いじめっ子には【教育】を 中編①
紺色の冬服を身につけた女生徒を家に帰そうと住宅路を2人で並んで歩いているが、僕は彼女の家が何処にあるのかなんて勿論知らないので導かれるがままに連れて行ってもらっており、どちらが送っているのかが分からなくなってきた。
それに沈黙が続くのはかなり気まずい。僕は思い切って彼女がなぜあんな危ない場所で1人いたのかを聞く事にしてみたのだが…
「………」
目をキョロキョロさせたり首を傾げたり、口をずっと閉じており、とても返事ができるような感じではなかった。無理をさせてしまった事を彼女に詫び、僕は話したかったらいつでもいい事を伝えて、再び送られた。
体感時間だと十分ぐらいだろうか、彼女は先程まで固く閉じていた口を開いた。彼女はどこか口調が幼く、上手く言葉に表せられないながらも一生懸命に僕に事情を伝えた。
「つらかった」
「はやくおわらせたかった」
その一言一言に僕は今までの地獄のような経験をひしひしと感じて、彼女は相当酷い目に人物である事を知らしめられた。
そして何より、僕の心にある【教育心】が大きく脈を打つ。
“彼女を死の寸前まで追いやった主犯をどうやって教育していこうか?”
考えるだけで体温が徐々に上がっていくのが感じる。心臓は鼓動を早め、僕の中の思考はもうそれ一色に染まっていく。
彼女が僕のスーツの裾を摘む。意識がハッとして視界が正常に戻った。僕としたことが黒い獣が外に出ていたらしい。彼女は学生であり、まだこう言った事は早い。それに、いきなりクラスの子が『消えて』しまえば、他の生徒らは何を思うのだろうか?下手をすれば彼女の生活に悪影響を与えてしまう。それは教師である身としてはどうにかして避けたい。
僕は彼女の手を両手で包み込むように握って小さく謝った。きょとんと目を丸くした。長い前髪の隙間から覗かせる黒い瞳がハッキリと醜い僕の形を捉えている。
直後に、住宅街に鳴り響くサイレン音が僕らの耳に直撃した。少し離れた横通りからサイレン音を流してスピードを出した救急車と消防車を見つけてそれらの進行方向に目線を向けると、僕らは言葉を失った。
空には黒洞々たる黒煙が上り立っていた。どうやらどこかの家で火災が起きているらしい。本来ならその程度で流すものなのだろうが、彼女はそうではなかった。首をフルフルと揺らして何か呟いている。その瞬間煙が立ち上る方へと駆けて行った。僕は嫌な予感がして彼女の後をついていった。
速い。ドンドンスピードを上げて行く彼女を見逃さないように、足を速めて走る。彼女は途中躓きかけるも直ぐに体勢を整えて走る。息が上がってきた。白く吐いた息は僕らから直ぐに離れて消えてゆくと目的の場所に着いた。目の前に広がっていたのは
目の前に広がるのは、煉獄たるや燃え上がり続ける炎。黒い骨組みが煤を出してバキバキと音を立てて崩れていく。僕や周りの人たちは、ただ呆然としている。彼女だけが、膝から崩れて地面にペタンと座り込む。彼女の目は涙を浮かべて炎が映り込む。僕ができることは、彼女を優しく抱きしめることぐらいしかできなかった。
あれから2時間が経過した。腕時計を確認すると時刻は23時を回っている。
周りには警察や消防隊、メディアまで来ている。今の彼女には少しの刺激でも十分に危険な状態になりうる。彼女はその場から動こうとはせず、瞬きをもせずに、ただ煤が舞い散る焼け跡の前で座り込んでいる。
僕は居た堪れまくなって目を背けると、僕の視界に入ってきたのは、飛ばされた燃えカスの中にキラリと光る何かだった。それが気になり僕は一歩ずつ足を進めて燃えカスを漁り、黒く変色した金属片を見つけた。不穏な感覚が僕の背中に走る。内ポケットからハンカチを取り出してそれを包み、ポケットにしまう。
ハンカチから滲み出たのだろう。指に着いた黒い液体から、鼻を摘みたくなるような刺激のある臭い。指先同士で軽く擦ると粘ついた感触が嘔吐感を脇立たせる。
「ガソリン…」
一気に血が熱く沸騰しそうなほどの怒りが掻き立てられる。
簡単には終わらせない。奴らには教育をしなければ。
座り込んでいる彼女を背中に僕はそう約束した。
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