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「俺の国も、お前の国も……いっそのこと消えてしまえば良いのにな」
寝台の上。私を抱き締め、ヨンスさんは言った。
どうしてそう思うんですか、と訊ねると、彼はこう答えた。
「国という『枠組み』が無くなれば、日本人だとか、 韓国人だとか、そういう『垣根』も無くなるんだぜ。 そしたら……今よりももっと自由になって、堂々とお前と愛し合えるんじゃないかと……そう思うんだぜ」
「…………成る程」
「俺、もう厭なんだぜ……これ以上、俺の国とお前の国が、互いにいがみ合っていることが。一緒にいるだけで、どちらの国からも『売国奴」と罵られることが」
だから、どっちも無くなってしまえば良い────そう呟いて、さっきよりもいっそうきつく、ヨンスさんは私を抱き寄せた。
そんな彼の背中に手を回しつつ、私は言った。
「貴方の気持ちは分かります。でも……そうなったとしても、私達の民族はやっぱり手を取り合えないと思います」
「それは……どうしてなんだぜ?」
「また新たに国を建てようとして、その時に領土や権利を巡って争うだろうと……祖国に対するプライドが著しく強いですからね、日本人も韓国人も。だから国が無くなっても、心は『国』に縛られたままじゃあないかと……」
「そっか…………でも、」
ヨンスさんは、私の頬に口付けて言った。
「俺達はそんな奴等とは違うんだぜ。国如きに振り回されるほど、チンケな野郎じゃないんだぜ」
「ヨンスさん…………」
「どのみち地獄であるならば、俺達はそれに抗うまでなんだぜ。国があろうと無かろうと、幸せになる権利はあるんだぜ。そうだろ?」
瞳の奥で静かに輝く、決意。私は頷く代わりに、その厚い胸板に顔をうずめた。