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一方、その頃。
孫悟空と逸れた三蔵は未だに、人の波に攫われていた。
源蔵三蔵 十九歳
「おっと、とととと?!」
俺はどうにか人の波をかき分けようとしたが、その場から逃げたい気持ちが強い人間の行動を止めるのは難しかった。
どうにかして、悟空と合流しねーと。
しかし、この店にこれだけの人間がいたとは…。
流れに逆らわない方が良いのか?
そんな事を考えていると、誰かが俺の手首を掴んだ。
パシッ!!
「えっ!?」
「こ、こっちです!!」
手首を掴んだ主が俺に声を掛けてから、俺の手を引き人の波とは違う方向に誘導してくれた。
誰なんだ?
それに、上手く人の波に呑まれないような道を上手く探して誘導してくれている。
悪い奴…じゃなさそうだけど…。
タタタタタタタッ…。
いつの間にか俺は人の波から上手く外れていた。
「はぁ…、はぁ…。」
暗闇の所為で相手の顔が見えないな…。
ゾクッ。
背中に寒気を感じた。
この感覚…、もしかして…。
「ここなら…大丈夫ですね。」
男の声?
声の主がゆっくり俺の方に振り向こうとした瞬間に、俺は掴まれていた手を振り払った。
「えっ?ちょ、ちょっ?」
男は困惑した声を出した。
俺は咄嗟に男と距離を取り、ポケットに忍ばせておいた札を数枚取り出し自分の周りに浮かせた。
「お前、妖だろ。何で俺の事を連れ出したんた。目的があるだろ。」
そう言って俺は男を睨み付けた。
「ちょ、ちょっと待ってよー。僕はけして、やましい心で連れ出した訳じゃないよ!!お、落ち着いて…。あ!!顔を見たら納得してくれるよね!?」
「は、はぁ?そう言う問題じゃねーだろ!?」
「明るい所まで行くから少し待って!!」
男は窓から溢れた月の光の所まで歩いて来た。
いやいや、歩いて来なくて良いんだけど…。
「ほ、ほら。これならどうかな…。」
月明かりに照らされた茶色の髪に右眼までかかった長めの前髪に綺麗な緑色の瞳が俺を映していた。
「僕の名前は黒風(コクフウ)。牛魔王を止めて欲しくて君にあ、会いに来たんだ。」
黒風!?
六大魔王の1人の黒風か!?
「牛魔王の仲間がなんで俺に会いに来たんだ。それに、牛魔王を止めて欲しいってどう言う意味だ?」
俺がそう尋ねると、黒風は口籠もりながらもゆっくりと口を開けた。
「僕は…、あの時の事を後悔しているんだ。500年前の裁判の日を…。」
500年前の裁判の日?
それって…、悟空が五行山に封印された時か?
黒風はその裁判を見ていたと言う事…か。
「僕は悟空助ける為に貴方に会いに来たんだ。」
黒風はそう言って俺を真っ直ぐ見つめた。
その頃、悟空と毛女郎はー
孫悟空ー
「ゴホッゴホッ。」
毛女郎は口元を押さえながら咳き込んだ。
ピチャッ。
床に赤い血が落ちた。
「病気か何かか?」
「あー、これね、呪いの一種よ。」
「え、妖に呪いって掛けれるのか?」
「恨みが強かったら呪えるのよ。術者が死ねば私に掛かってる呪いは解けるんだけどね。」
毛女郎の顔色に血色がなかった。
体力的な問題…だな。
ドゴォォォーン!!!
店の外から大きな物音がした。
黄風と天蓬がやり合ってる音か…。
結構、激しく戦ってるみたいだな。
「三蔵は?一緒じゃないの?」
「客達の波に攫われて逸れた。店のどこかにいるはずだけど。」
「あら、そうなの。外の音は黄風がいるって事ね。」
「あぁ、天蓬とやり合ってる。」
そう言うと、毛女郎は眉間にシワを寄せた。
「全く…、あの子は何やってんだか…。」
「アンタの為にアイツは戦ってるんだよ。呪いを解く為にな。」
「だから、アンタ達とここを出ないって言ったんでしょ?」
毛女郎の言葉を聞いて俺は驚いた。
「何でその事を知ってるんだ!?」
「分かるわよそんな事。あの子が良いそうな事だもの。私が三蔵とアンタに用があったのは、あの子と一緒にこの福陵から旅立って欲しかったの。」
「成る程、観音菩薩から聞いていたからアンタは天蓬に自分の血を与え生かしていたのか。毛女郎、アンタは天蓬と離れて寂しくないのか?」
俺の言葉を聞いた毛女郎は悲しげに笑った。
「寂しくないって言ったら嘘になるわね。でもね、貴方達と共に旅をさせるのがあの子…いや、天蓬の使命なの。」
「使命…って、何だよそれ…。何の使命なんだよ…。」
「私が言えるのはここまでよ。観音菩薩に口止めされてんの。さ、行くわよ。」
「そこが重要だろ!?どこに行くんだよ!?」
俺の言葉を無視して毛女郎は手のひらから銃を出した。
「その銃…って、天蓬が持ってたヤツだろ?お前も使えんの?」
「この銃は二等銃なの。もう一つの銃を天蓬が持ってるだけ。天蓬と黄風の所よ。」
毛女郎はそう言って、口に付いた血を口紅のように唇に引いた。
「黄風を殺せるのは私だけよ。」
外に出た天蓬と黄風は激しい戦いをしていた。
パンパンパンッ!!!
キンキンキンッ!!
飛び交う銃弾と鉄の破片、舞い散る互いの赤い血液が夜の桜華を華やかにさせた。
「青蘭。其方は何故、妾と戦う?」
「毛女郎の呪いを解く為に今は戦ってるかな。」
天蓬はそう言って、頬から流れ落ちる血を拭き取った。「そんなに毛女郎の方が好きなの?」
黄風は乱暴に頭を掻きながら呟いた。
「あの時だってそうよ!!青蘭は妾の髪を触る時よりも毛女郎の髪を触る時の方が嬉しそうにしてた!!まるで愛おしい女に触れているように優しく触ってた!!妾にはそんな顔をした事はなかった!!」
黄風の体から赤黒いオーラが漂っていた。
「毛女郎に勝てた物が1つだけあった…。」
「何に言ってんだお前…。」
「牛魔王に認められなかったじゃない。そうよ、妾はあんな女よりも妾は美しい!!!」
「っ!?な、何だよ急に大きな声、出して…って?!はぁ!?」
天蓬は黄風の姿を見て驚愕していた。
何故なら黄風は人の姿をしておらず、大きな体の狐の姿をしていたからだ。
本来の黄風の姿は巨大な狐であり、人の姿などしていない。
「お前を殺してあの女も殺す!!!妾がより美しくなるのだ!!!」
ドドドドドドドッ!!!
狐の姿に戻った黄風が天蓬に向かって走り出した瞬間だった。
パンパンパンッ!!
黄風の足に血飛沫が飛んだ。
「ギャアアアアア!!!誰だ…、誰だ!?妾の足を撃ったのは!?」
カツカツカツ…。
静かな街に高い下駄の音が響いた。
「久しぶりね。何百年か振りじゃないの?」
「そ、その声は!?」
黄風は勢い良く声のした方を振り向いた。
天蓬も驚きながら視線を向けると、月明かりに照らされた毛女郎と悟空の姿があった。
「毛女郎と悟空!?何で2人が一緒にいるんだよ!?」
「おーお、ボロボロじゃん。天蓬元帥の名が泣くなぁー。アハハハ!!!」
悟空は傷だらけの天蓬を見て声を荒げて笑った。
「お前…、呑気に笑ってる場合じゃないぞ…。毛女郎も起きて平気なの?」
天蓬はため息を吐きながら毛女郎に尋ねた。
「今の所はね。アンタいつまで私に付き纏う気?」
「相変わらず憎たらしい顔じゃ。お前が死ぬまで妾は立ち止まる訳にはいかぬ!!」
「毛女郎!!!」
ヒュンッ!!
黄風が毛女郎に向かって走り出した。
天蓬は咄嗟にもう一つの銃を毛女郎に向かって真っ直ぐ投げた。
ドドドドドドドッ!!
悟空も如意棒を長くし黄風といつでも戦えるように体勢を整えた。
スッ。
「下がっとれ。」
毛女郎は悟空の肩に触れ、悟空の前に出た。
ビリビリッ!!
飛んで来た銃を取り、漢服の長いスカートを太股が出るぐらいまでに破いた。
「死ねぇぇぇぇえ!!毛女郎!!!」
ガパァァァア!!!
黄風は叫びながら大きな口を開け毛女郎に噛みつこうとした時だった。
毛女郎は右手と左手を交差させ、引き金を引きながら体を横にずらした。
パンパンパンッ!!!
黄風も上手く銃弾を避けつつ毛女郎との距離を縮めようとしている。
毛女郎は身軽に体を空中で回転させ二等銃を使いこなす。
「アハハハ!!そんな程度か毛女郎!!!そんなんじゃ妾を殺す事なんて出来ないぞ!!」
黄風は余裕そうに笑い毛女郎を馬鹿にしていた。
この場で毛女郎の事を弱いと思っているのは黄風だけだと、この時の黄風は知らなかった。
「おいおいっ。毛女郎は何をしようとしてるんだ?」
天蓬は小走りしながら悟空に尋ねた。
「え、分かんないの?」
悟空はキョトンとした顔で天蓬を見つけた。
「分かんないの?って…。あ!!」
悟空の言葉を聞いてから暫くすると天蓬は何か気付いたようだった。
「分かったならここから一歩も動かない方が良いぞ。クククッ…、何にも知らずに動き回ってる黄風は滑稽(コッケイ)だなぁ…。」
「悪趣味だな…、お前。」
悟空の笑っている姿を見た天蓬は少し引いていた。
黄風は自分の長い6本の尻尾を使い、毛女郎の体を貫こうとしていた。
だが、毛女郎は身軽に尻尾を避け黄風の体に数段の銃弾を埋め込んだ。
血を流しながらも黄風は素早い動きを止める事はなく、無我夢中になって毛女郎の元に突進していた。
「そろそろ頃合いね…。」
「何をほざいておる!!いつまでも避けておったら妾は殺せないぞ!!」
黄風の言葉を聞いた毛女郎はフフッと軽く笑った。
「貴様、何を笑っておる!!」
「アンタは私の鳥籠の中にいる事に全く気付いてないみたいねぇ…。」
「何を言って…っ!?」
シュルルルッ!!
シュルルルッ!!
黄風の体を長い髪の毛が巻き付き動きを止めた。
黄風と毛女郎の周りには、毛女郎の長い髪が至る所に絡まっていた。
悟空と天蓬の事を髪の毛は上手く避けていた。
「ど、どう言う事だ毛女郎!!」
「アンタは最初から私の髪の毛の網に掛かってたって事。銃を撃ちながらアンタに悟られないようにコッソリ周りに髪の毛を張ってたの。」
「だから、わざと細かく動いていたのか貴様!!!」
「私が何も考えずに動いていたと思ったの?馬鹿じゃないの。」
毛女郎の言葉を聞いた黄風は苦虫を噛み潰したような顔をした。
悟空は毛女郎が自分の周りに髪の毛を張り巡らせていた事に気が付いていた。
なので、下手に動かずにその場で大人しくていた。
その事に天蓬も気付き悟空の言う通りにしていたのだった。
「だから、毛女郎は身軽に体を動かしていたのか。自分も髪の毛に絡まないように…。」
天蓬は毛女郎の髪に軽く触れながら呟いた。
「だろうな。体が弱ってる癖によくあれだけ動けるな…。」
「平気な訳じゃねーよ。毛女郎は死ぬ気でここに来たんだろ悟空。」
そう言って天蓬は悟空を見つめた。
天蓬達と合流する少し前の事ー
毛女郎と悟空は急いで階段を降りていた。
「ゴホッゴホッ!!」
悟空の前にいた毛女郎が咳き込みながら階段から落ちそうになった。
「ッチ!!」
短い舌打ちをした毛女郎の手を強く引き、体を持ち上げた。
「かっる?!お前、軽すぎないか!?体の中身がないみたいだ…って、まさか!?」
悟空はある事に気が付いてしまったのだった。
「中身がないのは本当よ。あの子に渡したからね。」
「天蓬に渡したのか?」
「私があの子を見つけた時には、体の中身が牛魔王の槍に付いていた毒で溶けていたの。」
「っ!?」
「私の血と体の中身を全部あげたのよ。そして本来、ここにあるはずの心臓もあの子にあげた。」
「どうやって…。心臓がないのにどうやってお前は生きてるんだ?」
そう言って悟空は毛女郎に尋ねた。
「観音菩薩が手伝ってくれたのよ。妖はね心臓がなくても生きていけんの…。長命じゃなくなるだけで。」
「観音菩薩が手伝った?どうやって中身を全部移し替えれるだよ。」
「ゴホッ。それは、本人に聞いたら…?天蓬にはこの事は黙ってて。黄風を殺せるのは私だけ。もし、私が死んだらあの子を連れてって。」
毛女郎は真っ直ぐ悟空を見つめた。
ガシッ!!
「死ぬ気で来たんじゃねーよ。毛女郎はお前を守る為にここに来たんだろ。そんな事、お前が良く分かってんじゃないのかよ天蓬。」
天蓬の服の胸ぐらを掴んだ悟空は、睨みながら天蓬を見つめた。
「っ…。そ、そんな事…は、痛いくらい分かってる。」
「なら、黙って見てろ。毛女郎の生き様をしっかり見ろ。」
悟空はそう言って天蓬から手を離した。
「黄風。アンタはここで私に殺されて死ぬんだよ。」
「アハハハ!!馬鹿言ってじゃないわよ!?私だけが死ぬですって?」
黄風は笑いながら嫌な笑みを浮かべた瞬間だった。
グサクサグサッ!!!
毛女郎の足元から黒い刃が現れ、毛女郎の体を貫いた。
「え…?ゴホッ!!」
「毛女郎…っ!!!」
天蓬が慌てて毛女郎に元に走り出した。
「死ぬならアンタも道連れだよ毛女郎。」
黄風の言葉が悟空と天蓬の耳に響いた。