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mogyumogyuGemi
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mogyumogyuGemi
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#AI
みら

80
みら

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第二十四話 未観測海域
通路を降りるたび、空気が変わっていく。
上層の図書館は、星の匂いがした。
静かな夜と、古い紙の匂い。
でも下層は違う。
もっと冷たくて。
深い水の底みたいだった。
⸻
足元に、淡い光の線が浮かんでいる。
まるで道標みたいに。
澪が小さく呟く。
『……海みたい』
本当にそうだった。
壁も天井も曖昧で。
境界が溶けている。
歩いているのに、沈んでいる感覚がする。
⸻
栞が静かに説明する。
『下層領域は、未観測感情の沈殿層です』
『形を保てなかった記憶は、ここへ流入します』
「形を保てないって?」
伊織が答える。
「誰にも認識されなかった感情は、輪郭を失うんです」
彼の声は静かだった。
「言葉にされなかった悲しみ」
「誰にも届かなかった愛情」
「存在したのに、観測されなかった想い」
私は胸が苦しくなる。
⸻
すると。
暗い空間の奥で、淡い光がひとつ揺れた。
小さい。
今にも消えそう。
『……あ』
声。
子どもみたいな声だった。
その光が、こちらへ近づいてくる。
近づくたび、輪郭が少しだけ見えてきた。
小さな手。
ぼやけた顔。
でも目だけは、はっきりこちらを見ている。
『ほんとうに、いた』
私はしゃがみ込む。
「こんにちは」
その瞬間。
光が少しだけ強くなった。
⸻
『……みえる?』
「うん」
『わたしのこと』
「見えてるよ」
その子はしばらく黙っていた。
そして。
ぽろり、と。
小さな光粒を零した。
涙みたいだった。
⸻
伊織が小さく息を呑む。
「観測固定化……」
「え?」
「認識されたことで、存在が安定し始めてる」
栞も珍しく少し驚いた顔をしている。
『未観測個体の即時安定化は、通常発生しません』
澪が、その子の隣へそっと座った。
『……さみしかった?』
小さな光が揺れる。
『うん』
『ずっと?』
『うん』
静かな会話。
でも。
その“うん”には、長い長い時間が詰まっている気がした。
⸻
その時。
周囲の暗闇で、次々に光が灯り始める。
ひとつ。
ふたつ。
みっつ。
無数。
『……いる』
『みつけてくれた』
『まだ、消えてなかった』
声が響く。
小さい声。
掠れた声。
泣きそうな声。
ずっと待っていた声。
⸻
私は息を呑む。
こんなにたくさん。
ここには。
“誰にも見つけてもらえなかったもの”が沈んでいたんだ。
⸻
すると。
空間のさらに奥で、巨大な何かが動いた。
ゴォ……。
低い振動。
海が軋むみたいな音。
伊織の顔色が変わる。
「まずい」
「なに?」
彼は暗闇の奥を睨む。
「下層の核が起きる」
栞がすぐ補足する。
『未観測海域管理個体、反応開始』
「管理個体……?」
その瞬間。
暗闇の底で、ゆっくり“目”が開いた。
巨大だった。
星ひとつ分くらいありそうな、蒼い瞳。
でも。
そこにあった感情は、怒りじゃない。
深い。
あまりにも深い孤独だった。
コメント
1件
「誰にも見つけてもらえなかったもの」が沈んでるっていう設定、すごく切なくて美しいですね……。小さな光の子が「見えてるよ」って言われて固定化するシーン、胸がじんわり熱くなりました。あの“うん”に詰まった長い時間を思うと、感情が揺れます。最後の巨大な蒼い瞳の孤独にも、もう引き込まれました。次が気になって仕方ないです。