テラーノベル
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アパートの階段を駆けあがり、部屋に飛び込んで鍵を閉めた。一人暮らしの小さな部屋の灯りをつけて部屋の奥まで進み、押入れの扉を開けた。一番奥の箱に手を伸ばして引き寄せた。引っ越し社の段ボールに入ったまま六年? いいや七年振りの対面だった。筒状に丸められたポスターと数冊の雑誌の下から一枚のCDが出てきた。
NOE。待望のニューアルバム。
十代の少女の横顔。風になびいている髪。それらを見た瞬間、乃江の脳裏に当時の記憶がありありとよみがえる。
「ねえ君、読者モデルに興味ないかな?」
街で声をかけられて乃江は軽い気持ちでついて行った。浴びるカメラのフラッシュが心地よかった。子供の頃から好きだった歌を思いきり歌えるチャンスも巡って来て、歌うたびに周囲の大人たちから、うまいうまいと褒められて気持ちがよかった。けれどそんな日々は長くは続かず、自身のCDを一度も聞くこともなく、けれど捨てることもできずに段ボールに仕舞われていた。
「あなたの声、魅力的で私は好きよ」
「神の耳を持つ女だ。神原桜子に見込まれた人物は必ず売れる。歌姫になれる」
彼らの言葉が乃江の胸を高鳴らせた。
紙ナプキンに書かれていた住所は、初めて訪れる街で乗った電車から海が見えた。アパートを出るときは指先がかじかむくらい冷たい風が吹いていたのに、この街の坂を上って行く乃江の黄色いコートの裾を揺らす風は温かくて心地良くて、多少緊張もしていたが徐々に足取りも軽やかになっていった。
静かな住宅地に伸びる坂を上りきった丘の上に一軒の平屋があった。縁側の窓は大きく、その前に広がる緑の芝生。そして芝生の上に一基のベンチが置かれていた。玄関の扉の前に立ち呼び鈴を鳴らした。少し待たされる。そのときキーンと甲高い声で鳥が鳴き、乃江は思わず鳴き声の方を振り返って、はっと目を見開いた。眼下に通ってきた街とその先に海が見えた。吹く風に乃江の長い髪がふわりと揺れて頬をくすぐる。
「綺麗…」
思わず呟いていた。
鍵が回る音がして扉が開いて顔を出したのは、スキンヘッドの男だった。
コメント
1件
うわあ第4話、めっちゃ雰囲気ある〜!!乃江の過去がだんだん見えてきてドキドキする😳💕 街でスカウトされて、神原桜子に「神の耳」って褒められた経験がずっと胸にしまわれてたんだね…それで七年ぶりにCDを取り出して、海の見える街まで行く決心したのがもう尊すぎる…!ラストのスキンヘッドの男、誰!?めっちゃ気になる〜続き早く読みたい!!😭🔥