テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#長編
結愛
329
#地雷系
#夏休み
トド村
44
俺は一度ケトルで沸かした後そのお湯を捨てる。ホテルのケトルはいかがわしい使われ方をすることがあると聞いてから、一度煮沸消毒をしてからでなければ使えない身体になってしまったのだ……。世の中には知らなければ良かったことがあるものだな……いや、これは知っておいて良かったことか……。
俺は、再びケトルでお湯を沸かしながらベッドの淵に座る。
「取りあえず、落ち着いて服を着ているか見てみな。」
ミィは気怠そうな動きでモゾモゾと、掛け布団の中身をチェックする。そして掛け布団を外した。ミィの服装は、胸元にフリルの付いたピンク色のトップスに黒のプリーツスカート、それに黒タイツ。
「私にいかがわしい事をシた後、着せ直したんじゃないでしょうね……。」
「意識が朦朧とした奴の足から伝線一つさせずにタイツを脱がせたり履かせたり出来るほど俺は器用じゃない。昨日のことをよく思い出してみな。」
俺は2つのシジミの味噌汁にお湯を注ぎ、片方をミィに渡してソファーに座り味噌汁を飲む。ミィはベッドの縁に腰をかけて、片方の手で味噌汁を啜り、もう片方の手で頭を押さえながら考えているようだ。
しばらくしてからハッとした表情を浮かべこちらを見る。
「ユウト君、昨日私に『最後まで面倒をみるよ。全部俺に任せておけ。』って言っていたよね。あれ、本当?」
いつの間にか、ユウトさんからユウト君に進化したな……。まあ、どっちでも良いが……。
ここまで面倒を見たのに本当も嘘もないだろうと思いながら、昨晩買った薬とミネラルウォーターを渡す。
「本当に決まっているだろ。そんなことで嘘を吐いてどうするんだよ……。」
ミィは顔を赤くして、ツインテールを両手で掴み口元を隠す。
「本当に……良いの?」
こいつ、酔い潰れた時に介抱してくれる人すらいない人生を歩んできたのか……? それは少し同情してしまうな……。
「本当だから、さっさと薬を飲みな。俺はシャワーを浴びて先にここを出る。ここは11:00チェックアウトだから、酔いが覚めるまでゆっくりしていきな。」
「一緒にチェックアウトしないの?」
「お店の人や常連客にバレたら面倒だろ?」
ミィは何かを言いたそうにしていたが、俺は味噌汁を急いで飲み干してシャワールームへと向かった。
シャワーの蛇口をひねり、いつもより少しだけ熱いお湯を浴びる。昨日がどんな日だったとしても、朝一のシャワーは気持ちが良い! 身体中の汚れと一緒に昨日の疲れが一気に洗い流される気分だ。備え付けのシャンプーやボディソープのレベルも高い――さすが、新宿内でも随一の部屋数を誇るラブホテルだと感心してしまう。
バスタオルで頭を拭きながらシャワールームを出ると、ミィは備え付けのテレビで物凄い小さな音量で映画を観ている。そんな彼女の姿を見ていると目が合い、枕を投げつけられる。
「服を着なさいよバカ。まさかこのまま私のことを襲う気じゃないでしょうね。」
俺はいつもの癖で、パンツのままシャワールームから出てしまった。急いで身体を拭き服を着る。ミィを見ると顔を真っ赤にしながら、ギュッと掛け布団を掴んで恥ずかしそうにしている。完調とはいかないものの昨晩よりは幾分マシのようだな。
「二日酔いにはなっていないのか?」
ミィはミネラルウォーターを手に、こちらに向き直した。
「気持ち悪いし頭も痛いけど、だいぶマシになってきた。」
ミィの着ていたファー付きの真っ白なダウンジャケットの横にかけた自分のコートを羽織り、ミィに声をかけて部屋を後にする。メルラブの女の子達をどのように小説に落とし込めば良いか考えるが、まとまらないまま自宅に着きその後10時間以上頭を抱えた。
しかし全く進捗がないまま時だけが過ぎていった。
叫び出しそうになったその瞬間、玄関のチャイムが鳴った……。
◆◆◆◆
俺は渋々ミィのことを部屋に招き入れて、机の上にミィから渡されたたこ焼きを並べる。この部屋は今まで博己と元カノ以外の人物を招き入れたことがないのだが、そんなことは微塵も知らないミィは馬鹿でかいリュックをソファーの横に置いて二人がけのソファーに座る。
「なかなか座り心地が良いじゃない。」
と、ご満悦な様子でソファーの隣をトントンと叩く。「これは俺のソファーなんだからそんなに促されなくても座りますよ。」と思いながら腰を落とす。すると、いつもとは違うフローラルな香りが広がっていた。
「早く食べようよ。冷めちゃうよ。」
ミィはテーブルの上のたこ焼きを一つ取り、フーフーと息を吹きかけて冷ましこちらに向ける。
「はい、あ~んして。」
「い……いや、恥ずかしいだろ。」
ミィはニンマリと笑い、上目遣いで俺のことを覗き込む。
「え~恥ずかしいの~? 二人だけしかいないのに~? もしかして、私が相手だから恥ずかしいのかな~?」
昨日、メルラブで出会ったばかりのミィであればドキドキとしていたかもしれない。しかしホテルでの一件を経て、ミィに対する感情はドキドキとするというよりも、手のかかる女友達のような感じだ。
「分かったよ。ほら、あ~ん。」
俺は大きな口を開けて口の中にたこ焼きを入れてもらう。口の中にソースの風味と鰹節の香りが広がる。少し冷め始めているが、それが逆にちょうどよい暖かさで美味しい。
人類は、炭水化物にまみれた料理を深夜に食べると太ることを理解していても、決してその誘惑に逆らうことができないようにDNAにインプットされているのだろう。
「めっちゃ美味い。」
そう言ってミィの方を向くと、ミィは相変わらずニンマリとした表情のまま、俺が咀嚼して飲み込む様子をしばらく眺める。
「美味しかった? それは良かった。」
含みのある言い方に嫌な予感がする……。まさか……薬が入っているなんてことはないよな……。
コメント
3件
「ユウト君」呼び、めっちゃ良いですね! 味噌汁を啜りながら記憶をたどるミィの「本当?」の切り返しとか、朝のシャワー後のパンツ姿に枕を投げるところとか、全部かわいい。たこ焼きの「あ~ん」も、ユウトが「手のかかる女友達」って思う気持ち分かるけど、読んでるこっちはちょっとクラッときました。最後の「薬が入ってないよな……」の不安、早く続きが気になる〜!