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思わずと言った感じで後へ下がるアモン、プルスラス、バルバドスの足運びを止めるように、空中から大きな声が響いた。
「神々の手を煩(わずら)わせるのは些(いささ)か心苦しい思いに過ぎますな…… この三匹を誅(ちゅう)せよ、来たれ、我が眷属(けんぞく)、ブエル、グソイン、ボティスよ! 顕現し、この恥知らず共を捕らえよ、生死は問わぬ!」
「「「応っ!」」」
謎の声に答えるこちらも謎の三つの声である。
次の瞬間、空間に小さなアスタリスクが浮かび上がり、徐々にその姿を大きくしていく。
ヒトデのように見えていた姿はやがてはっきりと見て取れる程大きくなり、中央にライオンの顔を持ち周囲に五本のヤギの足が放射状に配置された異形であることが明らかになって行く。
直径二メートル程の大きさに達した瞬間、異形はまばゆい光を発して消え去り、代わりにその場に現れたのは、一柱の人馬とその背に乗った二柱の悪魔が、眼光鋭く周囲を見回す姿であった。
人馬、ケンタウロスと言うよりはケイローンと言った方がしっくりくるであろう悪魔は、表情に知性を湛えながら、アスタロト、バアル、フンババに向けて言う。
「魔神達よ、尊(たっと)き貴方達が出るまでも無い、ここは我が主の言う通り、我等にお譲り下さい、我名はブエル、人馬の王でございます」
ブエルの背から地上に降り立った、マゼンタのローブに身を包んだ屈強な悪魔が間を置かずに続いたが、その顔は犬に酷似している。
「お初にお目にかかる、私はグソイン、シノセファリの王、平たく言えばコボルトの族長です、お見知り置きを……」
グソインの背後から言葉を続けたのは頭一つ大きな赤顔で額に二本の角、下顎から巨大な牙を覗かせた大剣を持つ大男である。
「俺はボティス、オーガの長にして最強の戦士でもある! ここは俺達に任せておきな、神様よ!」
「ボティスの言った通り、ここなる雑魚(ザコ)の処分はこの者達にお任せください、神々よ…… そしてあれにある愚か者、サタナキアの排除は私が請け負いましょう、恥ずかしながらかつて轡(くつわ)を並べていた私の手で引導を渡す、それが物事の理(ことわり)という物でしょうからね、そう、私が喰らいます」
ボティスに続いた声はいつの間にか地面から湧いて出た、ジェル状の不定形な塊から響いていた。
ゲームやアニメで言う所のスライムっぽかったが、色は無く透明で形も常に変え続けていて、なんとも言い表せない不気味さが漂っている。
アモン、プルスラス、バルバドスは更に数歩後退(あとずさ)り、アスタロト、バアル、フンババの三柱も突然の闖入者(ちんにゅうしゃ)に言葉も無く首を傾げていると、ジェル状の塊が高速度で移動を始め、オルクスと追いかけっこを続けているサタナキアに向かい出す。
ここまで唖然とした表情で成り行きを見守っていた善悪が隣に立つコユキに慌てた声で言う。
「あ、ヤバいでござるよコユキ殿! サタンが喰われるでござるぅ! あの声分かったでござろ!」
コユキは即座に返す。
「うん、アガリアレプトよね! くっ! 『加速(アクセル)』!」
シュバッ!
瞬時に姿を消したコユキは、次の瞬間にはサタナキアの前に両手を広げた形で立ち塞がり、肉薄したジェル、アガリアレプトに対して告げたのである。
「ステイッ! ステイよッ! アガリアレプト、駄目だからね! サタンを食べたら駄目っ! 駄目なのよぉっ!」
「これはこれは、内に居られる尊(たっと)き御方(おんかた)にご挨拶いたします…… 然(しか)し! 人間、それも薄汚い聖女の言う事を聞く義理など無いっ! そこをどけいっ! 全悪魔の敵め、この入れ物風情がぁっ!」
「なっ! い、入れ物ですってぇ! ムキィー! せ、セクハラよぉー!」
コユキは経験不足故に少々、いいや多分に意識過剰気味である。
「ルキフェル様のアートマンに免じて見逃してやる、さあそこをどけぃ! サタナキアを喰らい次の魔神となるのはここニブルヘイム一の実力者、この私、アガリアレプトが相応(ふさわ)しいのだ!」
「ええっ!」
「同感だ、ニブルヘイム一の力ある者が皆を率いるべきであろう、只な、それが貴様か? アガリアレプト? 脆弱な粘生体の貴様に比べれば、真に相応しいのは我輩しかおらんだろうが」
「む、貴様! ルキフゲ・ロフォカレだな! 汚らわしい影の分際で大口を叩きおってぇ!」
「る、ルキフゲ、ねえお願いよ、アガリアレプトを止めて頂戴! このままじゃ、計画が台無しなのよぉ!」
裏庭のそこかしこにある物陰から集まった影が一つに纏(まと)まり、燕尾服(えんびふく)に身を包んだ一柱の悪魔になり、コユキとアガリアレプトの間に立ちふさがって背中越しに答える。
「ご安心をコユキ様、こいつの好きにはさせませんよ、そして貴女と善悪様も消滅させませんから、ご覧下さいませ、コイツの子分の三柱は既に我が配下、バエル、アガレス、マルバスが捕らえております、ふふふ、このルキフゲにお任せ下さいませ、これからこのルキフゲ自らサタナキアを喰い、真なる魔神として覚醒いたしますから、ふふふふ、ふぁーははははは!」
「えええっ、ま、又ぁ! どいつもこいつも喰うって、何なのよぉ!」