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「おはよ、莉世」
「……雪蛍くん、おはよ……」
昨夜の事を思い出すと少し恥ずかしくて無意識に視線を外す私に、
「身体、平気? いつもより無理させてごめんな」
そう問い掛けながらギュッと抱き締めてくれる雪蛍くん。
「うん、大丈夫だよ」
「なら良かった」
朝起きて、一番に雪蛍くんに会えるのは、やっぱり嬉しい。
結婚したら、それが当たり前になるのかと思うと、早くそうなりたいという思いが大きくなるばかり。
だけど、それは雪蛍くんも同じのようで、
「莉世が俺の奥さんになるのかと思うと、本当、夢みたいだ。結婚したら、毎朝こうして寝起きの莉世を抱き締められるんだからさ」
「……私もだよ……ずっと、夢見てた、雪蛍くんと一緒になれる未来を」
「式はさ、立場上豪華なのになっちまうと思うけど……俺としては、莉世と二人きりの式にも憧れてんだ」
「私も、二人きりの式、やりたいな」
「それなら、どこか良いところ、探そうな」
「うん」
朝からこんなに幸せな会話が出来る事も嬉しくて、私は泣きそうになるのを必死にこらえ、雪蛍くんの胸に顔を埋めていつまでも温もりを感じていた。
その日の午後、心配していた私の両親に雪蛍くんとの事を話し、明日挨拶へ向かう事が決まった。
社長にそれを話すと、小柴くん経由で手土産と着ていくスーツを届けて貰った。
そして、翌日。
「……なぁ莉世、俺、変じゃねぇ?」
「全然、大丈夫だよ。いつも通り格好良いよ」
「……嬉しいけど、今は素直に喜ぶ余裕がねぇ……」
「もう、雪蛍くん、緊張し過ぎだよ」
「いや、そりゃするだろ? 初めて会うし、あんな報道の後だし、結婚の挨拶……だしよ……」
いつも何事にも動じない雪蛍くんがこれでもかというくらいに緊張している姿が可愛くて、思わず笑みが溢れる。
「でも本当、大丈夫だよ。報道されて謹慎処分になった時は心配してたけど、相手が他でもない雪蛍くんだし、私たちは真剣な気持ちで交際していたのも話したし、何よりも、あの会見での雪蛍くんの一途な気持ちを知って感動したって言ってくれてたから」
「……なら、いいけどさ……。あーでもやっぱ緊張する!」
「もう、雪蛍くんってば。ほら、そろそろ行こう」
「ああ、そうだな……」
実家近くのコインパーキングに車を停めた私たちは、両親の待つ家へと向かって行った。
「遠いところをわざわざありがとうね」
「いえ、そんな事は。挨拶が遅くなって申し訳ありませんでした」
「いいのよ、そんなの。渋谷くんは売れっ子さんなんだもの。気軽には来れないわよねぇ、ね、お父さん」
「……まあ、そうだろうな」
実家に着くと、いつになくお洒落をしたお母さんと、どこか不機嫌なお父さんが待っていた。
お母さんの方はいつも通りというか何というか明るく笑顔で迎えてくれたのだけど、お父さんは口数も少なく、笑顔すら見せてはくれない。
正直、こんなに不機嫌な表情のお父さんをあまり見た事が無かったから、何だか妙に落ち着かない。
「……それで、話というのは?」
電話では話していたはずなのに、見当がつかないと言った素振りでお父さんが問い掛けてくる。
これに私が答えようとすると、それを制するように雪蛍くんが話を始めた。
「莉世さんから話を聞いた時は、さぞ驚かれたと思います。本来ならば、ああいった報道が出る前に挨拶に伺ってきちんとお話をするべきだったと反省しています。申し訳ありませんでした」
「雪蛍くん……」
「まあ、驚きはしたけど、仕事仕事で浮いた話も聞かないから心配してたのよ、私たち。それがこんなにも素敵な人とお付き合いしていたんだもの、私としては嬉しい限りよ」
「お母さん……」
「――渋谷くんは、莉世のどこがよくて、付き合っているのかな?」
「ちょ、お父さん!」
「莉世、お前は黙っていなさい。私は今、彼に質問しているんだ」
お父さんの突然の質問に抗議しようとしたのだけど、一喝されてそれ以上口を挟めず雪蛍くんの方に視線を移すと、彼は大丈夫だよと言っているかのように小さく頷くと、再び前に視線を向けて聞かれた質問に答え始めた。