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Doors好きな主
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大学時代、教育学部に在籍していた私は、教育実習で約1ヶ月、小学校へ通っていた。
朝は児童が登校する前に学校へ入り、日中は授業の見学や教材準備、自分達で行う模擬授業などに追われる。子ども達が帰った後も、その日の反省や翌日の授業準備が続くため、実習生が学校を出る頃には日付が変わっていることも珍しくなかった。
その夜も、私を含む6人の実習生が教室に残り、翌日の準備をしていた。
時刻が深夜零時に近づいた頃、トイレへ行きたくなり、1人で席を立つ。私以外の5人はみな女性だったので、いかに心細かろうと、1人でトイレに向かうしかなかった。
夜の校舎は、昼間とはまるで違う。
児童の声も足音も消え、必要な場所以外の照明はほとんど落とされている。廊下の奥まで続く暗がりの中、自分の足音だけがやけに大きく響いていた。
用を済ませて男子トイレを出ると、向かいには低学年用の玄関があり、その壁際に木製の下駄箱がいくつも並んでいる。
辺りを照らしているのは、非常口誘導灯の黄緑色の光だけだった。
そのまま教室へ戻ろうとした時、下駄箱の陰で何かが動く。
一瞬だけだったが、子ども用らしい短いスカートの裾が、暗がりへ消えるように揺れた。
足が止まる。
こんな時間に児童がいるはずはない。
実習期間中、一度だけ忘れ物を取りに戻ってきた子はいたものの、それでも19時頃で、母親が付き添っていた。
しかし、時刻は深夜零時近く。
わざわざ確かめに行く気にはなれず、見間違いだと思い込み、私はその場を離れて教室へ戻った。
「何かあったの?」
戻った時の様子がおかしかったらしく、同じクラスに配属されていた女子の1人が声をかけてきた。
隠すほどのことでもないと思い、トイレの向かいにある下駄箱の陰で、子どものスカートらしきものを視たと話す。
すると途端に、教室が騒がしくなった。
「怖い話しないでよ!」
「だから私達、1人でトイレ行かないようにしてるのに!」
どうやら女子5人は、夜の校舎を1人で歩くのが怖くて、毎回そろってトイレへ行っていたらしい。
私はただ聞かれたことに答えただけなのに、なぜか一斉に責められる羽目になった。
そんな騒ぎの最中、担任の先生が教室へ顔を出した。
「そろそろ鍵を閉めるけど……何かあったの?」
事情を聞いた先生は、最初こそ不思議そうな顔をしていた。
しかし、私が視たものについて説明していくうちに、その表情から笑みが消えていく。
話を聞き終えると、先生は少し考えるような間を置いてから言った。
「視世くん、ちょっと教頭先生のところに一緒に行こうか」
からかわれるでも、気のせいだと笑われるでもない。
むしろ、何かを確認しようとしているような真剣さがあった。
言われるがまま先生について行き、職員室の応接用の席で、教頭先生にも同じ話をした。
すると教頭先生は驚くことなく、静かに頷く。
「たまにいるんですよね、君みたいに視ちゃう人が……」
「僕みたいに?」
「実習生だったり、先生だったりね。毎年じゃないけど、時々そういう話が出るんですよ」
その言葉を聞いた瞬間、背中に冷たいものが走った。
私だけではなく、過去にも、夜の校舎で同じようなものを視た人がいる。
教頭先生はしばらくこちらの顔を見つめた後、何かを確かめるように尋ねてきた。
「視世くん、何か引っかかってることがあるんじゃない?」
胸の奥を見透かされたような気がした。
「……あります」
「やっぱりね」
そう言うと、教頭先生は席を立ち、壁の書類棚から1冊のファイルを取り出す。
戻ってきた彼は、何ページかめくったところで手を止め、写真を指さしながら私の前へ差し出した。
「これでしょう?」
大勢の児童が並ぶ古い集合写真だった。
色褪せた写真、私の目は子ども達の服装へ吸い寄せられる。
「はい……」
自分でも驚くほど、すぐに答えが出た。
写真に写っていたのは、あの時、下駄箱の陰で視えたスカート。
教頭先生は、私の反応を確かめてから写真へ視線を落とす。
「今まで視た人達は、みんな同じことを言いました」
「……今の制服じゃない」
「そうです」
あの時感じた違和感の正体がはっきりした。
実習中、毎日、何十人もの児童を見ている。その学校の制服は意識せずとも目に焼きついていたのだが、下駄箱の陰で揺れたスカートはどこか違っていた。
「これまで何度か制服は変わりましたが、今の制服になってからは十年以上変わってないんですよ」
教頭先生が指さした写真は、それよりさらに前のものだった。
「昔の制服を持っている家庭はあるかもしれません。でも、それを今の子どもに着せて学校へ来させるなんて、まずないでしょうね」
教頭先生の言いたいことは、もう十分にわかっていた。
それでも、聞かずにはいられなかった。
「じゃあ……僕が視たのは?」
教頭先生は答えない。
しばらく写真を見つめた後、静かにファイルを閉じた。
「……もう学校を閉める時間です。帰りましょう」
教育実習はその後もしばらく続いたが、夜に1人でトイレに立つことはなくなった。