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天蓬元帥

毛女郎の体を赤い血が染めた。

ポタポタと音を立てながら血は地面に滴る。

毛女郎に近付くと、体に刺さっていた黒い刃が抜かれた。

ズポッ…。

倒れそうになった毛女郎を慌てて抱き締めた。

「毛女郎!!おい!!しっかりしろ!!」

俺は青白くなった毛女郎の頬を軽く叩いた。

「何で…、来たのよ。」

「このまま死ぬなんて言うなよ!?黄風を殺してゆっくりするんだろ?」

「あははは…。私もここまでみたいね。」

毛女郎はそう言って俺の頬に手を伸ばした。

「何…言ってんだよ。死ぬみたいな言い方するなよ。俺は、アンタを救えてないんだ。まだ、死ぬなんて許さないからな。」

「馬鹿ね…。そんな泣きそうな…顔をしてんじゃないの。」

ググググッ…。

黄風の体が大きく膨れ上がって行くのが目に入った。

「お、おい天蓬!!黄風の体が膨らんでるぞ。」

「な、何で妾の体が膨らんでおるんだ!?く、苦しい…。」

「フッ。」

毛女郎は膨らんで行く黄風を見て軽く笑った。

「貴様の仕業か…毛女郎!!!」

パンパンに膨れ上がった黄風はミシミシと音を立てていた。

「私が何も…、考え無しに銃弾を撃ち込んだと?」

「え?い、いやァァだだぁ!だぁ!だぁ!!」

パァァァァァアン!!!

膨れ上がった黄風の体が膨らみに耐えれず、破裂した。

黄風の血が雨のように俺達に降り注いだ。

「毛女郎がやった…のか?」

「私の銃の弾は破裂弾よ。ゴホッ!!」

悟空の問いを答えた毛女郎は血を吐き出した。

「毛女郎!!もう喋るな、呪いがやっと解けたんだ…。早く手当をしよう。」

俺はそう言って毛女郎の体を抱き上げようとした瞬間だった。

毛女郎の足がなかった。

「毛女郎の足が!?ない?」

「馬鹿。よく見て見ろよ天蓬。」

悟空は冷静に毛女郎の足元を指差した。

俺は恐る恐る足元を見ると、毛女郎の足が砂状になっていた。

「お、おい毛女郎!?どうなってんだよこれ!?何で、お前の体がどんどん砂になって行くんだよ!?」

毛女郎の下半身の半分が砂になっていた。

体の砂化はどんどん早くなって来ていた。

「私はもう死ぬのよ天蓬。」死ぬ…?

「妖は傷の治りが早くて、長命なんじゃないのかよ!?」

「毛女郎の体はもう、無理なんだよ天蓬。」

「無理…ってなんだよ。悟空、どう言う意味だよ!?」

俺がそう言うと、悟空は一瞬だけ毛女郎の方を見つめ直ぐに俺に視線を戻した。

「毛女郎には口止めされてたけど今、言うわ。お前の体の臓器や心臓は全部、毛女郎の物なんだよ。」

俺の心臓が毛女郎の物…?

今、こうして動いている心臓が毛女郎の物?

俺の体の中にある臓器達が毛女郎の物だと言うのか?

「信じられないなら聞いてみろよ音を。」

悟空に促されながら毛女郎の胸に耳を当てた。

心臓の音が…しない。

「俺には血だけを与えたんじゃないのかよ!?何で…?何で体の中身までも俺に渡したんだよ!!?」

そんな事したら…、毛女郎が死んじまうだろ?!

「毛女郎が見つけた時にはお前の臓器やら心臓が牛魔王の毒で溶かされてたんだと。」

「だ、だからって、そこまでするか…?」

「毛女郎はお前を助けたくて仕方がなかったんだよ。そんな事はお前が痛い程よく分かってるんだろ天蓬。」

悟空の言葉は痛いくらいに俺の心に刺さった。

分かってる。

分かってるよ。

毛女郎が俺を助けたかったんだって気持ちは、俺が1番よく分かってるよ。

分かってる…。

だけど、だけど死ぬなんて…。

ポタッ。

毛女郎の頬に涙が落ちた。

その涙は俺の涙だ。

「馬鹿…、良い男が台無しじゃないか…。」

俺の頬に触れていた手が砂化していた。

サラサラと俺の手から砂が溢れ落ちる。

「アンタは悟空と、共にここを出て。」

「毛女郎…。毛女郎、俺の為になんでここまで出来るんだよ…。お前が辛いだけだったじゃねーか。それなのに俺は…、何も返せてない。」

あの日から、俺は毛女郎に命を救われた日から守られてばかりだ。

毛女郎の体がどんどん老いていた事に気が付がなかった。

黄風の呪いの所為で毛女郎の体が苦しんでいると思っていた。

呪いもあったけど、一番の原因は俺に心臓や臓器やらを渡した所為だ。

「惚れた男の為に死ねるなんて、これ以上の幸せはないよ。天蓬…、牛魔王を絶対に倒すんだよ。それが私の最後の願いだ。」

「牛魔王…?」

「悟空。」

毛女郎は悟空の方を見て話し掛けた。

「天蓬を頼んだよ。」

そう言って毛女郎は砂になった。

砂になった毛女郎は夜空と共に消えて行った。

俺は声を出して泣き喚いた。

「毛女郎…っ、毛女郎。」

「お前、毛女郎の事を好きだったんだな。そんなに泣くくらいなんだから好きだったんだろ?」

俺は悟空の言葉を聞いて目を丸くした。

俺…、毛女郎の事を好きだったのか。

そうか…。

このどうしようもなく悲しい気持ちは好きだったからか。

破裂した黄風の体から狐が現れた。

「お、おい。アレって黄風じゃないか?」

悟空が指を指すと黄風は短い悲鳴を上げた。

俺と悟空を見た黄風は逃げ出した。

この期に及んでまだ、逃げるのか!?

毛女郎は死んでまでお前を殺そうとしたのに。

「あの糞女!!!」

怒りが体を支配して行くのが分かる。

今すぐあの糞女を殺したい。

グチャグチャにして二度と産まれて来たいって思わせないように、壊したい。

「お、おい?天蓬…、どうした?」

悟空は不思議そうな顔をして俺の顔を覗き込んで来た。

「…す。」

「は?」

「殺す!!!!」

俺はそう言って黄風を追い掛けた。



悟空は天蓬の姿を見て驚いていた。

天蓬の姿は猪のような、豚のような姿に変化していた。

ドロドロとした獣の醜い姿に変化していた。

悟空にも何故、この状況になったのか理解出来ていなかった。

怒りで我を忘れた天蓬は姿までも妖に変化していたのだった。

天蓬は物凄い速さで逃げ出した黄風の頭を掴んだ。

「いや、いやあぁぁぁぁ!!!やめて、やめてぇぇ!!」

黄風は泣きながら喚き散らかす。

黄風の言葉を無視して天蓬は、黄風の右腕に噛み付いた。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!!」

ブチッ!!

ブチブチブチブチッ!!

何かが切れる音が悟空の耳に届いた。

天蓬は黄風の体を噛み千切る。

手、足、胴体、頭、次々に噛み千切り、その後は体を貪(ムサボ)り始めた。

天蓬は死んだ黄風を尚、バラバラにした後に食べ始めていた。

その光景を見た悟空はある事を思っていたのだった。



孫悟空ー


「おいおい…!?嘘っだろ!?」

天蓬がグチャグチャ言いながら黄風を喰ってるぞ。

妖怪が妖怪を喰ってるわ…。

妖って妖を喰って良かったっけ?

確か…爺さんが昔、言っていたような…。

俺は目を瞑った。



「悟空、良いか?妖はな、同類喰いをしない生き物なんじゃ。」

「同類喰いをしない?え、アイツ等は妖を喰わないの?何で?」

「説明をするから待っとれ!!妖は匂いで食べれる物と食べられない物を判断しておるんじゃよ、本能的にな。それに、妖を妖が食べたら完全に堕ちる。」

爺さんはそう言って、一本指を出した。

「そうなった妖はもう自我を保てなくなる。意思がない人形になった妖は空腹を満たすだけの妖になる。」

「堕ちた妖はどうすりゃ良いの?殺せば良い訳だろ?」

「もし悟空に妖の友達が出来て、その友達が妖を食べてしまったら同じ事が出来るのか?」

その時の俺は、爺さんが何故この質問をしたのか分からなかった。

「そうなったら、其奴に纏(マト)っとる邪気を祓ったれば良いんじゃよ。そうすれば元の姿に戻るんじゃ。」

「は、はぁ?俺にそんな祓う力なんかねーぞ。」

「そんな事は知っとる。祓える奴が祓えば良い話じゃよ。ま、その内そうなるさ。」


祓える奴に祓えさせば良いって言ってたな。

三蔵しかいねーよな。

ッチ、三蔵の野郎め。

こう言う時に使えねーな。

三蔵が来るまで時間を稼ぐしかない。

俺は如意棒を伸ばし、天蓬の脇腹部分を叩き黄風から引き剥がした。

ガシャーンッ!!!

近付くにあった建物に天蓬を投げ飛ばした。

天蓬を堕とす訳にはいかねー。

毛女郎だって、天蓬にこうなって欲しかった訳じゃない。

天蓬に助かって欲しくて毛女郎は死んでまでアイツを守ったんだ。

「しっかりしろよ天蓬!!黄風はもう死んだんだ!!」

「ガルルルルッ…。」

天蓬の姿は豚のような姿で四つん這いになって唸っていた。

俺の顔を殺意に満ち溢れた瞳で見て来た。

コイツ…、自我がないのか?

いや、毛女郎の死を目の前で見て気に触れたのかもしれない。

「お前がそうなる気持ちは分かるよ天蓬。俺だって目の前で爺さんが殺された時、お前と同じようになった。だけど、爺さんが俺を俺でいさせた。毛女郎だってお前にこうなって欲しくて死んだんじゃねーぞ!!」

俺はそう言って如意棒を構えた。

「来いよ天蓬。特別に俺がお前の八つ当たりの相手をしてやる。」

「ガルルルルッ!!!ガウッ!!!」

ドドドドドドドッ!!

天蓬が俺に向かって突進して来た。

長い2本の角を俺に突き刺そうと頭を引くくさせていた。

「ハッ!!」

俺は如意棒を回し2本の角を砕いた。

バキバキバキッ!!!

角は音を立てながら砕け天蓬は苦痛の声を上げた。

「さっさと戻って来い天蓬。お前のあだ名が豚野郎になっちまうっぞ!!」

そう言って俺は天蓬の首元に如意棒を強く叩き付けた。

ゴキッ!!

「ギュイッ!?」

「お?効いてるみてーだな天蓬。」

ギュウウッ!!

腕が締め付けられる感覚がした。

腕を見ると三蔵が着けた金色の腕輪が手首を締め付けていた。

この感覚がするって事は…。


タタタタタタタッ!!!

屋根から飛び降りて来た三蔵は長い数珠と手を九字に切った。

「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前(りん・びょう・とう・しゃ・かい・じん・れつ・ざい・ぜん)!!!」

三蔵がそう言うと、天蓬の体の動きを止め体を締め付けた。

そのまま三蔵は天蓬の周りに数枚の札を配置させ、指を素早く動かした。

札からは白い雷が現れ、天蓬の体に雷を落とした。

「急急如律令!!!」

ドゴォォォーン!!

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

大きな雷が天蓬の体に落ちると、少し焼けた人間の姿をした天蓬が地面に倒れ込んだ。

バタンッ。

「はぁ、はぁ…。間に合って良かった。」

「テメェ、三蔵!!お前どこにいやがった!?」俺は三蔵を怒鳴り付けた。

「ちょ、ちょっと待てって。そんなに怒らなくたって良いだろ?!」

「怒るに決まってんだろうがこの馬鹿が!!」

「馬鹿って言った方が馬鹿なんだよ馬鹿!!」俺達が言い合いをしていると、誰かがこちらに向かって歩いてくるのが分かった。

「あ?誰だあれ?」

「お、来た来た。」

「来たって誰が?」

俺がそう言うと、三蔵が歩いて来る人物に近寄り手を引いてこっちに向かって来た。

手を引かれて現れたのは黒風だった。

「黒風?!何で、お前が…?」

ハッと我に帰った俺は黒風に向かって如意棒を振りかざそうとしたが、三蔵が黒風の前に立った。

「何してんだ三蔵。」

「待てよ悟空!!俺の話を聞いてくれ!!」

「あ?」

「っ!!」

三蔵は俺の顔を見てビクッと体が揺れた。



源蔵三蔵 十九歳


こんな冷たい顔を見た事がなかった。

内に殺気を秘めているけど、静かな瞳。

黒風が牛魔王の仲間だからこんな顔をしてるんだ。

それに、俺が止めたのも悟空は理解出来てないだろう。

それは当然な事だ。

悟空は黒風がここに来た理由を知らないんだから。

黒風の事だけは誤解を解いてやりたい。

「黒風はお前を助けにここに来たんだ!!牛魔王の目を盗んでここまで来た。」

「俺を助けに?お前、何か企んでるじゃねーだろな黒風。」

俺の話を聞いた悟空は後ろにいる黒風を睨み付けた。

「どうしたら信じてくれる?ご、悟空さん。」

黒風は目に涙を浮かべながら悟空に懇願した。

悟空は冷たい顔のまま口を開いた。

「なら、今ここで自分の指を折れよ。」

「なっ!?ご、悟空!!いくらなんでもそれは酷いだろ!?」

ガッ!!!

俺がそう言うと悟空は胸ぐらを掴んで来た。

「甘ったれな事言ってんじゃねーぞ三蔵。今、俺は苛々してるのが分かるよな?黒風が本気で俺の事を助けに来たって保証はどこにもねーんだよ。なら、奴が本気で俺を助けに来たなら折れるよな?妖なんだから折れてもすぐ再生すんだろ。」

悟空の言ってる事はごもっともだ。

確かに黒風が嘘をついてる可能性はある。

「だけど、あの目を見たら嘘なんか付いてないって思ったんだよ。」

「演技なら誰でも出来るだろ。」

悟空は乱暴に俺の服の胸元から手を離した。

そのまま少し大きめの石を拾った悟空は、しゃがみ込んでいる黒風の前に転がした。

「ほら、拾って来てやったからさっさとしろ。」

「こ、これをしたら信じてくれるの?」

「さぁな。それはお前次第だろ。」

悟空がそう言うと、黒風は石を持ち上げ自分の指に叩き付けた。

ゴンッ!!

痛そうな音が耳に届く。

黒風は苦痛の声を出しながらもう一度、指を叩き付けた。

「おい!!ご…。」

俺が悟空に声を掛けてると、悟空は黒風の前まで歩いていた。

そして、黒風は再び指に石をぶつけようとしたのを悟空が止めた。

パシッ。

黒風の指がボンボンに腫れ上がり、指の方向が少しおかしな方に向いていた。

涙を流しながら黒風は悟空の顔を見上げた。

「ご、悟空さん…?」

「悪かったな黒風。お前の事を試すような事を言って。」

悟空はそう言って、黒風の指に自分の指を噛み切り、血を指に垂らした。

すると、指の傷が見る見る内に治って行った。

「俺の事、まだ好きでいてくれたんだな黒風。ここまで来てくれてありがとうな黒風。」

悟空がそう言うと、黒風は泣き崩れた。

その光景から目が離せなかった。

悟空は黒風を疑ってなんかなかったんだ。

黒風がどこまで本気なのかを測ったんだ。

例え、やり方が汚いとしても悟空は確かな感情を確かめたかったんだ。

黒風が自分に対して抱いている好意を。

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