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守は震える手でゴミ袋を漁り続けた。腐った生ゴミの悪臭に鼻を突き刺されながら、
彼の心はただ一つのことに集中していた。証拠を見つけなければ、
このまま全てが闇に葬られてしまう。ようやく、
新聞紙に包まれた小さな物体を握りしめた瞬間、守の鼓動が一際強く跳ねた。
手にしたのは、間違いなくカメラだった。そして、その中にはSDカードが入っていた。
守は息を切らしながら事務所に駆け戻り、急いでパソコンを起動した。
震える手でSDカードを差し込み、ファイルを開くと、そこには紗良の着替えのシーンが映し出されていた。
画面に映る紗良の無防備な姿に、守は胸が痛んだ。しかし、
それ以上に彼を衝撃で打ちのめしたのは、その直前の映像だった。
「佐々木くん、聞こえるか?」店長の声がSDカードに録音されていた。
「はーい、オッケーです」と答える佐々木の声。
そして、カメラが紗良のロッカーに設置され、彼女のプライバシーを侵害している映像が続いた。
守は全身が凍りついた。
「だから…だから店長はこの件を大事にしなかったんだ。
俺を犯人に仕立て上げて、全てを隠そうとしたんだ…」
怒りと絶望が混じり合った感情が守の中で爆発した。
店長は紗良のストーカーでもあったのだ。SDカードには、
紗良のマンションと思しき建物の映像も映っていた。守は怒りに駆られ、机を拳で叩きつけた。
「くそ!!」
その怒りが収まらないまま、守は部屋を飛び出し、天城のもとへ向かった。
「守さん、どうしたんですか?」天城が驚いた表情で問いかけた。
守は息を切らしながら、震える手でカメラとSDカードを差し出した。
「ストーカーは店長だ。これを見てくれ…」声は震え、涙が込み上げてくる。
紗良を守れなかった無力感が彼の胸を締めつけていた。
「紗良ちゃんを…紗良ちゃんを守ってやってくれ…俺じゃダメなんだ。もう、俺は何もできない…」
背を向け、去ろうとする守の背中を、天城が静かに見つめた。
守の肩は小刻みに震えていた。
「守さん、何があったんですか?」と天城が真剣な声で呼び止めた。
守は足を止めたが、振り返らずに立ち止まる。長い沈黙のあと、彼はゆっくりと語り始めた。
「俺は…ずっと何もできなかった。いつも逃げてばかりで、
けど、今度こそ…紗良ちゃんを守りたいと思ったんだ。
でも、俺が関わると、また失敗する。だから、天城君…君に全てを任せるしかないんだ…」
涙がぽろぽろと溢れる。守は自分の無力さを痛感しながらも、
紗良を守るためには、自分が一歩引かなければならないと決意していた。
守の体から漂う生ごみの匂いに天城は気づいたが、その匂い以上に彼の真剣な表情が胸に響いた。
天城は迷いなく守の前に立ち、両手で彼の肩を強く掴んだ。
「守さん、僕はあなたを信じます。だから、
守さんも僕を信じて、全部話してください。」彼の目をじっと見つめ、その言葉には迷いがなかった。
守は一瞬、目をそらしそうになったが、天城の強い視線に耐えられず、正直に打ち明けた。
「オレは…盗撮犯扱いされて、クビにされた。
でも、真犯人は店長と佐々木だ。そのカメラに、証拠が映ってる…」
天城はその言葉にしっかりと頷いた。そして、守の手を強く握り締めると、
彼を引っ張るようにして歩き出した。「警察に行きましょう。」その声には決意が込められていた。
守は少し後ずさりし、「で、でも…オレの尻も映ってるかもしれないし…」と、
消え入りそうな声でつぶやいた。しかし、天城は振り向きもせず、
力強く答えた。「それは紗良を守ろうとしたからでしょう!僕がついてますから、大丈夫です。」
天城の後ろ姿を見ながら、守の心に温かいものが湧き上がってきた。
「天城…くん…」心臓が高鳴る。彼の無償の信頼と行動力に、守は救われた気がした。
その後、二人は警察に証拠を提出し、カメラに残された映像によって、店長と佐々木は逮捕された。
森井も事情聴取を受け、直接の関与はないとされ大事にはならなかったものの、
その後すぐにバイトを辞めて姿を消した。
事件はマスコミやSNSでも大きく取り上げられ、一時は大騒ぎとなったが、
世間の関心は新しい事件へと移り、騒動も次第に静まっていった。
しばらくして、スーパーには新しい店長が着任した。
知的な雰囲気の女性店長で、効率を重視し、セルフレジの導入などで店の運営を改革していった。
騒動は過ぎ去り、スーパーは徐々に落ち着きを取り戻していった。
守もまた、心の中で一つの決意を固めた。もう、逃げるのはやめよう。彼は自分自身を見つめ直し
新しいスタートを切る覚悟を決めていた。