テラーノベル
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いつも、これで最後にしようと思うのに、気が付くとまた、ここを訪れてしまう。こんなことがもしもメンバーや世間にバレたら、大変な事になるというのに。
けれど、その逢瀬はとても淫らで、これ以上ないほどに甘美で、容易に虜になってしまうのだ。
その会員制のクラブは外からは決してそれとはわからないようなところにあった。
中にいる人々は皆正装で、顔の半分を覆う様々なデザインの仮面を着けていたので、互いに誰なのかはわからなかった。噂によると、ここには各界の著名人たちが多く通っているらしい。もちろん宮舘自身も、その内の一人に入るだろう。 興味本位で訪れて以来、彼は何度もここへ足を運んでいた。
奥にあるVIPルームのドアの前に立つと、そこにいたスタッフがそっと仮面の上から絹の目隠しを施してくる。視界が塞がれると、聴覚、嗅覚、触覚が一気に開かれる気がした。
ドアが開かれ、中へ一歩進むと、誰かが宮舘の手を取った。そのまま手を引かれていく。短い廊下を進み、またドアが開閉する音がした。
そこは、それほど広い部屋ではないと思う。歩く時の靴音の反響から、そんな気がした。室内にいるのは、宮舘と、宮舘の手を引くこの男だけだ。それも、視覚以外の感覚からそう感じた。
「………」
コトリ、と微かな音。目の前の男が、仮面を外してどこかに置いたのだと思う。
それからいつも通り、吐息がかかると感じた瞬間には、もう唇が塞がれていた。
しばらく、辺りには乱れた呼吸と粘膜が触れ合う濡れた音だけが響く。それだけで、頭がくらくらしそうに快楽を感じた。まるで酒に酔った時のような気分だ。
ベッドの上に押し倒され、肌を撫でられ、敏感な場所を順番に愛撫される。内腿のあたりに少し強めに噛みつかれると、ビクリと腰が震えた。次第に声を抑えるのが難しくなり、宮舘は手の甲を唇に押し付けた。
衣服を半分くらい脱がされた状態で繋がり、思うままに揺さぶられると、口を抑えていても鼻に抜ける喘ぎ声だけは抑えきれなかった。
後ろからぎゅっと抱き締められ、長い指先が口の中に入ってきて、舌を弄ばれる。今度は、肩のあたりに噛みつかれる。くぐもった声と一緒に漏れた涎が顎を伝っていく。一定のリズムを刻んでいた腰つきが一層強くなり、宮舘の欲望が弾けたかと思うと、同時に身体の奥に熱が迸しるのを感じた。
「……っ」
宮舘がシーツの上にぐったりと横たわって乱れた呼吸を整える間に、男は宮舘の身体や周囲をきれいにし、身支度を整える。衣擦れの音からそう感じ取る。
全てが終わると、男は宮舘の唇にひとつキスを落として部屋を出て行ってしまった。
彼は一体誰なのだろう。
もちろん、そんな疑問は当然のように宮舘の中に存在した。
触れ合う間、匂いだけを頼りにそれを探り、結局は誰だかなんてわかるはずもなかったが、不思議と嫌な気はしなかった。
彼に会えない時は、ドローイングルームで数杯酒を飲むだけで帰った。
情事の際に噛みつかれた場所は跡が残るほどで、その後数日は痣も痛みも消えなかったが、人から見えるようなところを噛まれることはなかった。
「いっ…」
その夜は、脇腹に思い切り噛みつかれて、思わず声が漏れた。
ふ、と吐息だけで男が笑ったのがわかった。
手探りで、彼の胸、肩、首筋を辿り、頬に手を添えてキスを求める。ちゅ、と小さな音を立てながら何度も唇を重ね合う。互いの舌と舌を擦り合うだけで、これ以上ないほどに身体が熱くなった。
後ろから貫かれ、はあはあ荒い呼吸を繰り返しながら、やはり手探りで男の腕を掴んで、その手の甲と手首の境あたりに宮舘も思い切り噛みついてやった。いつもされるばかりだなんて、気に入らない。
「……っ!」
その痛みになのか衝撃になのか、男がビクリと震えた。 それでも声を出さない姿には感心した。そんな宮舘のいたずらを咎めるかのように、腰を強く押さえつけられ、律動が激しくなった。
「ああ…っ」
悲鳴にも似た声が、堪えきれずに零れ落ちた。
「…… って、知ってる?」
楽屋の中、阿部から突然声をかけられて、宮舘は顔を上げた。
「え? ごめん、何て?」
「マスカレードクラブ。会員制のクラブなんだって。中にいる人全員仮面で顔を隠してるらしい」
「へえ」
「舘さん、そういうの好きそうだなって思って」
「何でだよ」
「貴族の遊び、って感じだから」
アイスアメリカーノのプラスチックカップを片手にそう言って笑う阿部。
「行ってみてどうだったか教えてよ」
「えっ、俺が? んー…行ってみようかなぁ」
阿部は、ふっかと一緒に行ってみようかな、などと言いながら今度は深澤に話しかけに行ってしまった。残念だけど、あそこは同伴入店は禁止だ。
そろそろ潮時ということなのだろうか。店内で阿部や他のメンバーと鉢合わせるなんて御免だった。
あらゆるしがらみを解き放つことのできる、あの場所が気に入っていたのに。あの倒錯的な逢瀬も、これで終わりということだろうか。
そんなことを考えていると、また隣に人影が落ちた。
「舘さん、おはよう」
「ああ、おはよう」
目黒だった。眠そうな瞳でそこに腰掛け、今にもテーブルに突っ伏して寝てしまいそうな様子だ。
「寝てないの?」
「昨日はちょっと遅かったかも」
左手で頬杖をついた目黒が、気怠そうに微笑む。
「舘さんは、ゆっくり、眠れた?」
一語一語丁寧に発せられたその言葉は、どこか含みがあった。小さな違和感を感じながらも、表情を崩さずに答える。 昨日は…。
「うん」
短く言って目を伏せると、テーブルの上に無防備に投げ出された目黒の右手が目に留まった。
その瞬間、心臓が跳ね上がった。
目黒の手の甲と手首の境目あたりに、大きな絆創膏が貼られている。どうして、そんなところに。
不意に脇腹の噛み跡が疼いた。
「ねえ、目黒、…その手、どうしたの?」
精一杯のポーカーフェイス。内心恐る恐る、顔を上げる。
目黒はにっこりと笑っていた。その右手に頬を撫でられる。
微かに唇が震えた。
「…さあ。かわいい猫にでも噛みつかれたかな?」
コメント
8件
し、仕事が早い!😳 手首に噛み付いたところで噛み跡でバレるのかな…とわくわくしていましたが、バレ方が想像以上でした!可愛い猫って言い回しがまた良いですね🫣 🖤が一枚上手でそれもまたたまりません🥺
良いです〜🌹
うわ最高🖤❤️