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「ここがミラードの冒険者ギルドか…大きいね」
リチャードからの推薦状を手にミラードの街を歩いていた二人の眼前には、ガウェインのギルドよりも一回り以上大きい3階建ての建物が聳え立っていた。
リチャードからは馬車で送ると言われたのだが、街を見て回りたかったレビンはそれを断り、歩きで向かったのだった。
時間は遅いが夏の日は長く、辺りは未だ夕暮れ時だった。
「じゃあ行こうか?」
「ええ」
カランカランッ
ドアベルを鳴らしながら二人はギルドへと入った。
中は大勢の冒険者がいたが、受付と思われる場所は空いていた。
多くの視線が二人に集まるが気にせずに受付へと向かう。
「初めまして。ガウェインから来たのですが、縁あってこちらを頂きました。確認してもらってもいいですか?」
「初めまして。何でしょう?手紙…えっ!?辺境伯様から!?」
アイラと同じような受付の女性は、レビンから封書を預かり、中を確認すると大声を上げた。
(目立ちたくないのに…)
ミルキィの事があり、目立つ事はしたくないレビンであったが、この職員を責めることはできない。
まさかこんな成人したてに見える少年が、辺境伯であるリチャードの推薦状を持ってくるとは考えられないからだ。
「しょ、少々お待ちを」
受付の女性は焦りながら席を外した。
「何だあのガキ?辺境伯と知り合いか?」
「美人の女を連れてるから後でシメてやろうと思ったが…やめとくか」
色々な声が二人の耳に入った。
(くっ…目立ってしまった…)
と、レビンは思っていたが、初めから目立っていた。理由は簡単だ。ミルキィが美しすぎたせいだ。
人口の多いこの街であっても、ミルキィ程の美しい少女はいなかった。その為、ギルドに入った時から男達の視線を独り占めしていたのであった。
ガウェインの街中でも同じ事が起こっていたはずなのに、すでに忘れていたレビンである。
「お待たせしました。許可が降りましたのでタグをお願いします」
「二人ともですよね?」
一縷の望みにかけて、女性に聞いたレビンだったが……
「はい。ランクアップには必要ですので」
望みは砕け散った。
一応の確認とばかりに、ミルキィがレビンを伺うが、レビンは頷いて促した。
「凄いですね!成人したての15歳でレベル7とは…辺境伯様が推薦されるだけの事はありますね!」
レビンのタグを受け取った女性がそう告げるも、問題はこれからだった。
「えっ…レベル33…?嘘ですよね?ええっ!?」
シーベルトの悲鳴でお腹いっぱいだったのに、今日イチの悲鳴を聞いたレビン達だった。
「どうした!?」
女性の悲鳴を聞いた別の職員が、レビン達から見てカウンターの奥から、血相を変えて駆けてつけてきた。
「こ、これが…」
「レベル33?…15歳だとっ!?」
騒ぎはデカくなった。
(もうどうにでもして…)
レビンは諦めた。
「これは嘘ではないですよね?」
駆け付けた男性職員がレビンに聞く。
「はい。新しいタグに血を垂らせばわかりますよね?」
「…そうですね。そちらに掛けて少々お待ちを」
そう言って二人の職員は下がっていった。
カウンターの後ろの長椅子に腰を下ろした二人の耳に更なる噂話が聞こえたのは気のせいではない。
「レベル33だとよ…可愛い顔してヤバい女か?」
「この街の最高レベルは42だろ?それも15歳かよ…」
「ふ、踏まれたい…」
中には変態のものも混ざっていたが、二人は全ての声を聞かないようにしていた。
「お待たせしました」
呼ばれた二人は再びカウンターへと向かった。
「こちらにお願いします」
もちろん血の事である。
「ほ、本当にレベル33・・・」
固まってしまった女性にレビンが急かすように告げる。
「もういいですよね?後、この近くにいい宿はありませんか?出来れば安全な」
「は、はい。大丈夫です。宿ですか…一泊金貨1枚しますが、安全で清潔な宿ならわかります。そこでいいでしょうか?」
「お願いします」
職員の女性に宿の場所を聞いたレビン達は、銀色のタグを首から下げてギルドを後にした。
(出る寸前まで、僕達の事を話してたな…)
レビンの事は殆ど話題に上がらないと思いきや、美少女であり若くして高レベルのミルキィがレビンに付き従う姿勢をしていた為、『あのガキは一体何者だ?』と憶測ばかりの噂をされていた。
ギルドで聞いた宿屋は歩いて5分の場所にあった。
建物は3階建てでレンガ造りであり、かなり大きなものであった。
「いらっしゃいませ。ご宿泊でしょうか?」
10代後半くらいの少女が、入り口で右往左往していたレビン達に声を掛けてきた。
「はい。二人ですが空いていますか?」
「空いています。お部屋は一部屋でしょうか?」
レビンはその問いに違うと答えようとしたが、まさかのミルキィがレビンよりも早く答えた。
「ええ。それでお願いするわ」
「エッ!?」
レビンは驚きを返すが、ミルキィは何も聞こえないとばかりに無視をした。
宿の店員である少女はすぐに力関係を理解して、ミルキィの意見を取り入れた。
「一泊金貨2枚になります。夕食と朝食はこちらでお願いします。連泊の場合は朝食後までにお願いします」
レビンはここで問答しても仕方ないと諦めて、貨幣袋から金貨を取り出し、代金を支払った。
三階の部屋へと案内された後、レビンはすぐに抗議する。
「別の部屋がよかったんじゃないの?」
「な、なによ!?私と同室は不服って事!?」
「いや、僕は良いけどさ…身体拭いたりする時に一々出るの面倒じゃないの?」
レビンは勿論の事、ミルキィもレビンが着替えたり身体を拭くときには退室していた。
「面倒じゃないわ!何ならもう出なくてもいいわよ!」
(これまでの努力って…)
勿論ギリギリになってミルキィが恥ずかしがった為、退室することになった。
夕食を摂り、清拭を済ませた二人は灯りを消して、別々のベッドに寝転んでいた。部屋の家具はベッド以外にも椅子とテーブルがある。
「久しぶりのベッドだね。やっぱり高いだけあって良いベッドだね。でも、料理はミルキィの作ったご飯の方が美味しいよね」
相変わらずの人たらし発言だが、お世辞ではない事をミルキィは知っていて、顔が熱くなる。
(良かったわ…寝る前で部屋が暗くて…)
「そ、そうね。それよりもいくら入っていたの?」
そう。二人は金欠のはずだ。なのにレビンはわざわざ安全度まで重視して、高いはずのこの宿を選んだ。
実はリチャードのお礼は推薦状だけではなかったのだ。息子から聞いた二人の実力が正しければ、銀ランクはまだ難しくとも銅ランクにはすぐに上がれたと考えていた為、お礼としては紹介状くらいでは足りないと考え、金貨袋も付け加えたのであった。
「袋の中を見てビックリしたよ!流石に数える暇は無かったからわかんないけど…明日の朝にでも確認しようね」
「そう。貴族って怖いイメージだったし、シーベルトの話を聞く限りはそのままのイメージだったけど、あの親子はいい人達だったわね」
「うん!リチャード様も最初はどうなのかなって不安だったけど、流石はシーベルトの父親だったね!立派だし、子供と同い年の僕達にも気を遣ってくれる良い領主様だね」
リチャードは誰にでも優しくはないし、気も使わない。しかし、家族の恩人であり迷惑を掛けた相手には最低限以上の礼節を持って返せる貴族ではあった。
今のところ二人の冒険では人に恵まれているが…この後の事は誰にもわからないのであった。
レベル
レビン:7(40)
ミルキィ:33