくなっていた。両親の前でも、空気になってしまった。何も喋れない、何も行動に移せない。私はある一つの恐ろしい事実に気づいた。
私は思考が急激に鈍くなってしまった
ただ流れに乗って揺らいでいる『空気』になった。その日の帰り道、私は涙がこぼれ出ていた。
こんなに惨めになってしまった私は、本当に『空気』になってやろうと行動にでた。家に帰らず、そのままの足で適当なところに建っているマンションの非常階段から上に登り、屋上の扉を開けた。開いた瞬間冷風が私の肌をぶるつかせ、私を『空気』にさせようと誘っていた。
わたしはもうすぐでくうきじゃなくなるなら、ここからしたへおりることぐらいかんたんなことだ。ふるえて、なみだがポロポロとでてくる。わたしははがガチガチとおとをたてながら、まえへすすむのをこばんでいるあしをりょうてでつかんでゆっくりとあしをまえにうごかす。
「夕飯はお鍋がいいですねー」
ボソッとひとりごとをつぶやくこえがきこえた。うしろにふりかえると、スーツをちゃくようしふしょくふのしろいマスクをつけためがくろく、くまがくっきりとみえているおとこがひとりビニールぶくろとだんボールをかかえていた。
なにこのひと?なんでさっきあけたばかりのおくじょうにひとがいるの?
「あ、そこの女生徒さん、一緒に鍋パーティーしません?」
わたしによびかけているのだろうが、こえがでなくてうまくことばをかえすことができない。わたしはそのままぼうぜんとたちつくしている。
「えーっと…聞こえてますか?」
おとこはおもそうなにもつをおろして、こっちにきてと『てまねき』をしている。ようやくはっとしたわたしは、ながれるようにゆっくりとおとこのもとにちかづいていった。
「お鍋パーティーして、その後マシュマロも焼いちゃいましょ?」
空気だからこえがでない。どういったってなにかききかえされそうでとてもこわい。
「あのー、言いたいことがあるなら言わないと何も伝わりませんよ?」
「…なべ?……ここ、なにも……」
なんかげつぶりにひとのまえでこえをだした。それでもたどたどしいのだが。
「あーその辺についてはご心配なく。これがあるので」
そういっておとこはさっきまでかかえていたとてもおおきいだんボールばこをトントンとたたいた。だんボールばこにはおおきく【キャンプ一式セット】とかかれている。わたしはこれからおこることをかんがえてまゆをひそめた。
なべがグツグツとおとをたてている。おとこはとりばしではなくじかばしととりざらをてにとり、いまにもたべるきまんまんだ。けっきょくカセットコンロやまないた、ほうちょう、テント、ねぶくろ、2リットルペットボトルすうほん、マシュマロ、たけぐし、しまいにはトランプまでかんぜんそうびでわたしたちはなべができあがるのをまっていた。
たいしてわたしはいっこうにはしをもとうとはしない。『空気』であるわたしがすることは、このばでおとこがしょくじをとっているのをみることだけだ。
「貴女も一緒にお鍋料理頂きませんか?絶対美味しいですって。」
「……たべれない」
「え!?アレルギーでもあるんですか?」
「…ちがう……『空気』は、ごはんを…たべない」
おとこはきょとんとしたひょうじょうでわたしをみる。そんなしせんがよけいにわたしをみじめったらしいきもちにさせる。
「空気空気って、貴女は人なんだから」
「え?」
おもわずこえがでた。ずっと『空気』いわれつづけてきたから、こんなふうにじぶんのことをひととしてみてくれるのはあまりにもしょうげきだった。
「お腹空いてるでしょ?食べましょう。」
そういっておとこはつくえのうえにおかれてあったもういちまいのとりざらをてにとって、とりばしでいっぱいぐざいをいれてわたしにさしだした。
「さてと、頂きましょうか」
『いただきます』とおとこがいったあとに、おいかけるようにわたしもいった。はじめはおとことたべるスピードをあわせてたべていたが、あたたかいあじがすぐにはしをせわしくうごかした。
「そんなにがっつくと喉に詰まりますよ」
「ご馳走様でした。やっぱり誰かと一緒に食べる料理は美味しいですね」
私はちいさくうなずいた。かれはうなずいたわたしをみてニッコリとわらった。
「そろそろ帰らないとまずくないですか?」
それをきいたわたしはたちあがり、おくじょうをあとにしようとすると、かれはてをつかんだ。
「待ってください。」
「…」
「家まで付き添います。」
かれはたちあがり、にもつをそのままにしてわたしについていった。
「にもつ…」
「え?あー大丈夫ですよ誰も入れないと思うので」
いみのわからないことをいうかれのことをながしてわたしたちはいえにむかった。
あたりはもうくらくなっており、がいとうとイルミネーションがよみちをあかるくてらしている。
「これを聞くのはとても愚問ですが…貴女は何故屋上に向かっていたのですか?」
「…」