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慧音視点
上白沢慧音は博識で、穏やかで、
人里の子供たちに知を教える“先生”。
でも彼女は、人間ではない。
彼女はワーハクタク、寿命では死なない妖怪だ
けれど、
彼女は寿命以外では死ぬ
それが、妹紅との大きな違いだった。
慧音が最初に気づいたのは、
妹紅と月見をしていた夜。
「……なあけーね、来年も、またここで月見しような」
「ああ、当たり前だろう。……来年も、きっと」
けど――本当に来年も、できるだろうか?
慧音は、“いつかいなくなる側”だ。
妹紅は、“ずっと残される側”だ。
「私は、あの子より先に死ぬ。その意味を、あの子が一番よく知っている……」
慧音は、自分の“死ねる”未来が怖かった。
でも同時に、妹紅のように終わらない生に囚われたくもなかった。
「私は……私は、“終われる”ことに、安心してるのかもしれない」
だから、慧音は
妹紅にずっと伝えられなかった。
「お前が私より先に消えてくれたらよかったのに」
――なんて、そんなひどいこと、言えるわけない。
慧音は、それでも月を見上げる。
妹紅と並んで、同じ時間を過ごす。
「妹紅……今年も、月が綺麗だな」
「けーね、来年も見ような……絶対、来年もな……!」
その言葉を信じてるふりをして、
慧音は妹紅に笑いかける。
「ああ。来年も、再来年も、ずっとな……」
ほんとは怖い。
ほんとは、終わりが近いのを知っている。
でもそれでも、「今」だけは本物だった。
慧音は、ある日を境に
突然、幻想郷から姿を消した。
老いたわけでもなく、戦いに巻き込まれたわけでもなく。
ただ、静かに「終わった」。
妹紅が、彼女の書斎の机で見つけたのは
たった一枚の手紙。
妹紅へ。
私の命は、もう尽きるみたいだ。
君がこの手紙を見ているなら、私はもういないのだろう。
君と過ごせた時間は、本当に楽しかった。
でも、君にはもっとたくさんの“時間”がある。
君が誰かと出会い、誰かと笑い、また誰かを失っても――
どうか、君が“今”を憎まないように。
慧音より。
妹紅は、何も言わずに月を見上げた。
その夜、初めて涙を見せた。
妹紅と違い、“死ねる”側である彼女は、
何も残せずに去ることの苦しみを知っていた。
でも、“死ねない”妹紅の方が
もっと孤独で、もっと辛いのも分かっていた。
だから、彼女は笑って生きた。
妹紅の心の中で、ずっと生きることを願って――