テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
41
1,303
1.勝負
「なん…っ…」
「リハビリが終わって復帰したらまた新しいバディを探す。さっさと治して退院してくれ。話はそれだけだ」
男はそう言い残し、病室を後にした。
「……」
『─こん中で誰が1番長く生きられるか勝負しようぜ』
いつの日かの会話が蘇る。
『縁起でもない話すんなや…』
『いや、悪魔は血飲めば再生するんだから半分不死身みたいなもんだし、私ら人間よりは長く生き残れるだろ』
『…院瀬見さんが死ぬのはあんまり想像できないけど…』
リヅの横からイサナが顔を覗かせて呟く。院瀬見とイサナとで10cmほど身長差があるせいで、イサナが目を合わせてくるときは大体上目遣いになる。この時もそうだった。
『まぁ、いつか死ぬって常日頃から思いながら生きてるやつは本当にすぐ死ぬぜ。死んでも戦い続けるぐらいの覚悟でいることが重要なんだよ』
院瀬見はそう言うと、イサナと目を合わせず話しながら胸ポケットからタバコとライターを取りだし、火をつけた。
『じゃあ先輩』
その場で立ち止まるリヅの方を院瀬見とイサナは振り返る。
『僕らが死んだそん時は、ちゃんと悲しんでくださいね』
リヅは冗談めかした口調でそう言い、微笑んだ。
─視界が歪む。
「…なんで」
命とは、何よりも脆く弱いものである。
「なんで…!」
それを院瀬見は誰よりも知っている。
「なんで…!!」
大切な者を失い、やり場のない怒りや悲しみに襲われる日々を嫌というほど経験してきた。
「父さんも母さんもカザメも、早川も姫野もチヅルも、狼も、リヅも…イサナも!!」
無意識のうちに、もうこれ以上経験することはないと思っていた。
「どうしてみんな…私だけを置いていく…!!」
次に死ぬのは自分だと。だからもう二度と、失う悲しみに苛まれることはないだろうと思っていた。
最後まで生き残ったのは自分自身だった。 院瀬見は勝負に勝ったのだ。
勝ったところで何も嬉しくない勝負に、たった1人で。
隣には誰もいなかった。
2.あのひと
それから更に半年。長いリハビリと回復訓練を行い、院瀬見はようやく第一線に復帰した。
リハビリ期間中、入院中に来ていた男から院瀬見が意識を失っていた間の出来事を聞いた。
男はデビルハンターとしての仕事をする傍ら、院瀬見の様子を定期的に見に行くように任されていたらしい。最初こそ少しの可能性に賭けて目を覚ますのを待っていたが、途中からもう死んでいるのではないかと本気で疑い、諦めかけていた頃に目を覚ましたという。平静を装いつつ内心とんでもなく驚いていたと言った。
誰が生き残って、誰が死んだか。生き残った者がどんな生活をしているのか。悪魔によって世の中が今どんな影響を受けているのかから最近の流行りが何かまで聞いた。
人生をかけて長い間追っていた、家族の仇である銃の悪魔はついに死んだらしい。
あれだけ強大な力を持っていたのにどうやって倒したのかと院瀬見はそれも聞いた。
直後、聞いたことをものすごく後悔した。
闇の悪魔も変わらず地獄にいるようだ。弟の仇討ちをするつもりでいたが、万が一倒していたら今度は地獄ではなく現世に現れていた可能性がある。
それを防ぐためにも院瀬見は闇の悪魔を倒そうと目論むのをやめた。 あんな化け物を世に放ってはいけない。弟を殺した悪魔を突き止めることができただけでもまだよかったと思うことにした。
「院瀬見!?お前生きて…!?」
退院後、院瀬見はある人物に会いに行った。
「1回死んだけどな。なんやかんやあって生き返った」
「…どういう意味だ…?1回死んだ?生き返ったってどうやって?体は大丈夫なのか?どこか悪くなったり─」
「あーもーうるせぇ!生きて会いに来てやってんだからそれでいいだろ、話すと長くなんだよ」
院瀬見は面倒くさそうに頭を搔く。
立ち話もなんだからと、院瀬見は校内の応接室へ通された。
出された緑茶を一口飲み、湯呑みを置き、ローテーブルを挟んで目の前に座る人物に問いかけた。
「お前は何もなかったのかよ、センコー」
センコーと呼ばれた人物は細フチのメガネをかけた男─塩谷だった。
塩谷は少し考えてから口を開いた。
「…ここ1年ぐらいは悪魔のせいで日本中…いや、世界中大騒ぎだったよ。街は崩壊するし、人も大勢亡くなった。でも銃の悪魔は─」
「知ってる、倒されたんだろ」
「まさか院瀬見、お前…」
「私じゃねぇ。でも1回死んだり意識失ったり色々してなければ私も討伐遠征に参加してたはずだ」
その言葉を聞くと、塩谷は心底ホッとしたような顔を見せた。
「…よかったよ、行かなくて。一度死んだことが良かったというわけではもちろんないが、少なくとも最低最悪な殺され方をすることは免れた。銃の悪魔は俺がいた時から強かったから、もし遠征なんかに行ってたら─」
「…ん?いた時って…」
「あ…」
塩谷の言葉に引っかかり、院瀬見はそこで話を止めた。それに気づいた塩谷は「しまった」と顔に出した。
「センコーまさか…」
「実は…」
3.瞳
「デビルハンターだった!?センコーが!?」
「たった2年やらそこらの話だけどな」
照れくさそうに言う塩谷に院瀬見は驚きを隠せない。あまりに衝撃的すぎる。塩谷には低姿勢でいつもナヨナヨしていて精神も弱そうなイメージを抱いていたために、デビルハンターをやっていたなんて想像すらできないししたこともなかった。
「…そうだったのか…」
そういえばたしかに、前に塩谷に再会したこの学校で毒の悪魔と対峙した時、ボロボロになり死を覚悟した院瀬見をすんでのところで助け出したのは他でもない塩谷だった。悪魔を前にして恐怖し逃げ出すこともなく、正確な太刀筋で悪魔に大きなダメージを与え、院瀬見の時間を稼いだのだ。
その素人離れした精神力と体力。今思い返せば元デビルハンターと言われても十分納得のいく身のこなしだった。
「そんなことより」と、塩谷は話を戻す。
「院瀬見の方はどうなんだ?1回死んだり生き返ったり…しばらく会っていなかった間、お前の身には何が起こっていたんだ?」
塩谷は院瀬見の目を覗き込むように見つめ、心配そうな表情を浮かべていた。
それを見て、 こいつは昔からそうだったと院瀬見は思う。
毒気も曇りもない瞳。裏なんて到底なさそうなまっすぐな目でこちらを見つめてくる。
家族が死んだことを知って絶望の底に陥っていた当時の院瀬見は塩谷の向けるその、優しく人に寄り添おうとする時のその目が嫌いだった。
優しくされるのが嫌だったわけではない。 事情も知らず、 気持ちも理解できないような人間に中途半端な同情や慰めを受けるのが我慢ならなかったのだ。
実際、かつて院瀬見が相談をした別の教師に「大変だろうけどよくあることだから」と流されたことがある。塩谷が担任になる前の話だ。
それ以来この世界の─少なくとも院瀬見の周りにいる大人たちは全員ろくなやつではないと牙を剥いていた。
だが大人になって成長した今、塩谷が院瀬見へ向けていた気持ちが生半可で適当なものではなかったことにやっと気がついた。
他の大人とは違う。彼は本当の意味で、院瀬見に寄り添おうとしてくれている。
信じていいのかもしれない。
院瀬見は今までに起こったことを塩谷に話した。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!