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サークルの溜まり場になっている喫茶店は、時計台から遠くない南門前にあった。今月の給与をもらいに弁当配達のバイト先に立ち寄ったので、ミーティング開始の時刻には間に合わなかった。
ニスの染みた木戸を押すと、頬に暖かい空気があたる。窓側のいつもの一角に、幹事長の銀座卓が見えた。肩からソフトケースを下ろして壁に立てかけ、俺は空いている席に座る。硬い木椅子だった。ひんやりする。たてつけの悪い窓の隙間から、秋の残像を含んだ冬風が入ってくる。髪の毛の先が、鼻に跳ね返ってきた。
プリントがまわってくる。今回の出演順が書かれていて、最後に「出雲健太バンド」があった。名前がバンド名になっているのは、俺の曲ばかりやるからである。しかし、バンドの方でもまとめ役は卓だ。曲はリスナーからは評判がいいのだが、メンバーからはイマイチだ。彼らはオリジナルよりも、おのおのが好きなアーティストのコピー曲をやりたがっている。