「樹。頭を上げなさい。・・・わかった。一度その方とお会いしよう」
「ホントに!?」
まさかホントに受け入れてくれるとは思わなくて、嬉しくてすぐに頭を上げて反応する。
「その先のことは会ってから私が決める。いいな樹」
「わかりました」
親父の言葉にそう返事はしたモノの、オレの意見を変えるつもりはない。
そこで反対されても別れろと言われても、オレは透子への想いは貫き通す。
実際親父のことだからどう出るかはわからない。
もしかしたら会うだけ会って気に食わないと元々反対するつもりで言ってるのかもしれない。
だけど、オレはそれでも構わない。
とにかく親父に会ってもらわなければ話は進まない。
会ってもらえれば絶対わかってもらえる。
オレがどれだけ透子のことが好きで、どれだけ大切な存在かということ。
そして、透子がどれだけ素敵な女性かということ。
他のどんな女性よりも魅力的で優しくて聡明で、オレには勿体ないくらい素敵な女性なのか、親父に伝えたい。
そんな彼女を親父にも知ってもらいたい。
例えどんな少し可能性でもいい。
オレが透子と幸せになれる選択が残されているのなら。
その可能性に賭けるしかない。
だけど、親父が倒れてから会社のことを親父の代わりにするようになって、親父がどれだけ大変な思いをして会社を守って来たのかもわかっていて。
それを投げ出すこともしたくはない。
だから、絶対わかってもらうしかない。
それはきっとオレに与えられた今の試練。
これは親父と真っ直ぐに向き合わなければいけない乗り越えなきゃいけない最後の試練。
透子と幸せになる為に、絶対乗り越えてみせる。
必ず。
オレと透子との未来の為に。
必ず。
そして親父たちとの食事会から解放されてようやく家に着く。
「ただいま」
「おかえり樹」
オレと透子二人の部屋に帰って来て、そう伝えるとソファーに座っていた透子が笑顔で返してくれる。
「パワー充電していい?」
「いいよ」
いつもと変わらず優しい微笑みでオレを迎え入れてくれる透子が嬉しくて。
オレは透子の隣に座り後ろから抱き締めて透子を感じる。
「どした? 疲れた?」
「うん。早く透子のところに帰りたかった」
優しくそう聞いてくれて心配してくれる透子がやっぱり愛しくて。
「私も寂しかった」
「透子も?」
「うん。別にこんな時間くらい一人で全然平気だったのにね。朝だってお昼だって一緒だったのに、ただ少しいれないだけで寂しく感じるなんてね」
「オレも。一緒。今はこんなにずっと近くにいるのにまだ透子とずっといたい」
透子もそんな風に思ってくれるなんて嬉しすぎて少し胸が切なくなる。
間違いなく今のオレは少し気落ちしてて、だから余計にいつも以上に透子が恋しくて透子を感じていたくて。
こうやって抱き締めていても、隣で優しく微笑んでくれていても、まだ足りない。
この温もりを、この笑顔を絶対手放したくない。
「でも家族の時間も大事だもんね。久しぶりだったの?二人での食事」
「あぁ・・・うん。てか、二人だけじゃなくてさ」
「そうなの? 誰かも一緒だったんだ?」
「うん。実は今日呼び出されたの、また親父が新たにオレの結婚相手紹介したいからだった」
「え・・?」
ホントは言いたくない。またこんなこと。
透子にとっていい思いすることなんて何一つなくて。
ただ不安にさせるだけだともわかっているけど。
でももう透子に嘘はつきたくない。
例え今がどんな状況であったとしても、これからは透子と一緒にちゃんと向き合っていきたい。
透子に全部知っていてほしい。
もう透子に隠し事しないってあの時決めたから。
「大丈夫。透子心配する必要ないから。ちゃんと断ってきた」
「その場で? 大丈夫なの・・?」
「関係ないよ。もう前のオレとは違う。前の時は、オレに力が無くて周りを守ることを優先にしてたからすぐに断ることが出来なかった。だけど今は何も問題ない。うちの会社も母親の会社も今は順調だし、オレが会社の為に結婚する必要はない」
「うん・・・」
「透子以外の人と結婚なんて考えられないから」
周りにどんなことを言われても、もうこの気持ちは変わらない。
今は誰に迷惑をかけることもないはずだから。
今なら絶対オレが透子を守れるはずだから。
「だけど。親父の許しがもらえない以上、きっとこういうことはつきまとってくるんだと思う。今日いい機会だから透子との結婚も報告しようと思ってたのに、まさかこんな形で先越されるとは・・・」
「そっか・・・」
「なかなかオレも親父も時間取れなくて。前々から話があるから時間作ってほしいって伝えてて、てっきりオレそれで作ってくれたと思って行ったんだけど・・」
「お互い忙しいから仕方ないよね」
「でも今日断ったことで逆にオレの気持ちは伝えやすくはなった。オレには自分で決めた大切な人がいるって親父には伝えた」
「うん・・」
出来るだけ透子が不安にならないように。
少しでもその心配を取り除けるように。
オレの気持ち、今の状況を隠さずそのまま透子に伝える。
透子の気持ちがブレないように。
変わらずオレを信じて好きでいてもらえるように。
「それで、親父にはちゃんと会わせたい人がいるからって時間取ってもらった。透子会ってもらえるかな・・?」
「もちろんだよ」
「でもそんな状況で会う機会設けたから、正直親父は何言い出すかはわからない。透子を目の前にしてもしかしたら反対するかもしれない。だけど、絶対オレが何あっても透子守るから。絶対納得させるから」
正直オレの気持ちを伝えて会ってもらえることになっただけで、親父が何を思って今になってそれを受け入れたのかはわからなくて。
もしかしたら、それで会ったことで透子に辛い想いをさせるのかもしれないけど・・・。
だけど、そう言って逃げていたら何も変えられない。
何があってもオレが透子を守ればいい。
何があってもこの二人の想いを貫けばいい。
「私は平気。それでもちゃんとご挨拶したい」
だけど透子も揺らがずそう伝えてくれる。
「まさか、またこんなに早くそんな話進めるって思ってなくて、オレがもっとちゃんと話しておけばよかったのに・・・ごめん」
「仕方ないよ。樹もずっと忙しくしてたワケだし。そうだよね。結婚って私たち二人だけの問題じゃないもんね」
「オレも透子の家族に許してもらえてちょっと安心してたとこあったのかも。実際はオレんとこが一番問題なんだよな」
「そうだね・・・。うちの家は父がいなくて片親だし、正直樹の家には相応しくないって言われちゃうかもだけど」
「いや!そんなこと絶対言わせないから」
「だけど。せっかく親子の関係ちゃんと修復出来始めてるのに、私のせいでこれ以上酷くさせてほしくないって気持ちもある」
「それは・・・オレがなんとかする」
「だけどさ・・・。反対されたとしても、もうどうやったって樹と離れること出来ないんだよね」
「うん。もうオレも透子と離れるの無理。だから絶対説得する」
「うん・・・」
今までのオレ達なら、今までの透子なら。
少し不安なことや何かあれば、誰かを傷つけたくなくて、自分の気持ちを隠してでも、透子自身が身を引いていた。
実際オレは結局はまだ根本的なことは何も解決出来てなくて、透子の不安もまだ取り除けていない。
だから、この先だってまた透子がいつ不安になって自分の気持ちを抑えてしまうかわからない。
オレはそれが一番怖い。
透子が実際どう思っていたとしても、気持ちに蓋をしてオレを受け入れなくなってしまったら。
もう今更オレはどうしたらいいかわからないから。
だから、透子さえ、変わらずオレを好きでいてくれるのなら。
一緒にこのままオレの隣にいてくれるのなら。
オレはどんなことだって乗り越えてみせるから。
透子を失うこと以外怖いモノなんて、今のオレには何一つ存在しないから。
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