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追憶のマッチング
「警察です!開けてください!」
ドアの向こうの声が、部屋の空気を張り詰めさせる。 手嶋は、吐夢の手を強く握った。
「行くぞ。ここで終わるわけにはいかない」
吐夢は頷く。 ふたりは、窓を開け、非常階段へと飛び出した。 雨が再び降り始めていた。まるでふたりの逃亡を祝福するように。
階段を駆け下りる途中、警官の声が響く。
「そっちだ!逃げたぞ!」
吐夢は、手嶋の手を引きながら、裏路地へと走る。 濡れたアスファルト、ネオンの光、そして息を切らすふたりの足音。
「この先に、古い地下鉄の入り口がある。使われてないけど、まだ入れるはず」
吐夢の言葉に、手嶋は驚く。
「そんな場所、どうして…」
「昔、よくひとりで隠れてた。誰にも見つからない場所だった」
ふたりは、錆びたフェンスを越え、地下へと降りていく。 暗闇の中、吐夢の手の温もりだけが、手嶋を導いていた。
「ここなら、しばらくは安全だ」
吐夢が言うと、手嶋は壁にもたれて息を整えた。
「…俺たち、どこまで逃げられるんだろうな」
「わからない。でも、君となら…どこまでも行ける気がする」
ふたりは、暗い地下の中で、静かに寄り添った。 雨の音が、遠く地上から響いていた。