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story.3
寝る前も夢なのか現実だったのかハッキリとしない記憶があり、翌朝の目覚めも最悪だった。
全く外に出る気になれない。だけど使命であるかの様に、今日は部屋中の掃除をする事にした。
いや、しなくてはここにはいられない。
第一、勝手に別の人を好きになったと言って出て行った元カレの荷物が残ってるし、元カレと暮らしてきた中で一緒に使っていた物がいくつもある。
今朝スマホを見ると、取りに来るとかなんとか連絡が来ていた。あまりの自分勝手な連絡にムカムカしたけど、捨てる事も出来ないし、出来るだけ早くまとめておく事にした。
未練…。未練が無いと言ったら嘘になってしまう。やはり部屋に1人で居るのは悲しいし、寂しい。
しかし…あの大失態(自爆)で、その孤独感も大分上書きされた。
お酒に飲まれる程飲んだ事は…ある。
でも、他人に迷惑をかけた事は無い。それだけに良い歳をして黒歴史なるものがまた増えてしまった事に一晩経った今もかなりショックを受けていた。
元彼の物を見ると、(こいつに振られた+酔い潰れた=石田に迷惑をかけた。)あの夜を思い出してしまうので、目の前から連想してしまう元カレの物を片付けてリセットする事にした。
別れて速攻荷物を片付けるなんて、子どもっぽいかもしれないけど、彼への当てつけだ。
俺は元カレの異変に全く気付いていなかった。だから『好きな人が出来た。』なんて言われて心底驚いた。
めちゃくちゃムカついたけど、一緒に暮らしてたのに気付かなかった自分にも腹が立っているんだと今は思う。でもこの怒りや悲しさを元カレに分かってもらおうとは思わない。
元カレとは半年前からレスだった。
理由は俺の仕事が忙しいから。相手との時間があまり取れていなかった。
同棲までしたんだからそんなすぐに別れる事になるなんて思ってなかった。
俺がもっと時間を作っていれば…。
俺がもっと大切にしていれば…。
俺がもっと…。
混乱しながら色々と原因を考えた。だけど、出て行ったって事は、俺は本気で付き合っていると思ってたけど、捨てても良いって、切り捨てられるくらいの気持ちだったって事だろ…。
いっつもそうだ。告白されて付き合っても、絶対に振られる。過去の出来事がフラッシュバックして、掃除機をかけながらもムカムカしてきた。
(フるなら最初から付き合いたいと言うんじゃねーよ!!どいつもこいつも、俺がめちゃくちゃ好きになってからフってくるし、もう金輪際、誰とも付き合わねーわ!!)
不思議なものだ…。怒っている時がー番効率的でパワフルに動ける。
「大分片付いて来た。後はいらない物を捨てるだけだな。」
断捨離ってやつのおかげでなんだか部屋が広くなって、空気まで澄んできた様に感じる。
なんだかんだ、お揃いだった物や、もらったプレゼント、ついでに捨てたいと思った物を片っ端からゴミ袋に詰めると大きなゴミ袋が3つも出た。
なかなかお高いこのマンションはいつでもゴミ出し可能なので土日関係なしにゴミを捨てる事が出来る。
あいつが来たら荷物は無理やり渡して、これも捨てよう。
◇
昨日の出来事はかなり衝撃的だったし、もう涙も止まった。と、いうか、とっくに止まっている。同棲したのは初めてだったから思い入れとか情で引きずるかと思ったけど、まさか一晩で失恋が吹っ切れるとは思わなかった。
正直、俺は惚れっぽい。特定の相手がいないタイミングで「好きだ。」とか、「付き合って欲しい。」なんて言われたら、相手の事もよく知らないのに自分もすぐに好きになってしまう。
そんで、なぜか俺が絶対に振られる。
勝手に惚れられて強制的に振られる事早5回。そろそろこの状況から脱したくなってきた。いい加減もう恋愛はこりごりだ。
◇
ゴミ捨ても完了して、やっと外に出たい気持ちになった。
(ここはパーっと酒でも…。と、思ったけどノンアルにしよう。)
1人で失恋した気持ちを打ち上げる為にスーパーへ買い出しに行く事にした。
軽く着替えてからエレベーターに乗りエントランスまで降りると、すぐ近くに他の住人がいた。
俺は再度、現在進行形で一番会うのが気まずい相手の石田響に出くわした。
(どうして今なんだ!!はっ!明日からまた仕事でこいつに会わなければいけない。後輩に頭を下げるなんて悔しいけど、あの事を口止めしなくては…。)
「あ、石田!昨日ぶり!」
「先輩。元気になったんですね。」
「おかげさまで。(ひきつった笑顔になってしまった)本当に世話になったな。あのさ、ちょっと今時間あるか?」
「はい。コンビニ行って帰って来たとこなんで大丈夫です。」
右手にコンビニ袋をぶら下げている。
俺は周りに誰もいない事を確認してから話をふった。
「昨日のあの事はなんだけどさ、見たくないもの見せて申し訳なかったんだけど、あれ、誰にも言わないでもらえないか。」
「あの事って何ですか?」
内容も内容だし、気まずくて目が見れない。
「いや、あの…酔い潰れてた事とか…。」
(自分はゲイで彼氏にフラれてヤケ酒してた事とか…。)
「・・・」
(ん?返事が無い。)
俺よりも一回りデカい石田の方をチラッと見ると、じーっとこちらを見ている。
「お前、聞いてた?!」
「あー。彼氏にフラれてヤケ酒してた事ですかね?」
「ちょっ、おいっ!声がデカい!もうちょっとオブラートに包んで言葉を話せないのかよ!それでも営業職か?!!」
「はぁ…。俺、まだ新人なもんで。でも、泥酔したのは先輩なのに何逆ギレしてるんすか?秘密にして欲しいんですよね?そこはお願いしますじゃないんですか?」
急な後輩の饒舌と、圧にビクっとしてしまった。
(ここは穏便にすませなければ)
「うっ、お願いします…。」
「じゃあ、今から飯おごって下さい。」
「は?今?…いや、まぁ、良いけど…。」
(穏便に…穏便に済ませるんだ。)
「どこ行きます?焼肉?ラーメン?ファミレス?俺はどこでも良いんで決めて下さい。」
「どこでも良いよ。」
「じゃあ、居酒屋で良いですか?明日も休みだし。」
「わかった。」
「と、いうか先輩どこか行こうとしてたんじゃないんですか?」
「いや、スーパーに買い出しに行こうと思って。」
「料理するんですか?」
「うん。」
「へー。じゃあ、俺、酒飲みたいんで居酒屋に行きましょ。昨日飲めなかったし。」
その瞬間、バチっと視線が合った。
「そうだよな。じゃあ、行こうか…。」
(絶対、笑顔がひきつった。)
こうして、またしても俺の前に、石田響という試練が立ちはだかった。