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世間が失踪事件に揺れ、警察やメンバーが血眼で捜査を続ける裏側で、二人はこの世の楽園にいました。それは、かつて「万能調味料」と自称した演出家・向井康二さんが裏で糸を引く、完璧に仕組まれた逃避行でした。
事務所で誰よりも泣き崩れ、カメラの前で「二人が心配です」と震える声で訴えていた向井さん。しかし、その裏では冷徹な演出家としての顔を持っていました。 彼は阿部さんのハッキングの死角を突く「逃走ルート」を設計し、自分にしか分からない極秘の連絡手段で宮舘さんに指示を出していました。
「……康二、助かったよ」
「ええよ、舘さん。最高に綺麗な『愛の逃避行』、俺が最後まで撮り切ったる。誰も邪魔させへんから、翔太くんを幸せにしたってな」
向井さんの協力により、二人は追っ手を完全に振り切り、千葉県の断崖に建つ、地図にも載っていない古い邸宅へと辿り着きました。
隠れ家のすぐ下に広がるプライベートビーチ。そこは、世界で二人きりしか存在しない場所でした。 波打ち際で、渡辺さんは子供のように無邪気に海へと駆け出します。
「涼太、見て! 誰もいないよ! ずっと、こうして二人でいたかったんだ」
渡辺さんは宮舘さんの手を引き、寄せては返す波の中で笑い転げました。宮舘さんは、その濡れた渡辺さんの髪を優しく撫で、その瞳に宿る「狂気混じりの純粋さ」を愛おしそうに見つめます。
「そうだね、翔太。もう、誰も俺たちを見つけられない」 キラキラと光る水しぶきの中で、二人は現世のしがらみをすべて波に流したつもりでいました。
隠れ家での生活が始まって数日。渡辺さんは台所に立ち、鼻歌を歌いながら手際よく野菜を刻んでいました。 以前は包丁すら握らなかった彼が、宮舘さんに依存し、少しでも自分を価値のある存在だと思わせるために必死で習得した「服従の技術」。
「翔太、いい匂いだね」
「あ、涼太。……今日は、涼太が好きな和食にしてみたんだけど。どうかな?」
宮舘さんは渡辺さんの背後から腰に手を回し、彼の手さばきをじっと観察しました。 「……素晴らしいよ。野菜の切り方一つとっても、俺への愛が伝わってくる。翔太、お前は本当に最高の『俺だけのもの』だね」
「……っ、嬉しい。涼太に褒められるなら、俺、なんだってできるよ」
宮舘さんの賞賛は、渡辺さんにとって何よりの劇薬でした。彼は恍惚とした表情で、自らのアイデンティティを宮舘さんの好みに捧げていくのでした。
夜。部屋の中央に鎮座する、真っ白なキングサイズのベッド。そこは二人にとって、この世で最も神聖な儀式の場でした。 窓の外で荒れ狂う潮騒の音が、二人の体温をさらに高めていきます。
「……涼太、俺を全部、食べてよ。骨の髄まで、あんたのものにして」
渡辺さんは縋るような瞳で宮舘さんを見上げ、その腕の中にすべてを預けました。 宮舘さんは、渡辺さんの白い肌に、まるで自分の署名を刻みつけるように、深く、激しく愛を注ぎます。 それはもはや単なる愛愛ではなく、魂と魂が溶け合い、境界線が消滅していくような「同化」の儀式でした。
シーツに散らばる二人の影。
「愛してるよ、翔太。……死ぬまで、この檻から出さない」
「うん……、ずっとここにいたい。涼太、大好きだよ……」
夜が明けるまで、二人は互いの存在を確認し合い、外の世界で自分たちの仲間たちが絶望していることなど、一瞬たりとも脳裏をよぎることはありませんでした。