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キヨとレトルトの入学式後のプチエピソードです!
気楽に読んでくださいヽ(*^ω^*)ノ
校門を出た瞬間、春の風が頬を撫でた。
ざわついていた会場の音も、祝辞を読み上げる声も、 いまはもう遠くに聞こえる。
レトルトとキヨは手を繋いだまま、
並んで校舎脇の小道をゆっくり歩いていた。
さっきまでスピーチをしていた人間とは思えないほど、 レトルトはご機嫌で、軽い足取り。
けれど──。
(なんでレトさん、壇上にいたんだよ)
聞きたい事は喉まで出かかっているのに、
キヨはなかなか言葉に出せずにいた。
横を見るたび、 レトルトはちらっと視線を寄越しては、 すぐ前へ戻してしまう。
そのたびに、口元だけが悪戯っぽくゆるむ。
完全に、わざとだ。
キヨの眉がわずかに寄る。
何か隠している、そう確信しているのに、
レトルトは楽しそうに春の空を見上げていた。
沈黙の中、手を繋いだキヨの指は真実を知るまでは 離さないからなというように強く握られていた。
(なんとか言えよ……気になるだろ)
キヨがそう思った瞬間、
レトルトの肩が小さく震え笑いを堪えているのが分かる。
『……なんだよ』
思わずキヨが低く呟くと、
レトルトはゆっくり立ち止まり、キヨの方へ向き直った。
「……ねぇ、キヨくん」
レトルトが突然立ち止まり、
ふっと微笑みながら振り返った。
「さっきのスピーチ、ちゃんと聞いてた?」
キヨは一瞬言葉に詰まり、
耳の先だけ赤くしながら小さく頷いた。
『……聞いてたよ』
「なら、もう気付いてるんじゃない?」
レトルトはそう言って、
ひらりと舞い落ちてきた桜の花びらを、
キヨの肩からそっと指先で払い落とした。
その手つきは、優しくて、愛しくて…。
「『ある人に救われた』って言ったでしょ」
キヨの心臓が、ぎゅっと跳ねる。
レトルトはその反応を見て、かすかに微笑んだ。
「……あれ、キヨくんのことだよ」
キヨの喉がつまったように動く。
レトルトは息を吸い込んで、
朝の春風の匂いの中で静かに続けた。
「病院にいたとき、俺は絶望の中にいた。
泣きそうなくらい暗い夜が怖くて、泣いても一人ぼっちで。先の事なんか全然想像できなくて、 全部諦めようとしてた……」
言いながら、レトルトの視線が一瞬だけ遠くを見た。
あの弱っていた頃の自分を思い出すように。
「キヨくんが来てくれた日から、毎日が楽しかったよ。キヨくんは暗い闇の中から俺を救ってくれた。ちゃんと息ができたんだよ。
──“この人と一緒に未来を見てみたい”って、初めて思えた」
「本当にありがとう、キヨくん。俺を救ってくれて。俺を選んでくれて。」
キヨは言葉を失い、ただレトルトを抱きしめ
その腕の中でレトルトは優しく笑った。
キヨは耐えきれず、深く息を吸い込んで口を開く。
『……なぁ、レトさん。
なんで大学のスピーチなんかしてたんだよ。
てか……なんで“俺の大学”にいんの?』
自分で言いながら眉間にシワを寄せてしまう。
混乱しすぎて頭が追いつかない。
レトルトはその顔を見て、さらに肩を震わせて笑った。
「やっと聞いたやん、キヨくん」
わざとらしいほど嬉しそうに言う。
「聞きたそうに横でチラチラしてたん、可愛かったで」
キヨの耳がみるみる赤くなる。
『……で、答えは?』
レトルトは花びらの落ちた地面を軽く蹴りながら、 ぽつりとつぶやいた。
「俺、この大学に通っとるよ」
キヨは瞬きも忘れた。
『………は?』
「入学したのは去年。 キヨくんより一つ上の学年。」
そんな重大発表を、まるで明日の天気でも話すみたいに軽く言う。
『待って待って……じゃあ、レトさん……
俺の大学に“元からいた”ってこと?』
「せやで」
『なんで言わねぇんだよ!!』
思わず声が上ずる。
レトルトはふふっと笑い、キヨの頬を指でつついた。
「入学式、ええサプライズやったやろ?」
キヨはしばらく呆然としたまま動けなかった。
けれど胸の奥では、言葉にならない熱が広がっていく。
レトルトは唇の端を上げ、いたずらが成功した子供みたいな顔になる。
「サプライズで言ったほうがキヨくんの顔、絶対おもろいやろって思って」
『おもろいやろって……!』
キヨは思わず言い返すが、
その頬は完全に嬉しさが滲んだ赤色をしていた。
『……でもさ。 レトさん、ずっと入院してたのに…… なんで“学年トップ”なんだよ?』
どこか拗ねたような、不思議そうな目。
レトルトは一瞬だけきょとんとしたあと──
「え?そんなの簡単やん」
と、まるで当然のように胸を張った。
「今の時代、オンラインでも授業受けられるんやで?レポートもテストもほぼ全部提出できるんよ」
「病室で暇やったからさ〜。」
と、さも当たり前に言ってのけた。
そこでぐいっとキヨのほうを向き、
「俺、結構かしこいんやで〜」
と自慢げに言ってみせる。
本当に誇らしそうで、ほんのり得意になっているレトルトが可愛すぎた。
キヨは驚きと照れと感心がごちゃ混ぜになって、思わず口を噤む。
『…………ずりぃよ、そんなん』
ぽつりと漏れたその言葉に、
レトルトはクスっと笑った。
「なにが?」
『そんなの……惚れ直すに決まってんだろ……』
キヨはモジモジと下を向きながらボソッと呟いた。
『じゃあ、さ。……明日からレトさんと同じ キャンパス……なんだよな?』
「そうやで! これからは毎日一緒」
心地よい風が吹き、レトルトの髪を優しく揺らす。
その中で、いたずらっぽい瞳だけがまっすぐキヨをとらえる。
「……嬉しい?」
『うん!!すっげー嬉しい!!』
キヨは嬉しさに心が弾むのを堪えきれず
大声で返事をした。
「これから、よろしくね。
キヨくんと同じ場所で……ちゃんと、隣におるから」
レトルトはキヨの手を引いたまま、
桜の花びらが舞い散る道の真ん中でふと立ち止まった。
そして、少しだけ悪戯が混じった笑みを浮かべる。
「さて……入学式も無事サボったことやし──
どっかデート行こっか、キヨくん?」
キヨは呆れ顔を作ろうとしたが、
そもそもそんな表情は長くもたない。
レトルトの目が、嬉しそうに細められているのを見た瞬間、
胸の奥が溶けるようにあたたかくなる。
『……ほんとさ、レトさんには敵わないな〜』
ため息混じりに笑いながら言うと、
レトルトはますます上機嫌になってキヨの腕に絡みついた。
「そんなん今更やん?」
風に乗って花びらがひらりと2人の肩に落ちる。
春の光の中で、影は寄り添うようにひとつに重なる。
並んで歩くたびに、
手の温度が確かに伝わってくる。
「なぁ、キヨくん。
これからいろんなところぜんぶ、一緒に見に行こな?」
『……うん!どこでも連れてってよ』
「任せてよ!
だって俺……キヨくんの“先輩”やし」
わざとらしく胸を張るレトルトに、
キヨは吹き出し、そのまま肩を小突いた。
桜道を歩く2人の笑い声は、
花びらの舞う春風に溶けて、
どこまでもやさしく広がっていった。
そしてその手は、
これから先もずっと離れることはない。
終わり
実はレトさん、めちゃくちゃ頭が良かったって話を書きたかったのです☺️
サプライズを結構前から計画していて学年トップになる為にキヨが来ない平日にちょっとだけ勉強を頑張ってたのは内緒です。
っていうメロい展開を妄想して書きました笑