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朝、空は曇っていたが、雨は止んでいた。いるまは黙って車のドアを開け、らんを助手席へと案内する。
🎼📢「シートベルト、して」
🎼🌸「……わかってるよ」
そう言いながらも、らんはどこかそわそわしていた。
この数週間ずっと閉じ込められていた部屋から、外に出るのは初めて。
通り過ぎる街並み、信号、横断歩道――
ひとつひとつが、まぶしく感じる。
🎼🌸「……ほんとに、どこでもいいの?」
🎼📢「お前の気が向いたとこで止める。嫌ならすぐ戻る」
街の中心部から少し離れた、公園のような広場に車を停めた。
花壇の前、木陰のベンチに腰かけて、いるまが缶コーヒーを開ける。
🎼📢「……静かだな」
🎼🌸「うん……なんか、夢みたい」
目を閉じて、ゆっくり深呼吸するらん。
その横顔には、かすかに風が通っていた。
🎼🌸「ねえ、ここに来る途中……小さい子が親と手つないで歩いてたの、見た?」
🎼📢「……ああ」
🎼🌸「……あれ、昔の俺が、したかったことだったなって思った」
🎼🌸「誰かの手を、自然につかんで歩く。そういうの、ずっと、知らなかった」
いるまは言葉に詰まりそうになったが、それをぐっと飲み込んで、缶を握りなおす。
🎼📢「……じゃあ、今からでもやってみろ」
🎼🌸「……え?」
🎼📢「俺の手、貸すよ」
一瞬だけ、らんが驚いたように目を見開く。
けれど、次の瞬間には少しだけ照れたように、笑って手を差し出した。
指先が、触れる。
それだけで心臓の音が、嫌な意味じゃなく、少しだけ速くなる。
🎼🌸「なんか、変だね。
いるまの手、冷たそうなのに……すごく、あったかい」
🎼📢「お前が冷たいから、そう感じるんだろ」
🎼🌸「違うよ、ほんとに」
しばらく手をつないだまま、何も話さずにベンチに座っていた。
けれどその沈黙は、どこまでも穏やかだった。
そして、帰りの車の中。
らんは眠たげに窓に寄りかかり、うとうととしている。
その隣でハンドルを握りながら、いるまがぽつりとつぶやく。
🎼📢「なあ、らん……」
🎼📢「……お前のこと、たぶん俺……」
言いかけたその瞬間。
🎼🌸「……ん、んぅ……なに……?」
寝ぼけた声に、いるまは言葉を呑み込んだ。
🎼📢「なんでもない。寝とけ」
信号待ちの間、いるまはちらりと助手席を見る。
眠るらんの頬に、やわらかな表情が浮かんでいた。
“もう少しだけ、このままでいい”
そう思って、ハザードを消した。
少しずつ、確実に、
二人は恋に向かって歩き始めていた。