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「見つかるといいですね。火端さんの妹さん……」
「あ、ああ。だけど、多分ここにはいないかもな。もっと下の方だろう? あいつの罪は冤罪だけど、重いから……」
「うーん……? あ、でも私。ここ八大地獄では等活地獄までしか来たことないんですよ」
「そうか……なあ、音星? ここ八大地獄へはどうやって……?」
俺が言おうとしたら、音星はおにぎりを食べ終わり、額に人差し指を当てて考え込んでしまった。
その時、向こうの針の山で大きな音がした。
「あら? 何かしら? 今の大きな音?」
「あ、み! 見るな!!」
俺は音星の目を片手で覆った。
ここは等活地獄。
殺生をした人が最初に落ちる地獄の第一層だ。
だから……。
罪人が灰色の空から大量に落ちてきた。ある者は針の山で串刺しになり、ある者は地獄の鬼(獄卒)たちに、落ちてきたものから、金棒で八つ裂きにされていた。
人々の血液で、瞬く間に地面が真っ赤な血の海になっていった。金棒で人体は骨がぶっ飛び。首や腕までもが飛んでいく。
八つ裂きにされたものから人型の魂だけの存在になっていった。
「ああ、ああ、そうでしたね。私、知っていますよ。罪を犯した人たちが空から落ちてきたのですね」
「ああ……そうだが。見たことあるのか?」
「いえ……いつもその時は目を瞑っておりますから」
「それは良かったな」
俺はさすがに怖くなってきたが、音星の目を閉じさせている片手に力を入れるのを忘れなかった。
断末魔すら聞こえることのない地獄の責苦を目の当たりにして、俺は急に立ち上って、走り出したいという気持ちが心の中で強くなった。そして、走って、走って、全力で探したい!
早く妹を探さないといけない!!
居ても立っても居られない激しい焦燥感に駆られていると、俺の手で目を覆われている音星がニッコリと笑って、立ち上がった。
「私はここで、目を瞑って待っておりますから……どうか、妹さんをお探しに行ってください!」
「……おお! ありがとな!! 音星!」
音星の優しい笑顔で、俺は落ち着きを少し取り戻した。
等活地獄一体を、とりあえずは、妹を探しに走り回ることにした。
等活地獄を鬼(獄卒)たちの目を盗みながら散々走り回ること数時間。
結局、俺は妹を見つけられなかったんだ。
やっぱり、ここにはいないんだな……。
そして、その後に音星がどうやって、地獄へやって来れたのがわかった。
かなり疲れたので、音星がいる岩間に戻るってくると、俺の食べ掛けのおにぎりがそのまま置いてあった。
音星は依然として目を瞑って突っ立っている。
「あの。火端さんですよね。そこにいるのは?」
「ああ……」
「妹さんは……おりましたか?」
「いや、いない。やっぱりもっと下の方だ」
「それでは、私たちも限界ですし、おにぎりもなくなりましたし、それにもう現世は夜遅いと思うので……」
「……あ、ああ」
「ここいらで、八天街のお宿へと戻りたいのですが……」
「……あ、ああ。って、え?……ええ??」
「火端さん? お宿は? どこかに泊まるところはないのですか?」
「うん。ないんだ」
「あ、そうですか。それでは、私の今寝泊まりしている。お宿をご案内いたしますね」
俺は音星の言葉に終始、呆気にとられていた。
今更ながら現世に戻れるのか?
どうやって?
「それでは、お後がよろしいようで」
そういうと、目を瞑ったまま音星は、肩から降ろした布袋から古い手鏡を取り出した。
そして、俺の方へ手鏡を向け。
「火端さん? そちらにおられますか? 鏡……写っています?」
「ああ……今、その鏡に俺の姿が写っているよ」
「そうですか。そのままじっとしていてくださいね」
音星の持つ手鏡が光りだした。