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日曜日。
「今日は楽しみだね」
朝ご飯を食べながら司が側に立っている幸に言う。
「はい。しかし、くれぐれもお怪我だけはなさらないように」
「それはー…。わからないよ」
たしかに
と思う幸。
「でも気をつけるよ」
「ありがとうございます」
そしていつものように
「最高級小麦で、最高の職人が作ったパンに
北海道の最高の飼育環境で伸び伸びと育った豚を丁寧にハムに仕立てた最高級のハムに
これまた北海道の最高の飼育環境で伸び伸びと育った鶏が産んだ卵を焼いた目玉焼きになります。
卵黄の濃さとハムの塩気、そして小麦の香りにパンの甘みがあるので
醤油や塩などはいらないとは思いますが、念の為、最高級のお醤油もお出ししておきました。
味が物足りない様でしたら、お手数ですが、お好みの量をご自身でおかけください。
そしてデザートですが、フルーツゼリーを取り寄せました。
こちらイチゴ(ストロベリー)やブルーベリー、ラズベリーなどのベリー系のゼリーとなっておりまして
もちろんすべてそれぞれの産地の最高級品質のものを使っておりまして
果肉とゼリーの比率、ゼリーの口溶けの良さ、ベリー類の果肉の皮が口に残らないように
そして果肉感を感じさせ、なおかつベリー類の皮が口に残らないように工夫し
すべてのベリーがそれぞれの個性を発揮しつつも
手を取り合って、まるで新しい1つのベリーのような味わいのゼリーとなっております。
そしてお飲み物ですが、最高の透明度を誇る湧き水を使用して作られた炭酸水になります」
という幸の嘘まみれの朝食を
「美味しかった。いつもありがとう。でも、いつも言ってるけど、そんな高いのじゃなくていいんだからね?
そもそも高くないものの味とかを食べたくて一人暮らし始めたんだから」
と信じきって食べ終えた司。
「いえ。お坊っちゃまのお父様、お母様から「くれぐれも」と念を押されておりますので」
「じゃ、お昼まで勉強してくるね」
「ご無理をなさらないように」
「うん」
と言って司は部屋に戻っていった。ちなみにパンはスーパーで値引きされていたパン。
ハムもセット売りでお安くなっていたハム。卵は一番安い卵を
それぞれ工夫を施して、パンの甘みを増したり、香ばしく焼く焼き方で焼いたり
卵も卵黄の味が濃くなるように工夫したりしたもので
ゼリーも、傷がついていたり、形、大きさが不平等な、訳あり品のイチゴだったり
そもそも単体ではあまり売れないブルーベリーだったりラズベリーを買って
幸が試行錯誤をして作った、幸お手製のゼリー。
そして飲み物の炭酸水は…。美味しい美味しい四ツ葉サイダーです。
それをあんな感じで言えるなんて、ある意味才能です。
司が部屋に戻ってから幸は執事の服、燕尾服を脱いで下着のパンツ一丁になり朝ご飯を食べる。
司が食べたのと“ほぼ”同じ朝ご飯。
“ほぼ”というのは、幸は司に出す前に、どんな味に仕上がるのかを試食していた。
パンなら端っこの少し。目玉焼きなら1個。ゼリーなら1口など。
なので幸が食べる朝ご飯は、司に出す一工夫をしていないもの。
自分が食べるのに、わざわざ工夫を施すのは面倒なので、“ほぼ”同じなのである。
もちろんお手製のゼリーはお手製というだけで一工夫も二工夫もしているのだから
ゼリー以外ということになるが。いや、四ツ葉サイダーもそうか。
そんな何も工夫していないエッグハムトーストを食べる。
「…。うまっ」
なにも工夫せずとも充分に美味しかった。朝ご飯を食べながら朝斗にLIMEをする。
幸「13時半に集合な」
と送った。しかし既読にはならない。
ま、リアルタイムで既読にはならんか
ともぐもぐしながら思い、スマホをローテーブルの上に置く。朝ご飯を食べ終えた幸は部屋の時計を見て
「…2時間くらいなら寝れるか」
と呟き、寝ることにした。2時間後、スマホのアラームが鳴る。
「…うるせぇ…」
自分で設定したスマホのアラームに悪態をつきながらアラームを止める。
鼻から1つ大きな、ため息のような息を吐く。
…もっと寝たかった
誰もが思うことを思う。
「あ」
と声を出して、いや、無意識に声が出て、朝斗とのトーク画面に入る。
幸「13時半に集合な」
と送ったメッセージの左側に送った時刻、9:43の表示があり
本来、相手がメッセージに気づき、トーク画面に入ってメッセージを確認した場合
送信時刻表示の上に「既読」という文字が表示される。しかし
「…既読…。ついてねぇ」
「既読」の文字はなかった。ということはまだ読んでいないということ。
いや「13時半に集合な」くらいの短いメッセージなら通知で確認できるので
通知やトーク一覧で確認して、ただトーク画面に入っていないだけ。という可能性もある。だとしても
「返事しろや」
返事は欲しいものである。なので電話をかけることにした。
LIME特有の呼び出し音が鳴り響く。鳴り響く。…鳴り響く…。
「寝てんな」
と呟く。応答なしで切れた。もう1回かけた。呼び出し音が鳴り響き、鳴り響き
「…」
出た。
「おはよう」
と幸が言うと
「…。…お、はようございます…」
と消えかけの声で言う朝斗。
「今日バスケの練習、1時から」
「…あぁ〜…そっか…。あったまいった…」
「遅れんなよー」
「…ん」
「二度寝したら処すからな」
「…恐ぇわ…」
と言って通話を切った。司が部屋から出てくる時間になったので執事の服、燕尾服を着る。
「幸くん、ど、おかな」
と部屋から出てきた司は
昨日(さくじつ)土曜日に朝斗が買ってきたバスケのユニフォーム一式を着用していた。
「お似合いです」
「そっか。よかった」
「バイクで向かうので、その上にパンツを履いて、なにか羽織ってくださいね」
「うん。わかった」
ということで司、幸は予約していた体育館へと向かった。
時間制で貸し切りにしてもらった。体育館内に入ったが朝斗の姿はなかった。
「まずはストレッチしましょうか」
「うん」
「バスケは割と全身運動ですので、足首を回して、アキレス腱を伸ばし
股関節のストレッチ、手首を回し、腕を伸ばし、肩を回しましょう」
ということで幸が、ラジオ体操の見本でみんなの前でするように
司の前でストレッチのお手本を見せ、それをマネて司もストレッチを行う。すると
「うぃ〜す…」
と朝斗が体育館に入ってきた。体育館の時計を確認する幸。13時31分。
「はい、処しまーす」
と言って朝斗に近寄る幸。
「1分!1分じゃんか!許せ!許せサスケ!」
「ま、許したろう。で?」
「…で?とは?」
「そのカッコでやる気じゃないだろうな」
朝斗の服装はジーンズにパーカー、Gジャン(ジーンズ生地のアウター)だった。
「さすがに脱ぐわ」
「だよな」
ストレッチを続ける司と幸。司の後ろのベンチ部分でGジャンを脱ぐ朝斗。そしてパーカーも脱ぐ。
そしてつけていたダイヤモンドなのか、宝石らしきものがついたピアスも、両耳たぶから外す。
「それガチダイヤ?」
幸が聞くと
「そうよん」
とジーンズも脱ぎながら答える朝斗。
「いくら?」
「わからん。一希さんに買ってもらったから」
「ダイヤのピアスを?しかも本物を?」
「一希さん、うち(Run’s On1y)の不動のナンバー1だから」
「ナンバー1ってそんな稼いでんの?」
「そりゃーもう」
大きめのトートバッグからバスケのパンツを思わしきものを取り出して、履きながら幸と話す朝斗。
さらに大きめのトートバッグからバッシュ(バスケットボール専用シューズ)も取り出して履く。
そしてその場で床にキュッキュッっと擦り付ける。司も幸もストレッチを終えた。
「朝まで飲んでたん?」
幸が朝斗に聞く。
「あぁ。テキーラいったいった」
「朝までホストなんて大変だな」
「んー。ま、うちは“健全”な箱だから、朝までの営業はしてないからー…。
ま、でも店終わりでもホストの仕事っちゃホストの仕事か」
「え。朝まで営業してないの?」
「してないしてない。あ、“うち”はね?他所(よそ)は知らないけど」
「へぇ〜。なんてとこ?」
「ん?うちの店の名前?」
コクンと頷く幸。
「Run’s On1y!独走って意味ね!かっちょいいっしょー。
あ、ちなみにね、「Unique 1nvaders」っていう、新人ホスト+方言だったりキャラ強い人が所属する箱とか
「Top Rough(Laugh)」って箱は純粋に新人ホストが所属する箱もあってー
3店舗とも「On1yグループ」っていう系列店なんだけどー。
なんと、オレのいる「Run’s On1y」は「On1yグループ」のトップ!
所属するホストは皆一様に超絶稼ぐホストばっかり。…あ、さっき朝まで営業はしてないって言ったけど
「UI(ユーアイ)(Unique 1nvadersの略称)」は2部もあるから、6時からはやってるけどね」
と、謎にドヤ顔で言う朝斗。
「ん?2部ってなに?」
「2部は朝ホス。朝から営業のホストクラブだね」
「そんなんあんの?」
「あんのよ。ま、ホストクラブってよりコンカフェ(コンセプトカフェ)に近いけどな。
特にUIは在籍ホストがクセ強だから、よりコンカフェ感強いんだよなぁ〜…」
「へぇ〜…。てか朝斗、そのトップラフ?に所属する立場なんじゃないの?」
「あぁそれね?いや、面接んときにうちの、あぁ、Run’s On1yのナンバー1の一希さんが面接に来てくれて
Top Roughのナンバー1の人とUIのナンバー1もいたけどね」
「スゲェな。一堂に会してる」
「イチドー?ま、スゲェわ。んで全員気に入ってくれてさ?オレのこと」
なぜか誇らしげに話す朝斗。
「ま」
「朝斗は人柄がいいからな」と言おうとして
言ったら調子乗ってウザいかもな
と頭中にそれを言った後の朝斗の顔が思い浮かんで言うのをやめた。
「ま、なに?」
「なんでもない。続けて」
「んでさ?オレ東京出身で訛ってないし、キャラもそんな濃くないから
Top Roughに所属することになったんだけど
Top Roughでホストのいろは学んだらオレんとこに引き抜くからって言われてさ?」
「え、そのRun’s On1yって、その系列の」
「トップだよ?」
「だよな?じゃあその他のお店の人怒るんじゃないの?」
「いや、最初は怒ってたよ?でも基本給はTop RoughとかUIの新人の基本給と変わんないしってのを
ナンバー1の一希さんが説明してくれたら、「あぁ、ま、それなら…」って納得?してくれた、みたいな」
「ふうぅ〜ん。その一希さん?のおきに(お気に入り)なんか」
「せやねぇ〜ん。ヘルプでつくのはいつもオレ!」
「へぇ〜」
なんて話していると背中をツンツンと突かれる幸。振り向くと司がいて
「話し中にごめんね?どうすればいいかな?」
と言う。
ヤベ。長話をしてしまった
と思った幸。
「すいません。今お坊っちゃまをどうバスケ上手にするかの作戦会議をしておりまして」
と口から出任せの幸。
「ん?そんな話してn」
「ない」と言いかけた朝斗の足先思い切り踏む幸。
「いっ!…たくはない」
「そうなんだ?そんな話のときにごめんね」
信じている司。
「いえ。ではまずボールを持ちましょうか」
と言われて持ってきたボール持つ司。その体育館の受付でボールを借りてきた朝斗。
「では、この朝斗が教えてくれるので」
「はい!この流湖田(なこだ)朝斗(あさと)が教えます!」
「流湖田さん、よろしくお願いします」
と頭を下げる司。
「朝斗でいっすよ!まかせてください!」
「朝斗さん」
「うっす!」
「朝斗ストレッチしなくていいん?」
「…んん〜…ま、いいんじゃね?」
幸は司に寄っていって司の耳元で
「ストレッチをしないとこういう大人になりますし、なにより…怪我をします」
前半はデタラメだが、後半はまともなことを言った幸。
「じゃ、まずはその場でドリブルしてみましょうか」
とその場で、動かずドリブルする朝斗。
「はい」
その場でドリブルしてみる司。
「おぉ!できるっすね!じゃ、ドリブルしながら歩いてみますか」
とドリブルしながら歩く朝斗。
「はい」
司もドリブルしながら歩く。
「おぉ!いけるっすね!じゃ、軽く速度上げてみますか」
と少し早歩きをするくらいにスピードを上げる朝斗。
「はい」
同じくらいの速度でドリブルする司。
「いっすねいっすね!」
と徐々に速度を上げる朝斗。司もついていく。
「幸!スゴくね?司くん才能あるくね?」
とドリブルしながら言う朝斗に
馴れ馴れしいな
と思う幸。ゴール下、体育館の端まで走ってドリブルをした朝斗。
それを追いかけるように走ってドリブルをした司。朝斗は
「イエイ」
と手を軽く挙げる朝斗。
「イエイ」
と言いながら朝斗の手に手をあてる司。
「じゃー次はー。トリックの練習でもしてみますか」
「トリック?ですか」
「そ。たとえばねぇ〜…」
と言った後、朝斗はその場でドリブルをし、右足を前に出し、左足を後ろに下げ
その脚の間をボールを通す「レッグスルー」という技をしてみせた。
「おぉ〜。すごい」
「いえいえ。できます?」
「えぇっと?」
「まず」
とやり方を説明する朝斗。やってみる司。しかしうまくはいかない。
「あ、ち○こ気をつけてくださいね」
と言う朝斗の顔に、子どもがドッヂボールで使うようなビニールの柔らかいボールを
思い切り、そして的確に投げる幸。
「ぐぶっ」
朝斗の頬にべチン!とあたり、膝をつく朝斗。
「大丈夫ですか?」
心配する司。すっかり朝斗の
「あ、ち○こ気をつけてくださいね」
の発言など飛んでいた。
「あ、全然全然」
と笑いながら立ち上がる朝斗。
「おい幸!なにすんだコラ!」
と幸に向かって、怒る?吠える?朝斗。
「すまん。お坊っちゃまの耳に入れたくない言葉が聞こえたもんで」
「いいだろ!注意だよ!ちんk」
とまた言いかけたので、また子どもがドッヂボールで使うようなビニールの柔らかいボールを投げつける。
さっきは司に話していたので頬にあたったが、今回は幸に向かって話しているので、顔面にモロにあたった。
(ビとバの間の音)イン(ビとバの間の音)インという、ビニールのボールが跳ねる軽い音が体育館に響き渡る。
「…おいコラ」
「すまん。ほっぺにあてようと思ってたけど、朝斗がこっち向いてたから。てか避けろよ」
「嘘つけ。正確に顔面にあてやがって」
「ま、ドッヂボールだったらセーフだから」
幸は手の甲でしっしとするように「お坊っちゃまに教えろ」とする。
「ったく…。あ」
と言葉にしないように、自分の股関をポンポンと軽く叩き
「気をつけてくださいね」
と言う朝斗。
「はい」
レッグスルーの練習をする司。しばらく練習して、完璧ではないができた司。
「おぉ〜!そんな感じです。それをもっとスムーズにって感じですね。あ、こっちのほうが簡単だったかも」
と朝斗は右手でついていたボールを背中側で一度バウンドさせ
左手に移し替えるという「バックチェンジ」という技をする。
「あ、たしかにそっちのほうが簡単かもです」
とやってみる司。あっさりできた。
「そっすそっす!で、ま、これをですね?ドリブルしながら織り交ぜると」
とドリブルし歩きながらレッグスルーとバックチェンジを織り交ぜる。
「こんな感じになります」
「おぉ〜」
拍手する司。
「そんなそんな」
照れる朝斗。その後もロールターン、様々なフェイント、ドリブルの強弱などを教え
運動神経は悪くはない司は、すべて、スムーズではないがある程度できるようになった。
「ちなみに」
と言って、ゴール下に置いておいた
幸が投げた子どもがドッヂボールで使うようなビニールの柔らかいボールを幸に投げる朝斗。
ボールは幸の頭にあたる。イラッっとする幸。朝斗は幸を手招きする。幸が朝斗に歩み寄ってくる。
「あ、ジャケット脱いでピアスも外せよー。千切れてもいいならいいけどな」
とニヤッっとしながら自分の耳たぶを触る朝斗。幸はベンチに戻り
ジャケットを脱いで軽く畳んでおいて、その上に外したピアスも置いた。
朝斗に歩み寄りながら、Yシャツの袖のボタンを外し、捲る幸。
「ちなみに相手がいる状態でさっきの技を使うと」
と朝斗がその場でドリブルを始める。幸は少し前屈みになる。
朝斗は右にドリブルを切り出した。幸はそれに、少し距離を置いた状態で対応する。
朝斗はバックチェンジで右手から左手にボールを切り替え、今度は左に向かってドリブルをしようとする。
幸の手が伸びた。パスン。ダム……ダム…ダムダム…。
バスケットボールボールが床に跳ね、その間隔が狭くなり、速くなる音が体育館に響く。
「…」
「…」
朝斗はボールを拾い、ゴール下、司の近くに戻り
「ちなみに相手がいる状態でさっきの技を使うと」
と仕切り直す。朝斗がその場でドリブルを始める。幸は少し前屈みになる。
右にドリブルを切り出す。また幸はそれに、少し距離を置いた状態で対応する。
朝斗はさらに右に踏み込む。幸がそれに対応すりために、朝斗から見て右に動いたところで
ロールターンで左に回転し、左にドリブルしていこうとしたら、パスン。ダム……ダム…ダムダム…。
バスケットボールボールが床に跳ね、その間隔が狭くなり、速くなる音が体育館に響く。
「…」
「…」
朝斗はボールを拾い、ゴール下、司の近くに戻り
「ちなみに相手がいる状態でさっきの技を使うと」
と仕切り直す。パスン。ダム……ダム…ダムダム…。
バスケットボールボールが床に跳ね、その間隔が狭くなり、速くなる音が体育館に響く。
パスン。ダム……ダム…ダムダム…。
バスケットボールボールが床に跳ね、その間隔が狭くなり、速くなる音が体育館に響く。
パスン。ダム……ダム…ダムダム…。
バスケットボールボールが床に跳ね、その間隔が狭くなり、速くなる音が体育館に響く。
「おい!いい加減にしろよ!技使って抜けるところ見せないと意味ないだろ!」
「すまん。動いてるもんがあったからつい」
「猫か」
本当は朝斗にボールをあてられた腹いせだった。
「いいか。幸は突っ立ってろ」
と言われて突っ立つ幸。
「さっきの技を使うと」
バックチェンジやロールターンなどで幸を交わしていく朝斗。
「こんな感じで相手を抜くことができます」
「おぉ〜。なるほど〜」
「ちなみに、これあるじゃないっすか」
とバックチェンジをする朝斗。
「はい」
「幸、受け取れよ」
と言われる幸。
「これを左手で受け取らずに、バウンドさせずに投げることで」
と朝斗はバックチェンジの要領で背面にボールを通し
バックチェンジは1回床にバウンドさせて左手に移し替えていたが
バウンドさせずに左に投げて幸にパスをする。幸がボールを受け取る。
「こんな感じでパスができます」
「なるほど!」
「このパスは、難しいっすけど、マークについてる相手からのパスカットは十中八九防げますし
パスも通りやすいんじゃなかなぁ〜って」
「なるほど」
「ま、覚えてないおいて損はないと思うっす」
「はい」
「じゃ、次はシュート練習してみましょうか」
と司と朝斗がシュート連続を始めた。幸はYシャツの袖を直し
ピアスをつけ、ジャケットを着て体育館を出た。体育館を出た幸はコンビニに向かった。
コンビニに入ると、幸のルックスの良さ、そして浮世離れしたその服装に
コンビニの店員さん、お客さんから注目の的だった。
幸はお目当てのものをレジに持っていき、お会計を済ませコンビニを出た。そして喫煙所でタバコを吸う。
「…すぅ〜…」
口から煙を吐き出す。すると煙の向こうで目が合った。
「あ」
「…」
それは美音だった。美音はゆっくり歩いて近づいてきた。
「鷺崎くん、ここでなにしてるの?」
「挨拶もなしに本題ですか」
「あぁ。おはよう」
「朝じゃないけど」
「叩くよ?」
「暴力的なお嬢様だわ」
「で?なにしてるの?」
「…」
タバコを咥え少し考える幸。
「ねえ、なにしてんのって」
美音様はめんどくさいほど疑り深いから、本当のこと言っても勝手に嘘だって思ってくれるか
「ねえって」
と美音がずっと聞いている中そんなことを考える。タバコを右手に持って
「お坊っちゃまのバスケの練習で、そこの体育館行ってて」
と美音に言う。
「…」
ジーっという目で幸見る美音。
「…嘘ね」
「どうでしょう」
「嘘だわ。鴨条院(おうじょういん)家の跡取り息子にバスケなんてさせるわけないもの」
と美音に言われて
たしかに
と思う幸。
「美音様は?」
「私は勉強の息抜きに散歩してるのよ」
「…。自分ん家(ち)で充分でしょ」
「なんか言った?」
「いえぇ〜?自分ん家がアホほど広くて、庭に竹林あって池あって
縁側もあって、縁側で寛いだり、庭散歩するだけで充分息抜きできるのに
わざわざ外に出てくるなんてバカなのかなぁ〜って思っただけで」
「お父様に鷺崎くんにタバコの煙かけられたって言いつけるわよ」
と言う美音に、即頭を下げて
「すみませんでした」
と謝る幸。
「鷺崎くん、5年間、365日、シルフィーランドで住んでて
息抜きの散歩をシルフィーランドでしようと思う?」
「…。まあ、シルフィーランドはデカいですからね。
5年もあれば新しいエリアもできるでしょうし、飽きずに散歩できると思いますけど」
「…嘘ね。そう。毎日そこにいたら新鮮さなんてなくなるのよ」
なんか勝手に嘘だって言われて話進んだ
と思いながらタバコを吸う幸。
「だから家の外に出て、地元の街並みを見るってのが息抜きになるのよ」
「へぇ〜。そういうもんですか」
「そういうもんです」
「わがまま贅沢バカお嬢ですね」
と満面の笑みで言う幸のつま先を踏む美音。
「いっ!」
「ふんっ」
「そんな暴力的だとお坊っちゃまに嫌われますよ」
とつま先を摩りながら言う幸。
「つっ、つっ、つつつ、司がなんで出てくるのよ!」
あからさまに動揺する美音。
「なんででしょう?パッっと思い浮かんだので」
「つ、つ、司は暴力的な女の子は嫌いなのかしら」
と言う美音に
ノーマルな人なら基本的に暴力的な子は好きじゃないと思う
と思う幸。しかしここで
「そうですね。暴力的な女の子は好きじゃないでしょうね」
とでも言おうもんなら
「嘘ね!司は伸び伸びと育てられてきたのよ?
バシッっと言ってくれる子が好きに決まってるわ!」
とでも言いかねない。別に幸は美音の恋を邪魔したいわけではない。
司が傷つかない恋愛であれば、むしろ応援したいと思うほどだ。美音の場合、司のことを十中八九好きである。
もし司が美音に恋愛的好意を寄せれば、司が傷つくことなくその恋を成就させられる。
ならば美音の手助けをすることもやぶさかではない。
「お坊っちゃまはぶりっ子で、でも物静かで、作られたような性格で
もうすべてが完璧な女の子が好きらしいですよ」
と美音と真逆のことを言った。
「…嘘ね」
「ふっ」
美音に聞こえないように鼻で笑う。
「つまり司が好きなのはぶりっ子じゃなくて、多少騒がしくて、自然体な性格で
決して完璧じゃない、たまに抜けてるようなところがある女の子ってことね」
鏡鏡
と思う幸。
「ん。良い息抜きになったわ。ありがとうね鷺崎くん」
「いーえー」
と美音が軽く手を振って去っていった。幸もタバコを咥えながら美音に手を振った。
「あ、お嬢様に手を振るってあれか…。頭下げるべきだったか」
と思っていると
「こーくん」
と言われてビクッ!っとする。バッっと振り返ると帆歌(ほか)がいた。思わず咳込む。
「…ビビったぁ〜…。なにしてんだよ」
「美音お嬢様の後をつけてて」
「は?執事なんだからそんなことせずに横歩けばいいだろ」
「美音お嬢様から1人で息抜きしたいって言われたから」
「あぁ〜…。ったく、どこまでもわがままお嬢様だな」
「こーくんはなにしてたの?」
「オレはドラマの撮影。昨日スカウトされて、ホスト役で連ドラ出る」
と朝斗のことが浮かんだのでホストを絡めた嘘をついた。
「へぇ〜!すごいじゃん!」
と言う帆歌。その目を見ていたら、すべてが見透かされているような気がして不安になり
「嘘です。バスケの練習してました。戻ります。帆歌も気をつけて帰れよ」
と灰皿にタバコを入れて逃げるように体育館に行く幸。
「なんだ。お姉ちゃんと共演あるかも、って思ったのに」
と呟きながらも
「帆歌も気をつけて帰れよ」
という幸の優しさに口角が上がる帆歌。美音をつけて美音の家まで帰っていった。
「おぉ〜!おかえりぃ〜!つーくんシュートもうまくなったよ」
と幸に言う朝斗。
「馴れ馴れしい呼び方だな」
「もうつーくん朝斗くんの仲よ!ね?」
「ね?」
「仲良くなった2人に」
と幸はレジ袋を少し挙げる。
「「おぉ〜!」」
レジ袋の中身は飲み物。1リットルの紙パックの飲み物が3本。
「重かったわ」
「え、なんでピーチ水?」
「バスケのときはこれなのよ」
冗談のつもりだったが、あながち間違っていない幸。3人で並んでピーチ水を飲む。
「うんまっ」
「意外と濃いな」
「飲んだことないんかいっ!」
「あるよ。あるけどこんな濃かったっけって」
「朝斗くんってこーくんと高校生のときからの付き合いなんでしたっけ?」
「そうよん!親友!なっ!」
なにも言わない幸。
「こーくん、学校ではどんな感じだったんですか?」
「そうねぇ〜。ま、サボり魔だったね」
「さぼりま?」
司の耳元で
「さぼりまとは教室で育てていたサボテンを管理する真人間
“サボ”テンを管“リ”する“マ”人間。略してサボ理真です」
と嘘を囁く。
「もう英語とかの授業もすぐサボって屋上行ったり」
「え、サボテンって教室にあるんじゃ」
と言う司に
「陽がよくあたるように連れていってあげたんです」
と囁く幸。
「水泳もよくサボってて、あいつタトゥー入ってんじゃねーの?って噂になったくらいで。
あとは、なぜか情報通だったなー」
と言う朝斗に
朝斗がいろんなことペラペラ喋るからだろ
と思いながらも、司の耳元で
「うちの学校で、忍者の友達がいて
その友達が忍者の修行の一環としてバレずに情報収集するってことをしてて」
と嘘を囁く幸。
「へぇ〜」
「あとは陰でファンクラブがあったとかなかったとか」
司の耳元で
「お恥ずかしながらありました」
と囁く幸。※たしかに幸は女子に人気でしたが、残念ながらファンクラブはありませんでした。
そんな話をしながら休憩をし、練習を再開した。
結局その日は夕方まで練習をし、朝斗のホストの仕事もあるため
幸が家で作るんではなく、高級レストランで夜ご飯を食べることにした。
「ご馳走様です!めっちゃ美味しかったっす!今日はありがとうございました!」
レストランを出て司に感謝する朝斗。
「ううん。今日練習付き合ってくれたお礼なので。
こちらこそ本日は僕の練習に付き合っていただいてありがとうございました」
と司が頭を下げる。
「いや!オレも楽しかったし、こんなことでこんなお礼があるならなんぼでも付き合いますよ!」
ポンッ!っと胸を叩く朝斗。
「現金なやつめ」
「じゃ、また練習するときは呼んでください!お坊っちゃまのためならいつでもどこでも駆けつけますよ」
「それをお客さんに言えよ」
「おぉ、なるほど」
「じゃ、あんま無理すんなよ」
「うい。じゃ、また」
と手を振って歩いていく朝斗に手を振る司と幸。
しばらく歩いた朝斗は、ふくらはぎがピキンと痛み、転けた。それを見た司と幸。
「朝斗くん大丈夫かな」
「大丈夫です。体も心も割と頑丈なやつなので。それよりいいですか?
運動前にストレッチしないと、運動の神の怒りに触れて、あぁなります」
と朝斗を指指して言う。
「う、うん。気をつける」
と言って帰る2人だった。
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